召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~⑧-⑤
明琳はがくりと膝をついた。腹の中が焼かれるような痛みに悲鳴を隠せない。
「きゃあああああああああああああああ」
「ふん、当たり前だ。…私の種を体内に入れた上、光蘭帝の種も……。奪うのは嫌だ? ふざけるんじゃないよ! この小娘! 結局」
言葉が尽きた遥媛公主がとうとう地面に膝をつき、頽れた。
「僕の天帝への夢が……あんな小娘に……」
「饅頭に埋め込んで喰った。ク……見事な幕引きだ。ハーハハハハハハ!」
白龍公主が高らかに笑い声を上げる中で、明琳はおやすみと言うように瞼を閉じ、光蘭帝の平手が明琳に炸裂した。とろんとした瞳を再びあけた明琳は目の前で血だらけになっている皇帝をぼんやりと見上げる。
「わたし、死ぬの………」
「何て馬鹿な事を!……ああ、そなたは馬鹿だ!……何故、そなたは自分を大切にしない!」
「…ってばっか…り…」
「聞こえぬよ!」
「怒ってばっかり!って言ったんですっ……ねえ、飛翔さま」
明琳はそっとお腹に手を当てた。
「わたしね、もし、光蘭帝のお母さんが生まれても、ちゃんと、愛せると思いますよ?でも、もう身体が動かないんです……でも、これだけは、わかる。幸せ、見つけちゃいました」
小さな手が光蘭帝の目元をゆっくりと撫ぜた。
「蝶華さんが言ってた…自分のために泣いてくれると救われる…今、わかりました……」
「やめろ」
光蘭帝は首を振り、子供のようにいやいやを繰り返した。目前では座り込んだままの遥媛公主に白龍公主が笑って声をかけている。
「……さて、遊戯は終いだ。思わぬ結末を有難う。……俺は天界へ戻るとする」
「そいつ、死ぬよ」
口惜しそうに遥媛公主が言い捨てた前で、光蘭帝が准麗が残した長剣を握りしめて立ち上がった。二人の華仙人がぎくりと肩を震わせる。
光蘭帝は准麗と同じように長剣を構えて、涙を零しながら二人を怒鳴る。
「………遥媛公主、白龍公主……そなたたちはもはや用なしだ! 羽衣を持ってさっさと消えろ! 私の武闘の腕は知っているな」
聞いた事のない低い声で、光蘭帝は喘ぐ明琳を抱きしめ、また剣を突き出しながら、きっぱりと言い放った。
「今後この宮殿、いいや、この地上に現れようものなら、私が叩き切るぞ!」
怖いねえ…と白龍公主が力が抜けて動けない遥媛公主の腕を引き、立ち上がらせた。
「放心してんのか? 散々策略しておいて、負ければこれか。結局女より男のが強い。俺は貰うべきものを貰って帰るとするか」
よいしょ…と蝶華を抱き上げ、白龍公主はちらりと光蘭帝を見やった。
「こいつ、連れて行くぞ。天界には、こいつの好きな蓮華の園があるからな……それにこいつの羽衣を引きはがすのは天界でいいさ。羽衣代わりに抱いて俺は帰る」
そんな会話を聞きながら、明琳は何度も突き射すような痛みで顔を顰め、光蘭帝に捕まって、それでも気丈に白龍公主に抱かれた蝶華を見る。
蝶華の想いが通じたのかは分からない。
それでも、一生懸命な想いはきっときっと相手に届くと信じているから。
―― 一緒に連れてってくれるって。良かったね…蝶華さま。
「准麗……どこだ」
遥媛公主の最期の呟きと、白龍公主の姿が視界から消えてゆく。栄華を誇り、燦々後宮を地獄に叩き落とした仙人が現れる事は二度とないだろう。
光蘭帝はこぼれ始めた一つの砂を手で掬った。
遥媛公主は最後まで残忍だった。母を守っていた羽衣を引き剥がし、天に戻ってしまった。これは、母の遺灰だ。わかる。
一握りの砂は手の中からこぼれ落ちていった。
「この宮殿も、きちんと弔うべきだな明琳。こんな死に繋がる場所などもう要らぬ。宮殿に安置したままの母も、きちんと弔おう」
そして、冷たくなる明琳の身体を抱きあげ、光蘭帝は歩き出した。
―――――傷つけた報いが愛する人の死だなどと、私は認めない。決して。
報いが死であるはずがない。
報いはいつだって、傷ついて進んでゆくことだ。
「だから私は―――謝らぬ。……これから、一緒に傷ついて、血だらけで進んでゆく覚悟はある。逝くなどこの私が許さない……この光蘭帝飛翔が許さない。聞いているか、明琳、明琳。この無謀な私の小羊…そして、私はもう逃げぬから、今度はそなたの戻りを待つ」
いつだって話を聞かないのはそなただろうが。その言葉と共に、ぽたり、と動かない明琳に皇帝の涙が落ち、頬を滑って行った。
「きゃあああああああああああああああ」
「ふん、当たり前だ。…私の種を体内に入れた上、光蘭帝の種も……。奪うのは嫌だ? ふざけるんじゃないよ! この小娘! 結局」
言葉が尽きた遥媛公主がとうとう地面に膝をつき、頽れた。
「僕の天帝への夢が……あんな小娘に……」
「饅頭に埋め込んで喰った。ク……見事な幕引きだ。ハーハハハハハハ!」
白龍公主が高らかに笑い声を上げる中で、明琳はおやすみと言うように瞼を閉じ、光蘭帝の平手が明琳に炸裂した。とろんとした瞳を再びあけた明琳は目の前で血だらけになっている皇帝をぼんやりと見上げる。
「わたし、死ぬの………」
「何て馬鹿な事を!……ああ、そなたは馬鹿だ!……何故、そなたは自分を大切にしない!」
「…ってばっか…り…」
「聞こえぬよ!」
「怒ってばっかり!って言ったんですっ……ねえ、飛翔さま」
明琳はそっとお腹に手を当てた。
「わたしね、もし、光蘭帝のお母さんが生まれても、ちゃんと、愛せると思いますよ?でも、もう身体が動かないんです……でも、これだけは、わかる。幸せ、見つけちゃいました」
小さな手が光蘭帝の目元をゆっくりと撫ぜた。
「蝶華さんが言ってた…自分のために泣いてくれると救われる…今、わかりました……」
「やめろ」
光蘭帝は首を振り、子供のようにいやいやを繰り返した。目前では座り込んだままの遥媛公主に白龍公主が笑って声をかけている。
「……さて、遊戯は終いだ。思わぬ結末を有難う。……俺は天界へ戻るとする」
「そいつ、死ぬよ」
口惜しそうに遥媛公主が言い捨てた前で、光蘭帝が准麗が残した長剣を握りしめて立ち上がった。二人の華仙人がぎくりと肩を震わせる。
光蘭帝は准麗と同じように長剣を構えて、涙を零しながら二人を怒鳴る。
「………遥媛公主、白龍公主……そなたたちはもはや用なしだ! 羽衣を持ってさっさと消えろ! 私の武闘の腕は知っているな」
聞いた事のない低い声で、光蘭帝は喘ぐ明琳を抱きしめ、また剣を突き出しながら、きっぱりと言い放った。
「今後この宮殿、いいや、この地上に現れようものなら、私が叩き切るぞ!」
怖いねえ…と白龍公主が力が抜けて動けない遥媛公主の腕を引き、立ち上がらせた。
「放心してんのか? 散々策略しておいて、負ければこれか。結局女より男のが強い。俺は貰うべきものを貰って帰るとするか」
よいしょ…と蝶華を抱き上げ、白龍公主はちらりと光蘭帝を見やった。
「こいつ、連れて行くぞ。天界には、こいつの好きな蓮華の園があるからな……それにこいつの羽衣を引きはがすのは天界でいいさ。羽衣代わりに抱いて俺は帰る」
そんな会話を聞きながら、明琳は何度も突き射すような痛みで顔を顰め、光蘭帝に捕まって、それでも気丈に白龍公主に抱かれた蝶華を見る。
蝶華の想いが通じたのかは分からない。
それでも、一生懸命な想いはきっときっと相手に届くと信じているから。
―― 一緒に連れてってくれるって。良かったね…蝶華さま。
「准麗……どこだ」
遥媛公主の最期の呟きと、白龍公主の姿が視界から消えてゆく。栄華を誇り、燦々後宮を地獄に叩き落とした仙人が現れる事は二度とないだろう。
光蘭帝はこぼれ始めた一つの砂を手で掬った。
遥媛公主は最後まで残忍だった。母を守っていた羽衣を引き剥がし、天に戻ってしまった。これは、母の遺灰だ。わかる。
一握りの砂は手の中からこぼれ落ちていった。
「この宮殿も、きちんと弔うべきだな明琳。こんな死に繋がる場所などもう要らぬ。宮殿に安置したままの母も、きちんと弔おう」
そして、冷たくなる明琳の身体を抱きあげ、光蘭帝は歩き出した。
―――――傷つけた報いが愛する人の死だなどと、私は認めない。決して。
報いが死であるはずがない。
報いはいつだって、傷ついて進んでゆくことだ。
「だから私は―――謝らぬ。……これから、一緒に傷ついて、血だらけで進んでゆく覚悟はある。逝くなどこの私が許さない……この光蘭帝飛翔が許さない。聞いているか、明琳、明琳。この無謀な私の小羊…そして、私はもう逃げぬから、今度はそなたの戻りを待つ」
いつだって話を聞かないのはそなただろうが。その言葉と共に、ぽたり、と動かない明琳に皇帝の涙が落ち、頬を滑って行った。
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