魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

3 黒龍

 地に降り立ったドラゴンの足には、あのオオカミが踏みつけられていた。しかし、オオカミはまだ生きてるらしく、うなりながらドラゴンを睨み付けている。

 ドラゴンの龍鱗は、光をも飲み込んでしまいそうな漆黒。翼は空を統べる者の証と言わしめ、琥珀色の眼はどこまでも鋭く、その眼光から逃れることはできない。

 そんなドラゴンに踏みつけられているオオカミは、次第に戦意を喪失させ、その目には諦めの色が浮かんでいる。

 ど、ドラゴン恐るべし……。

 俺は初めて見る異世界の、それも、ドラゴンに恐怖を感じながらも興味津々といった感じで、観察している。

 うわぁー、本当の本当にドラゴンだ。それにしても、大きい。赤ん坊になったから余計にだけど、ビルの3、4階くらいの高さはあるか? あのドラゴン、目がきれいだなぁ……

 って、あれ? なんか目が合っちゃってるような……。やべ……あ、汗が止まらないよ?

 ドラゴンが俺から視線をそらし、再びオオカミへと戻すと、踏みつけている足を緩め短く威嚇する。オオカミは素早く体勢を戻し、そそくさとその場から立ち去った。

 あ、食べないんだ。あ、あれか、ここの主とか。

 ドラゴンの首が、こちらへと向く。そしてゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 えーと、まずい。さっきより恐怖心が、斜め上どころか垂直上方向に上昇中だよ。ドラゴンさん、ボクハ、オイシクナイデスヨ。

 ドラゴンにそんなことは伝わることはなく、もう眼前へと近づいていた。

 あぁ、俺の人生もここまでのようだ。まぁ、魔法が見れて、体験できたから悔いはないかな。次は、大賢者に生まれ変わりたいなぁ……。

 感傷に浸っていると、目の前にいるドラゴンが突如、光り出す。不思議とその光は、眩しくはない。キラキラと……そんな風に表現するのが適切だ。

 光が収まると、そこには……若い女の人。いや、美女がいた。

 髪は一つに結ばれ、その黒い髪は艶があり、その黒さに引き込まれそうになる。透き通った琥珀色の瞳が、その人物の正体を教えてくれる。

 この女の人は――龍人。

 確証なんてないが、自分の答えが正しいと思えた。

 おもむろに龍人さんが、俺のことを抱き上げる。目と目が合う。

「この赤ん坊は……!? すぐさま集落に戻り、長に報告をしなければ……それにしても、可愛いなお前」

 え、あ、ありがとうございます! 美人に褒められると
 照れるなぁ……じゃなくてっ! 喋れるみたいだし、てか日本語? いや、違うな。俺が美人さんの言葉を理解してるのか。

 集落って言ってるし、他にも龍人がいるのか? わからないことが多い。とりあえず、この人は俺に対して敵意がないことはわかる。

「ちょっと怖いかもしれないが、我慢しててくれ」

 龍人さんがそう言うと、俺の体の向きが180度変わる。

「求めるは飛翔。我よ空を翔る者となれ」 『フライ』

 そのとき何かが、俺たちを包む。そして……

「行くぞ」

 龍人さんがジャンプすると、俺たちは森を見渡せる高さまで飛び・・浮いて・・・いた。

 こ、これが魔法っ! うぉー!! すげぇー! あ、でも、ちょっと高いか――もぉー!?

 いきなり、速度を上げて前進を始めた龍人さん。今の俺にそこまでの対応力もなく、あっさり意識は飛んでしまうのであった。





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