召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ⑤ー⑥
ぴく、と白龍公主が目を見開いた前で、光蘭帝は妖艶に笑って見せた。
「天に還りたいのだろう?明琳を離して貰おうか!」
(白龍公主さま?)
白龍公主の竜顔は、血の通っていない陶器のように強張り、白めいている。そうだ。白龍公主さまは言っていた。羽衣を返して欲しいと。ただ、それだけでいいと。
聞いた白龍公主が明琳を抱きかかえていた腕を外す。地上へまっさかさまに落ちた明琳を准麗がしっかりと抱き止めた。ぶるぶると震える小羊に「私以外の男に抱きついた罰だ」と光蘭帝は言い、愛おしそうに明琳の頭をゆっくりと撫でる。
「そなたは私のものだ。そして私の貴妃だ。私には、そなたを幸せの絶頂に置く義務がある」
「ぜっちょうですか」
「名を呼べ。私の名前を呼べばいい」
「光蘭帝さま……ひしょうさま」
「そなたの喋りはゆっくりで、聞き取りやすいぞ。……白龍公主、見逃してやる。どのみち貴様と私は一蓮托生なのだろう。この魔、ある限り―――――…」
白龍公主は何も言わず、背中を向けた。
「あ、あのっ…白龍公主さま」
明琳は光蘭帝の腕から抜け出すと、降臨してきた白龍公主に深々と頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました。わたし、暗闇が苦手なんです」
両眼を思い切り開いた白龍公主は物を言わずに去って行く。その後ろで光蘭帝は妬けつきそうな心を抱え、明琳を睨んでいるのを、准麗は静かに視認していた。
「そなた、白龍公主に怯えていたのだろう?何故謝る」
「ハイ。でも、さっきは助けてくれました。光蘭帝さま、この世界にだって綺麗なものや優しいものがきっとあります。探しましょう」
「さがす?」
明琳は目を伏せ、ぱっと煌めく瞳を開けて見せる。
「どっちがたくさん見つけるか、競争です。わたしは見つけました。お月様が綺麗です。夜風が気持ちいいです。星が美しいです。……光蘭帝さまが撫でてくれました」
光蘭帝は准麗と顔を見合わせると、笑った。
「何で笑うんですか!」
「ああ、すまぬ。では、私も。目の前の小羊が頬を膨らませて涙目なのが素敵。一生懸命で、そうだな……愛おしいと言えば良いか」
「愛おしい……」
光蘭帝はくるりと踵を返し、ぼそりと「聞き返すなよ」と呟いた。その顔は耳まで真っ赤で……。
(ああ、わたし。初めて光蘭帝さまも、少年なんだって思いました…)
****
「蝶華妃が?」
准麗が事情を聴くなり、眉を寄せて見せる。
「ええ……でも、何か事情があったと思うんです!蝶華さまにも、何か悩みがあるのかも。准麗さま、蝶華さまはもしかして白龍――――」
准麗がひょい、と明琳の前で人差し指を曲げて見せた。
「今は光蘭帝のご機嫌を取る方がいいよ。嫉妬なんて出来たんですね、皇帝」
「准麗。それは嫌みか、忠言か」
「諫言と思うが宜しいでしょう」
「明琳、今夜は私は誰とも約束しておらぬ」
光蘭帝は少し顔を赤くし、言った。
「皇帝たるもの、貴妃なしでは夜は明けない。そなたが来るがいい」
「はい!御饅頭作って行きま…」
「いらぬ。そなたは身一つで来ればいい。そなたが私の甘い菓子だ」
「わたしが、お菓子ですか?」
「やり方が解った。それを実証して見せよう。私の相手はみな身長が高かったからな。星翅太子に古代文書をひっくり返させ、過去、小柄な貴妃を扱った文献を探させた。なぁに簡単な事だった。そなたが上になれば良かっただけのこと」
ごほ…と准麗が咳き込んでいる前で、明琳は首を傾げていた。
久々に穏やかな、嵐の前の静けさの夜を、光蘭帝と明琳は手を繋いで超えるのだった。
「天に還りたいのだろう?明琳を離して貰おうか!」
(白龍公主さま?)
白龍公主の竜顔は、血の通っていない陶器のように強張り、白めいている。そうだ。白龍公主さまは言っていた。羽衣を返して欲しいと。ただ、それだけでいいと。
聞いた白龍公主が明琳を抱きかかえていた腕を外す。地上へまっさかさまに落ちた明琳を准麗がしっかりと抱き止めた。ぶるぶると震える小羊に「私以外の男に抱きついた罰だ」と光蘭帝は言い、愛おしそうに明琳の頭をゆっくりと撫でる。
「そなたは私のものだ。そして私の貴妃だ。私には、そなたを幸せの絶頂に置く義務がある」
「ぜっちょうですか」
「名を呼べ。私の名前を呼べばいい」
「光蘭帝さま……ひしょうさま」
「そなたの喋りはゆっくりで、聞き取りやすいぞ。……白龍公主、見逃してやる。どのみち貴様と私は一蓮托生なのだろう。この魔、ある限り―――――…」
白龍公主は何も言わず、背中を向けた。
「あ、あのっ…白龍公主さま」
明琳は光蘭帝の腕から抜け出すと、降臨してきた白龍公主に深々と頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました。わたし、暗闇が苦手なんです」
両眼を思い切り開いた白龍公主は物を言わずに去って行く。その後ろで光蘭帝は妬けつきそうな心を抱え、明琳を睨んでいるのを、准麗は静かに視認していた。
「そなた、白龍公主に怯えていたのだろう?何故謝る」
「ハイ。でも、さっきは助けてくれました。光蘭帝さま、この世界にだって綺麗なものや優しいものがきっとあります。探しましょう」
「さがす?」
明琳は目を伏せ、ぱっと煌めく瞳を開けて見せる。
「どっちがたくさん見つけるか、競争です。わたしは見つけました。お月様が綺麗です。夜風が気持ちいいです。星が美しいです。……光蘭帝さまが撫でてくれました」
光蘭帝は准麗と顔を見合わせると、笑った。
「何で笑うんですか!」
「ああ、すまぬ。では、私も。目の前の小羊が頬を膨らませて涙目なのが素敵。一生懸命で、そうだな……愛おしいと言えば良いか」
「愛おしい……」
光蘭帝はくるりと踵を返し、ぼそりと「聞き返すなよ」と呟いた。その顔は耳まで真っ赤で……。
(ああ、わたし。初めて光蘭帝さまも、少年なんだって思いました…)
****
「蝶華妃が?」
准麗が事情を聴くなり、眉を寄せて見せる。
「ええ……でも、何か事情があったと思うんです!蝶華さまにも、何か悩みがあるのかも。准麗さま、蝶華さまはもしかして白龍――――」
准麗がひょい、と明琳の前で人差し指を曲げて見せた。
「今は光蘭帝のご機嫌を取る方がいいよ。嫉妬なんて出来たんですね、皇帝」
「准麗。それは嫌みか、忠言か」
「諫言と思うが宜しいでしょう」
「明琳、今夜は私は誰とも約束しておらぬ」
光蘭帝は少し顔を赤くし、言った。
「皇帝たるもの、貴妃なしでは夜は明けない。そなたが来るがいい」
「はい!御饅頭作って行きま…」
「いらぬ。そなたは身一つで来ればいい。そなたが私の甘い菓子だ」
「わたしが、お菓子ですか?」
「やり方が解った。それを実証して見せよう。私の相手はみな身長が高かったからな。星翅太子に古代文書をひっくり返させ、過去、小柄な貴妃を扱った文献を探させた。なぁに簡単な事だった。そなたが上になれば良かっただけのこと」
ごほ…と准麗が咳き込んでいる前で、明琳は首を傾げていた。
久々に穏やかな、嵐の前の静けさの夜を、光蘭帝と明琳は手を繋いで超えるのだった。
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