魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

20 眠りの夜と始まりの灯火

 




「皆、よく集まってくれた! 感謝する。今日は一年の最後『眠りの夜』じゃ。皆、今日までよく頑張ってくれた! 互いの奮励ふんれいを労い、讃え、森の恵みに感謝して、この豪勢な料理を楽しむのじゃ!」

『わぁぁー!!』





 ***





「ユーリ、取れるか?」

「うん! じぶんでとれるよ」

「そ、そうか」

「セレーナはとってあげるわねぇ」

「キューウ!」 (まま、ありがとう!)

 俺はお母さん、ラルージュさん、セレーナちゃんと同じテーブルでご飯を食べている。

 俺の大好きなポークバードのソテーや木の実をふんだんに使ったサラダ、メコンソの実のスープ、ロックボアのハンバーグ、ミルキー米とキノコの炊き込みご飯など他にも沢山の料理が並んでいて、本当に豪華だ。

「おいしいね、おかあさん!」

「そうだな! ユーリ、実は私も手伝ったんだぞ」

「そっか! だからおいしんだね!」

「ふふ、美味しいか。ユーリは嬉しいことを言ってくれるな」

「アーテルちゃんはお料理が上手で羨ましいわぁ」

「キュウキュウ」 (おいしいー)

 セレーナちゃんは目一杯、料理を楽しんでいるようだ。

 そんなこんなで宴は騒がしくも、笑い声が絶えず続く。そして夜が深まり、星が綺麗に見えるほど辺りが暗くなる。

 子供たちは眠いことを忘れていたかのように、目をこすりだす。大人たちはというと、まだ酒を片手に語り合っているらしい。

「ふぁー……」

「キューウ……」 (ふぁー……)

 何だか眠くなってきた……。セレーナちゃんも眠そうだなぁ……。

「アーテルちゃん、私たちは一度この子たちを寝かしに家に戻りましょう」

「そうですね。ユーリ、歩けるか?」

「うん……」

 周りを見渡すと他の子も家に帰るらしい。俺は宴の高揚感と睡魔の綱引き状態の中、何とかトボトボと歩きだす。

 名残惜しさから後ろを向き、宴をしている広場を見る。

 集落を照らす灯りはどこか温かくて、まるで小さい頃に見た煌めくイルミネーションを思い出す。キラキラとした光景に、少しだけ懐かしさを覚えるが嫌な気はしなかった。

「どうした? ユーリ」

「ううん……なんでもない!」

 だって俺が今いるのは大好きなみんながいるこの世界ここなのだから……。





 ***





「……うぅーん……あれ?」

 あーそうか、家に帰って寝てたのか。

 俺は寝惚け眼で窓を見ると、まだ外は暗いようだ。

「……ユーリぃー! まてー、私は許した覚えはないぞぉー……グスッ……母さんを残して結婚なんて……(スゥースゥー)」

 うわっ! びっくりした……ん? お母さんは一体どんな夢を見ているのでしょうか……まぁ、大丈夫だろう、うん。

 横で寝ていたらしいお母さんの突然の寝言で、すっかり目がさめる。

 外でも覗いて見るかー。みんなはどうしてるのかな?

 俺はベッドからお母さんを起こさないように静かにでる。

「……(スゥースゥー)」

 ふぅー、大丈夫みたいだ。よし、行ってみよー!

 俺は家のドアを開け、外へ出る。空は暗いが真っ暗というほどではなかった。周りを見渡すと、集落中の灯りが消えていることに気づく。

 そっか、『眠りの夜』が終わったから宴も終わったんだ。もうちょっと宴したかったなぁ……また来年かー。来年は寝ないぞ!

 心の中でそんな決意をしていたそのとき……

「皆、天を見上げよ! 火が灯るときじゃ!」

 長の声が集落中に響く。俺はその声を聞き、空を見る。そこには先ほどの暗さはどこにいったのか、薄い青色の空が現れていた。

 ――あ。

 一筋の光が集落に射す。その輝きは眩しく、目が開けられない。光は徐々に世界すべてを照らすべく拡がる。それはまさしく、火を灯しているようだった。

 これが『始まりの灯火』……そういうことだったんだ。





 世界にが灯り、俺たちは新たな年を迎える……。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品