魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

31 お花つみ

 




「(トントントン)」

 えーと、クロネギは30トルメロー――約3センチ――くらいに切って……あ、アカソミの実ってどこだっけ? 確かここの棚に……

「ん、アカソミのいい匂いがする」

「おはよう、お母さん。もうすぐ朝ごはんができるから、ちょっとまってて」

「あぁ、ありがとう。ユーリ」

 お母さんは席に着くとニコニコとして、俺を眺めているようだ。最近は母さんに料理を教えてもらい、朝ご飯は俺が作っている。

 料理は面白い。一つ一つ手間をかけて作ると、それだけ美味しくできる。これは魔法と同じだと思う。魔力の流れを一つ一つ丁寧に流せばそれだけ魔法は強力になる。

「はい! おまたせ、お母さん」

「んっ、美味しそうだ!」

「「いただきます」」





 ***





 今日は土の月18日。俺が8才になってちょうど1ヶ月が経った。昔より見える世界が少し変わった、そんな風に感じる。単純に背が伸びたとか、できることが増えたとかだけではない。

 精神的にっといったら若干違う――そもそも、転生しているので精神は大人だし――と思う。でも、変わったのだ。俺はこの異世界せかいに溶け込み始めているのかもしれない。

 ここには俺の求めていた世界ものがあり、俺を受け止めてくれる人がいる。俺の心の中には失いたくない大切なもの――昔ならあるはずもなかったもの――が一つ一つ増えていた。

「キュ、キューウ!」 (あ、ユーリくんだ!)

 目の前には、可愛い可愛い子龍が翼をパタパタさせて俺に向かってきている。その見た目は保護欲を掻き立て、思わず抱きつきたくなってしまう。

「おはよう! セレーナ」

「キュウキュウ」 (おはよーう)

 少し間延びした返事だが、いつも通りのセレーナだ。

「今日はなにする?」

「キューウ、キュウキュウ」 (うーん、お花つみがいいー)

 お花摘みね。んーなら、あそこがいいかな。色々な種類の綺麗な花がたくさん咲いてるし。お花摘みにはもってこいなところだ。

「うん! いいよ」

「キュウキュウ!」 (ふふふ、ありがとう!)

「おーい! ユーリー、セレーナー」

 あ、アニモだ。今日はお店のお手伝いはないのかな?

「おう! 今日は店の手伝いがないからあそぼうぜ!」

「うん! いいよっ。セレーナもいいよね?」

「キュウ!」 (うん!)

 二人にOKをもらったアニモは嬉しそうに見える。アニモは普段、店の手伝いが忙しく中々遊べない。遊べるときは遊びたい。それは子供の気持ちとして、極々自然なことだろう。

「ありがとよ! ……で、なにすんだ?」

「「お花つみ(キュウキュウ)」」

 俺とセレーナは息ピッタリに言う。仲のいい証拠だ。『シンクロ率98.8%に達しました』

 な、なんだって!? っというおふざけはいいとして……。

「お、おう」

「よし、なら出発だ!」

「キューウ」 (はーい)

「おう!」





 ***





「セレーナ、これあげるね! はい」

 俺は花で編んだ冠をセレーナの頭にのせる。我ながら上手くできたと思う。

「キュウっ、キューウ!」 (うふふっ、ありがとう!)

「うん! かわいいよ、セレーナ!」

「キュウっ(ボフンッ)……」 (あぅっ(ボフンッ)……)

 セレーナの頭から煙のようなものが出たような気がしなくもないが、まぁいいか。たぶん、喜んでくれているだろう。

「お、これはキュア草だな! おっ、ここにも! くふふ、こづかいがかせげるぜ!」

 キュア草は傷薬や、回復薬と呼ばれるものに使われる材料だ。多くあって損はないため、小遣い稼ぎに集めて売る人もいる。

 ……さすが商人の息子。ちゃっかりしてるよ。

「キュウキュウ」 (ねぇねぇユーリくん)

「ん? どうしたのセレーナ」

「キュウ! キュウキューウ」 (はい! ユーリくんにあげるね)

「ありがとう!」

 かわいい花だ。淡いピンクの花びらはハートの形をしている。

 確かこれは……『ピュアコール』っていう花だっけ。花言葉は「純粋な愛情」って意味だった気がする。セレーナは知ってるのかな? 教えてあげたら返してって言われそうだから、黙っておこう。

「キュウキューウ」 (お花つみ楽しいね)

「うん、そうだね!」

「おぉー! ハイキュア草だ! ぐふふっ」

 アニモはほどほどにしろよ……。





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