魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

26 うごかす

 




「はっ! やっ! せいっ!」

 俺は迫り来るお母さんの猛攻を何とか避けながら、こちらからも攻撃を仕掛ける。だが、お母さんはそれを飄々ひょうひょうと避けていく。

 あたらない! なら、こっちは……ここからなら……くっそー! 全然あたらない!

「右、左、右、上、下……よしっ、そうだ! いいぞ、ユーリ!」

「はぁはぁ……ぜんぜん、おかあさんのうごきがよめない」

 本当に何でこんな動きができるんだろう?

「ユーリ。動きを読むのではなく、相手を動かすんだ」

「うーん、わかった。がんばる」

 相手を動かす……動かす……動かす……んー、とりあえずやれるだけやるしかない!

「こい! ユーリ」

 俺は頷き、お母さんに向けて構える。息を整え、まず正面に狙いをつけて走り出す。もちろん、それだけではお母さんにカウンターを食らうだけなので、お母さんの間合いに入る直前に右に方向転換する。

 先ほどまで俺がいた所にはお母さんの脚があった。俺は意識を戻し、側面から攻めることにする。

 軽く飛び、上段蹴りをする。しかし、お母さんは体勢を直ぐに戻すと、少し下がり蹴りを避けた。俺はすぐさま、攻撃を拳に変える。右、左と交互に打ちつけるが全ていなされる。

 俺は着地し、一度距離をとる。

 隙がない……うーん……なら!

 俺はクラウチングスタートで走り出す。ギアを2段階上げ、勢いをつけてお母さんに拳を突き出すように飛ぶ。

「スピードはあるが、動きがまるわかりだぞ」

 お母さんは左足を引き、半身を下げて避ける。

 ここで終わる俺ではない。俺はお母さんとすれ違いざまに魔力を具現化させる。背中から溢れ出る蒼い色をした魔力は、俺の意思に従いお母さんのもとへ何本ものロープのようになって伸びていく。

 ロープのようになった魔力はお母さんの腕や胴にクルクルと巻きついて離さない。

「ん?」

 俺は巻きつけた魔力を再び体の中にしまい込むように引き戻す。お母さんは引き戻される勢いで前に重心が崩れ、一歩足が前に出る。俺は魔力を引き戻した反動を使い、空中で無理やり体を動かすと、ボレーシュートの体勢をつくる。

 お母さんと俺の体が近づく。このままいけば俺の脚がお母さんにあたるはずだ。そう、動かないなら無理やり動かす作戦だ。意味が違うんじゃないかと思うが気にしない。

 ――あたれ!





 あ、勢いが足りたない……。

 俺はそのままお母さんに飛び込み、受け止めれる。お姫様抱っこ状態だ。

「ふふ、魔力を使ってはいけないとは言っていなかったな。少し驚いたぞ。だが、少し詰めが甘かったな」

「うっ……」

 くそー、あとちょっとだったのに……。まぁ、魔力を組み込んで戦うのはありだってわかったしいいか。

「……それと、大きくなったな、ユーリ。ついこの間まで赤ん坊だったのになぁ。子供の成長は早いものだ」

 そうなのかな? 自分だとわからないよ。でも、毎日が楽しくてしょうがない!

「よし、武術はここまでにするか」

「あれ? けいこ、おわっちゃうの?」

「いや、今日は魔術についてやろうと思ってな」

 魔術! やったー! ずっと武術ばかりだったから、うずうずしてたんだ。

「なになに! なにするの?」

「お、落ち着けユーリ。とりあえず一回降ろすぞ」

 あ、そっか。今、抱っこされてる状態だった。ちょっと懐かしいけど、やっぱり恥ずかしい……。

 俺は心地よさと気恥ずかしさの中、ゆっくりと地面に足をつける。あらためて、自分がまだ子供だということを感じるのであった。





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