召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ 明琳の夢
体内で二つの種がせめぎ合っている。
生きたい命と、遺された未練が喧嘩を始めている。新しい種の息吹は遠い銀河からようやくたどり着いた命。もう一つは何としても生まれたい居座っちゃった未練の塊。
「喧嘩しちゃだめですよ!」
明琳は飛び回る二つの種に翻弄されていたが、それも疲れて座り込んだ。
その時、二つの耀が明琳の前を横切った。
『あら、もうネをあげるの?ちゃんと光蘭帝さまの種を護りなさい!』
『いや、東后妃さまを産んでもらわねば』
その種はやがて蝶華と准麗になり、二人はいつものように言い合いを始めてしまう。
『冗談じゃないわ!あたしがどんな苦労して光蘭帝の種を受け取ったか知らないのでしょう!これだから男って冷たいのよね』
『女ほど醜悪なものはないだろうが!…だが、東后妃さまは別だ』
『ババコン』
『バ…?!お、おまえはどうなんだ。その趣味の悪い種!ずっと腹に隠し持って!』
ちょ、……!
明琳は思わず叫んだ。
「人の体内で喧嘩やめて下さい!蝶華さま、准麗さま!」
二人は顔を見合わせ、そうね…と言ってお互い背中を向けた。
「もう!どうしてすぐに喧嘩ばかり!明琳、苦しいんですから!暴れないで下さい!」
『泣きながら言わないで下さる?……相変わらず馬鹿ね、あんたは』
蝶華と准麗。
二人の懐かしい姿に明琳は涙を堪えられなかった。その明琳の前で蝶華が手を差し出す。
『寄越しなさいよ』
二つの種を手に右往左往の明琳は蝶華を見上げた。
『あたしたちが引き取ってあげるから。……無理でしょ?あんた、仙人たちに怨霊押し付けられたの!お人好し!…それは東后妃さまなんかじゃないわ。女の未練よ』
明琳は手の中でとくとくと云う塊を見つめた。
ふと、蝶華が大切そうに下腹を押さえているのに気が付く。
「蝶華さま…おなか・・・押さえてる・・・」
『あたし、ちゃんと、白龍公主さまの種を受け取ってたわ。白龍公主さまは、物凄い力で死んだ私を抱きしめてくれた。嬉しかったな。その時に、奪っちゃったみたい。死んでもあたしは白龍公主さまが好きってことね』
准麗が嘆息したのを横目でにらんで、蝶華は微笑んだ。
『だから、もうなあんにも要らないの。……あんたも、光蘭帝さまの子を…』
「なら、これは両方わたしが受け止めます。…わたしの中に宿った命です」
「でも、あんたはあの地獄から逃げ出せなくなるのよ?」
明琳は首を振った。
「もう、後宮が逃げられない地獄だなんて、思えない。大好きな人となら、荊の道だって、瓦礫の山だって越えて行けるんです、きっと」
二人はもう何も言わなかった。
「ここで生きて行くために何が出来るか考えます。逃げまくりだった光蘭帝さま、逃げることしか出来なかったわたし。だから、今度は逃げません。光蘭帝さまも逃がしません」
「そう・・・せっかく待ってたのに・・・あんたは一緒に傷ついて生きてくのね」
「はい。わたしは光蘭帝さまと共に生きるんです」
蝶華が明琳を抱きしめた。その頭に頬を摺り寄せて、しっかりと告げる。
「あんた、いい女になった!あたしみたいな・・・きっともっといい貴妃になれるわ」
ね?とかつての貴妃が嫋やかに微笑む。
子供だった明琳にもやがて大人の女性への変化が訪れる。それはおばあちゃんが残してくれた素晴らしい輝きにも等しい。
ふと、蝶華と准麗の後ろの樹がゆっくりと動いた。いくつもの泉に光を落して、静かにその光は宇宙に飛び立ってゆく。もしかすると、命は彗星のように身体に流れて来て、愛する人と一緒に生きて行こうとする輝きなのかも知れない。
蝶華と准麗が同時にその光芒に躰を向ける。
「蝶華、准麗さま!―――――ありがとう!」
帰りなさい、と蝶華の声がする。あんたを待ち焦がれている人がいるのだからと。愛してれば、いくらでも、やり直しはきくもの・・・それなら、自分と光蘭帝さまは生きて行ってもいいという事だ。
(そうだよね、おばあちゃん―――――…明琳は、今度こそしっかりと生きていきます。あの後宮で)
―――――今度会う時は、蝶華じゃなくて、呂妃、芳准と呼んでよ。
最期に准麗の声が響いた。
「結局奪い合いは嫌だと言ったおまえが奪ったんだ。きれいごとだけじゃ、生きて行けないと分かっただろう……それでも、光蘭帝さまを奪ったのがきみで良かったと思う」
奪ったんじゃない。
いや、奪ったのかな?
明琳はその溢れるばかりの泉に消える二人を見送った。さて、わたしも帰ろう。
・・・怖いけど、ゆっくりと、帰ろう。
「ね?」
何が出来るのか。お饅頭娘が出来ることを考えつつ。ふと明琳は気がついた。
(何だ。簡単な事だった・・・生きてくって。難しく考えたけれど、悩んで、一生懸命考えればいいんだ)
手の中にある饅頭を見つめた。
―――――わたしはたまたま饅頭に心を込めたけれど、人ぞれぞれきっと違う。
光蘭帝さまは、きっと自分に心を込めて、そして抱いてくれた。
さて、わたしが出来ることは何だろうーーーーー?
ふと振り返った時、大きな宇宙樹がまるで応援するかのように光り、白く輝いていた。
生きたい命と、遺された未練が喧嘩を始めている。新しい種の息吹は遠い銀河からようやくたどり着いた命。もう一つは何としても生まれたい居座っちゃった未練の塊。
「喧嘩しちゃだめですよ!」
明琳は飛び回る二つの種に翻弄されていたが、それも疲れて座り込んだ。
その時、二つの耀が明琳の前を横切った。
『あら、もうネをあげるの?ちゃんと光蘭帝さまの種を護りなさい!』
『いや、東后妃さまを産んでもらわねば』
その種はやがて蝶華と准麗になり、二人はいつものように言い合いを始めてしまう。
『冗談じゃないわ!あたしがどんな苦労して光蘭帝の種を受け取ったか知らないのでしょう!これだから男って冷たいのよね』
『女ほど醜悪なものはないだろうが!…だが、東后妃さまは別だ』
『ババコン』
『バ…?!お、おまえはどうなんだ。その趣味の悪い種!ずっと腹に隠し持って!』
ちょ、……!
明琳は思わず叫んだ。
「人の体内で喧嘩やめて下さい!蝶華さま、准麗さま!」
二人は顔を見合わせ、そうね…と言ってお互い背中を向けた。
「もう!どうしてすぐに喧嘩ばかり!明琳、苦しいんですから!暴れないで下さい!」
『泣きながら言わないで下さる?……相変わらず馬鹿ね、あんたは』
蝶華と准麗。
二人の懐かしい姿に明琳は涙を堪えられなかった。その明琳の前で蝶華が手を差し出す。
『寄越しなさいよ』
二つの種を手に右往左往の明琳は蝶華を見上げた。
『あたしたちが引き取ってあげるから。……無理でしょ?あんた、仙人たちに怨霊押し付けられたの!お人好し!…それは東后妃さまなんかじゃないわ。女の未練よ』
明琳は手の中でとくとくと云う塊を見つめた。
ふと、蝶華が大切そうに下腹を押さえているのに気が付く。
「蝶華さま…おなか・・・押さえてる・・・」
『あたし、ちゃんと、白龍公主さまの種を受け取ってたわ。白龍公主さまは、物凄い力で死んだ私を抱きしめてくれた。嬉しかったな。その時に、奪っちゃったみたい。死んでもあたしは白龍公主さまが好きってことね』
准麗が嘆息したのを横目でにらんで、蝶華は微笑んだ。
『だから、もうなあんにも要らないの。……あんたも、光蘭帝さまの子を…』
「なら、これは両方わたしが受け止めます。…わたしの中に宿った命です」
「でも、あんたはあの地獄から逃げ出せなくなるのよ?」
明琳は首を振った。
「もう、後宮が逃げられない地獄だなんて、思えない。大好きな人となら、荊の道だって、瓦礫の山だって越えて行けるんです、きっと」
二人はもう何も言わなかった。
「ここで生きて行くために何が出来るか考えます。逃げまくりだった光蘭帝さま、逃げることしか出来なかったわたし。だから、今度は逃げません。光蘭帝さまも逃がしません」
「そう・・・せっかく待ってたのに・・・あんたは一緒に傷ついて生きてくのね」
「はい。わたしは光蘭帝さまと共に生きるんです」
蝶華が明琳を抱きしめた。その頭に頬を摺り寄せて、しっかりと告げる。
「あんた、いい女になった!あたしみたいな・・・きっともっといい貴妃になれるわ」
ね?とかつての貴妃が嫋やかに微笑む。
子供だった明琳にもやがて大人の女性への変化が訪れる。それはおばあちゃんが残してくれた素晴らしい輝きにも等しい。
ふと、蝶華と准麗の後ろの樹がゆっくりと動いた。いくつもの泉に光を落して、静かにその光は宇宙に飛び立ってゆく。もしかすると、命は彗星のように身体に流れて来て、愛する人と一緒に生きて行こうとする輝きなのかも知れない。
蝶華と准麗が同時にその光芒に躰を向ける。
「蝶華、准麗さま!―――――ありがとう!」
帰りなさい、と蝶華の声がする。あんたを待ち焦がれている人がいるのだからと。愛してれば、いくらでも、やり直しはきくもの・・・それなら、自分と光蘭帝さまは生きて行ってもいいという事だ。
(そうだよね、おばあちゃん―――――…明琳は、今度こそしっかりと生きていきます。あの後宮で)
―――――今度会う時は、蝶華じゃなくて、呂妃、芳准と呼んでよ。
最期に准麗の声が響いた。
「結局奪い合いは嫌だと言ったおまえが奪ったんだ。きれいごとだけじゃ、生きて行けないと分かっただろう……それでも、光蘭帝さまを奪ったのがきみで良かったと思う」
奪ったんじゃない。
いや、奪ったのかな?
明琳はその溢れるばかりの泉に消える二人を見送った。さて、わたしも帰ろう。
・・・怖いけど、ゆっくりと、帰ろう。
「ね?」
何が出来るのか。お饅頭娘が出来ることを考えつつ。ふと明琳は気がついた。
(何だ。簡単な事だった・・・生きてくって。難しく考えたけれど、悩んで、一生懸命考えればいいんだ)
手の中にある饅頭を見つめた。
―――――わたしはたまたま饅頭に心を込めたけれど、人ぞれぞれきっと違う。
光蘭帝さまは、きっと自分に心を込めて、そして抱いてくれた。
さて、わたしが出来ることは何だろうーーーーー?
ふと振り返った時、大きな宇宙樹がまるで応援するかのように光り、白く輝いていた。
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