召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~⑧光蘭帝の人の終わり

「明琳!」

 おろおろと庭で状況を窺うだけの貴妃が空に現れた華仙人を見て、ほっと頬を緩める。

「白龍公主さま!……あの、火が見えたんですけど消えちゃいました」

「俺が消したんだ! 多分遥媛だ。あいつは火の仙人だ」 
「またそんな事ばっかり!どうして遥媛公主さまがそんな非道な」
「いつまでも騙されているんじゃない。そのでかい目は飾りか? あァ?」

 ふと明琳は肩で惨めに揺れている白龍公主の髪に気がついた。

「あの、お髪が」
「媒介に使っただけだ。遥媛の火は水では消せない。氷の仙人の俺だけだ。だが、これで天帝の資格は失った。華仙人にとって髪は聖なるものだ。だが、蝶華はきっとみっともないと笑ってくれるだろう。それならそれも良かろう」

「白龍公主さまが変わった」

「得体の知れない饅頭のせいだ」

(やっぱり変わってない!得体の知れないって!そんな言い方!)

 むくれる明琳に、白龍公主は声を潜めさせ、眼を光らせた。

「最後まで諦めず、光蘭帝を奪う気はあるか?」

 驚きで、明琳の瞳が大きくなった。元は光蘭帝を奪う為に始まった悲劇。だが、もしも自分が奪ってしまったら?でも、

(どうして白龍公主さまは助けてくれるのだろう)

 その明琳に優しい声音が降る。聞いた事のない、温かさに溢れた白龍公主の声だった。

「おまえは蝶華の友達なのだろう? ならば主人たる俺が助力するのは当然だ。あのババア、これ以上思う通りにはさせん。蝶華の弔いだよ。おまえも力を貸せ」

「蝶華さまの…ハイ!」

明琳は勢いよく頷いた。

白龍公主は頷くと、明琳を抱きかかえて、後宮を跳ぶ。そうしてその姿は、敬遠されてきた西の後宮に消えるのだった。


*****



―――――東后妃さま聞こえますか?


妖の気配が准麗を取り囲んだ。

―――――器を何故に殺した?あの腹にはようやく宿った命があったのに…
―――――もっといい器が見つかったと遥媛公主が。
―――――ずっと飛翔の内で見ていた。あの小汚い小羊にわらわを入れ込むと申すか。
―――――少明琳には華仙の血が流れている。いずれあなたも天に行くにはただの人間の蝶華などより、明琳の方が都合がいいのでは?

―――――………飛翔は…。

―――――もうじき願いは叶いますよ。僕はそれまであなたを護ります。


 准麗は抱き上げた光蘭帝の髪を撫で、愛しい面影のある顔を眺めた。もみ合ったお陰で頬に大きな切り傷がついてしまった。輿入れの娘ではあるまいし、気にすることもないが、やはり良心が痛む。

 抱きかかえた光蘭帝を見下ろして、准麗は呟く。

「暴れなければ良かったのですよ。手荒い武大師で申し訳ございません」
「う・・・」

 急所を強く打たれた光蘭帝の神経はしばらく動かないだろう。目を開けたところで、四肢は動かせない。


「紅鷹承后殿・・・は・・・」
「ご心配なく。あなたと共に燃えて天界への道となりましょう」


 しかし、遥媛公主の火は広がったようには見えないが…だがこんなことはどうでもいい。こんな後宮の一つや二つ、天帝となった遥媛公主さまは軽々と消し去るだろうから。


 約束の時間が近づこうとしていた。



 それはすなわち、光蘭帝の人の終わりを意味していた――――――――。

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