召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ⑦ー③
靑蘭殿は封鎖され、無人の宮となった。かつての主白龍公主は上空を滑空し、池の前に降り立った。
凍った蓮池を見つめて、変わらずにこっちを睨んだまま、涙ごと凍った蝶華を更に見つめる。
「何故お前は死んだ……」
白龍公主はふわりと浮き、そのまま蝶華の上に飛ぶ。手だけを伸ばして、綺麗な頬を撫でようとし、氷の感触に躊躇した。蝶華はあの時のように睨み上げたままだ。
「そうやって俺を死しても睨むな……その眼を閉じろ」
指先を動かして、白龍公主は氷の中の蝶華の見開かれたままの双眸の瞼を一つずつ、丁寧に下ろして行った。みると、蝶華には傷はなく、眠っているかのようだ。またあの眼をばっと開けて、「白龍公主さま!」とあの声を張り上げそうな精気に溢れている。
カツン、と氷の上に白龍公主は座った。
「どうだ、俺がおまえの近くにいるぞ。嬉しいか」
ふと、蝶華の腕が動き、ちょうど下腹を押さえる形なった。
「なんの真似だ…」
白龍公主は眉を寄せ、静かに呟いた。
「おまえ。まさか……光蘭帝の子供を宿しているのか」
氷の中の羽衣だけが白く光る。白龍公主は無言で腕を振ると、氷は溶けて、元の池になった。その冷たいはずの水に足を突っ込んで、永久の眠りについた蝶華を抱き上げると空に跳んだ。
***
「ここなら静かに眠れるだろう…その羽衣はくれてやるさ」
忌み嫌われた祥明殿。崩れた死体を足で蹴りどかした白龍公主は一面を凍らせ、大きな氷台を作った。その氷の上に蝶華を横たわらせると、崩れた髪に唇を押し当てて、今度は目元に唇を這わせ、最後にはその細い体を抱きしめた。
「蝶華・・・・・・馬鹿な貴妃・・・」
「初めて知った。死した骸以上に俺の体温は冷たいんだな。済まない・・・俺はまた守りきれなかった・・・」
地上に束縛された間に、消された妻、そして蝶華。
種を与えるべきだけの存在がどうしてこうも気になるのか。胸が締め付けられることなど、あってよいものか。
「俺は華仙人だ・・・・・・こんな感情はおまえの中に捨てて行ってやる」
何故蝶華を抱かなかったのかの理由は知らない。白龍公主はゆっくりと蝶華から躰を押しのけると、その上から誰も触れられぬよう、また凍らせるべく、片手をかざした。
まるで標本の蝶だ。哀しげな微笑は自然に浮かんではた消えた。
「気が向いたら…また来る。俺はおまえの死を無駄にはしない。安心して眠れ。俺の蝶々」
その時、宮の奥で闇が蠢いた。
――――なんだ?
白龍公主はゆっくりとつま先をそちらに向ける。この奥には数多くの骸が転がっているのみだ。光蘭帝が焼却を命じられないが為に、放置された怨念が渦巻いている。耀を生み出すことすら出来ない閉鎖された空気は天界に近い。
その中央に女が立っている。その顔には見覚えがあった。―――――光蘭帝の生母。
だが、魂がない。抜け殻だ。
(東后妃・・・・・・では魂魄はどこへ行ったのだ?)
躰には薄い炎の羽衣が巻き付いている。それが命のように時折脈動を繰り返している。
「遥媛の仕業か・・・っ! 忙しくなりそうだ」
白龍公主はその宮を凝視した。
(恐らく、この先には天界への道がある。人の霊魂を利用し、霊力の元、無理矢理つなげた明道が、ある)
凍った蓮池を見つめて、変わらずにこっちを睨んだまま、涙ごと凍った蝶華を更に見つめる。
「何故お前は死んだ……」
白龍公主はふわりと浮き、そのまま蝶華の上に飛ぶ。手だけを伸ばして、綺麗な頬を撫でようとし、氷の感触に躊躇した。蝶華はあの時のように睨み上げたままだ。
「そうやって俺を死しても睨むな……その眼を閉じろ」
指先を動かして、白龍公主は氷の中の蝶華の見開かれたままの双眸の瞼を一つずつ、丁寧に下ろして行った。みると、蝶華には傷はなく、眠っているかのようだ。またあの眼をばっと開けて、「白龍公主さま!」とあの声を張り上げそうな精気に溢れている。
カツン、と氷の上に白龍公主は座った。
「どうだ、俺がおまえの近くにいるぞ。嬉しいか」
ふと、蝶華の腕が動き、ちょうど下腹を押さえる形なった。
「なんの真似だ…」
白龍公主は眉を寄せ、静かに呟いた。
「おまえ。まさか……光蘭帝の子供を宿しているのか」
氷の中の羽衣だけが白く光る。白龍公主は無言で腕を振ると、氷は溶けて、元の池になった。その冷たいはずの水に足を突っ込んで、永久の眠りについた蝶華を抱き上げると空に跳んだ。
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「ここなら静かに眠れるだろう…その羽衣はくれてやるさ」
忌み嫌われた祥明殿。崩れた死体を足で蹴りどかした白龍公主は一面を凍らせ、大きな氷台を作った。その氷の上に蝶華を横たわらせると、崩れた髪に唇を押し当てて、今度は目元に唇を這わせ、最後にはその細い体を抱きしめた。
「蝶華・・・・・・馬鹿な貴妃・・・」
「初めて知った。死した骸以上に俺の体温は冷たいんだな。済まない・・・俺はまた守りきれなかった・・・」
地上に束縛された間に、消された妻、そして蝶華。
種を与えるべきだけの存在がどうしてこうも気になるのか。胸が締め付けられることなど、あってよいものか。
「俺は華仙人だ・・・・・・こんな感情はおまえの中に捨てて行ってやる」
何故蝶華を抱かなかったのかの理由は知らない。白龍公主はゆっくりと蝶華から躰を押しのけると、その上から誰も触れられぬよう、また凍らせるべく、片手をかざした。
まるで標本の蝶だ。哀しげな微笑は自然に浮かんではた消えた。
「気が向いたら…また来る。俺はおまえの死を無駄にはしない。安心して眠れ。俺の蝶々」
その時、宮の奥で闇が蠢いた。
――――なんだ?
白龍公主はゆっくりとつま先をそちらに向ける。この奥には数多くの骸が転がっているのみだ。光蘭帝が焼却を命じられないが為に、放置された怨念が渦巻いている。耀を生み出すことすら出来ない閉鎖された空気は天界に近い。
その中央に女が立っている。その顔には見覚えがあった。―――――光蘭帝の生母。
だが、魂がない。抜け殻だ。
(東后妃・・・・・・では魂魄はどこへ行ったのだ?)
躰には薄い炎の羽衣が巻き付いている。それが命のように時折脈動を繰り返している。
「遥媛の仕業か・・・っ! 忙しくなりそうだ」
白龍公主はその宮を凝視した。
(恐らく、この先には天界への道がある。人の霊魂を利用し、霊力の元、無理矢理つなげた明道が、ある)
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