召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ⑤ー①

「ああっ……んっ…」

蝶華妃は最後の絶頂には蝶のように上体を撓らせて果てる癖があった。元々の性格か、その時ばかりはきつく腕を背中に回して、何度も背中を引っ掻こうとする。だが、何度も交わりを持っているのにもかかわらず、懐妊する兆しはない。いつもはすぐに離れる蝶華だが、今日は違った。一糸まとわぬ姿で光蘭帝の肌蹴た胸にしなだれかかりながら、胸板を撫でたりさえ、した。

部分の愛撫すら躊躇わず、上目遣いをしながらこなして見せた。

(今夜の蝶華はどこかが違う)

 光蘭帝は静かに寵姫を見下ろしながら、頬をひっつける貴妃を撫でる。

「蝶華妃・私は冷ややかか」

「光蘭帝さま。よほどあの小羊が気に入られたようですわね。後宮の規則を曲げてしまわれたこと、主君白龍が驚いておりましてよ? 「まるで貧弱な人間よ」と」

 蝶華は事を終えた後の後始末をするべく、光蘭帝の前に膝をついた。自分の残り香も、残滓も貴妃は自分で皇帝自身から拭わなければならない。いつものように清めはじめた貴妃の為すがままになった光蘭帝は目を閉じた。

「そなたは素晴らしい貴妃だよ」

「あ、あら」と蝶華の頬に赤味が射す。嬉しいですわ…と呟いて顔を埋める直前に、光蘭帝は言った。

「であるから、あの小羊をもっと美しく仕立て上げることも出来るであろう?」

「あの子は私の贈った宮廷衣装を雑巾にしましたわ。光蘭帝はあのおサルさんに何をしろとおっしゃるのです?」

 皇帝の気だるげな、それでいて響きのある声が色気を伴って響いた。

「代わりにそなたを正妃とする。明琳を貴妃になれるよう、導いてやって欲しい。そうして温めてやって欲しいのだ。私には彼女を温めることは出来ないからな」

「ええ、ひんやりして男らしさに溢れてございますわ。公主さまたちが狙うのも解りますわね。上級の男。とても美しくて、欲を掻きたてる。たまりませんわ」

「では明琳もか」

「あの子はもっと欲深ですわ! 光蘭帝さま、どうか私にお子を! さすればすべて上手く行きましょう。公主さまたちも、諦めますわ」

「どうだかね。懐妊しないのは、そなたが拒んでいるからだと准麗が言っていたが」

「あんな武術オタクの話に耳を貸さないでくださいます?」

 違いないと光蘭帝はくすりと笑いを見せると、乱れた着物をきちんと合わせ、帯を締めて蝶華に向き直った。蝶華の着物を元通りに着せてやって、驚く彼女の口元に唇を合わせて、立ち上がる。

「光蘭帝さま。最近「処刑」と「斬るぞ」と言わなくなりましたわね」

 そうか?と光蘭帝は呟くと、褥を出た。



***


 寝室に残った蝶華は寝間着のまま、膝を抱え、乱れた寝台の敷布を指先で準える。
 変わってゆく。あの明琳のせいで。

 光蘭帝の願いは叶わず、明琳が夜のお召しに対応する事は二度とない。従って、あれから貴妃の座は脅かされることはなくなった。蝶華はほぼ毎日、夜のお召しに選ばれており、胸を張って貴妃として後宮を憚っていた。

 それでも。肝心の成果が出ない。通常であれば、光蘭帝は相手を変えるはずだが、頑として蝶華を指名して来る。受け止めるべきものは毎回受け止めている。それなのに。

(どうして宿らないの?)

 泣きたくなって自分の膝に顔を埋める。ふと急いで出て行った光蘭帝の姿を眦に浮かべた。もしかしたら、明琳に逢いに行くのかも知れない。

 口惜しい。布に爪を立てる。どうして子が宿らないのか。白龍公主はきっと自分を見捨て、その手で殺す。「用はなくなった」そう感情なく呟きながら、この白い喉笛を叩き切るのだ。溢れては追い出され、喰われて放置される靑蘭殿の女官たち。あんな打ち捨てられるような女の仲間入りはしたくない。それ以前に。

 ――蝶華は初めて見た時から、ずっとお慕いしております。白龍公主芙君さま――…

「必ずあなたの願い通り、光蘭帝の御子を産みますわ。だからだから」


 抱いてほしいなどと言えば、嫌悪の視線。何も言わなければ一人追い詰められるだけ。



 胸を焼き焦がすような激情に苛まれて、蝶華は一人、泣いた。

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