召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~
◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ ②ー③初夜②
明琳はその言葉に震え上がりながら、白龍公主の眼を思い出す。血も涙もなさそうで、どこか退屈に飽きたような人を見下げた瞳。
「あの女の人たちはみんな死んでいたんですか」
倒れていた女官たち。てっきり生きていると思っていた。廊下に蹲り、視線をどこか遠くに向けていた女性たちを思い出して、明琳は目を瞑った。
何かがおかしい。確かに人は死んでしまう。でも、そんなに簡単に命は奪えるもの?
言葉を無くした小羊の頭を再び神経質そうな光蘭帝の手が撫でた。
「靑蘭殿を見たか。白龍公主芙君にとっては貴妃たちは手慰みだ。華仙人の超越した思考は我ら人間には読めやしない。だが案ずるな。華仙人たちは私に危害を加えない。私が庇えばそなたにも手は伸びぬ。密約があるからな」
「華仙人、ですか」
「知らぬか? 遠き過去に神と呼ばれた神人たちの事だ。かつてこの地上は彼らが護り、愛したと言われる」
「神様? 白龍公主さまと遥媛公主さまがかみさま?!」
「そうは見えないがな。欲に塗れた姿は人以上だ。吐き気がする」
沈黙が流れた。信じられなかった。、ただ、明琳は不安そうに皇帝を見上げるのみだった。
「白龍公主芙君と遥媛公主山君は紅鷹国のかつての後宮の内乱のために呼び出された。以来紅鷹承后殿に居座っている。二人とも顔色を変えず人を斬る。華羊妃」
「名前が違います。わたしは明琳です」
言いきって、明琳は光蘭帝を睨んだ。
「ちゃんと名前を呼んで欲しいんです。嘘の名前なんてイヤ」
「では私の事も飛翔と呼べるか?」
明琳は口ごもった。光蘭帝はずるい。神様ではなくても、皇帝と言うだけで、明琳にとっては同じようなもの。本来温かいはずの腕は冷たかった。象牙のような腕の中に明琳を捕えた光蘭帝は低い声音で囁いた。
「もう良いな」
***
良い? 目を瞠る前で、光蘭帝が明琳を優しく押し倒す。瞼の裏に度関係を持っている白龍公主の冷笑が浮かぶ。それが邪魔だと初めて思う。光蘭帝は首を捻った。
仙人を疎ましく思った事はなかった。盟約の通り、どちらかの種を受け取る代わりに、彼らは紅鷹国の繁栄に力を貸す。他国が攻め入った時など、その人非ざる力で軍を一掃し、遠く離れた敵国に一矢を報いた。それを感謝していたはずなのに。
そして最期にーーーーー…。
すべてが崩れそうな予感が走る。
「そなたのせいか」
皇帝はぼそりと呟くと、明琳を睨む。鋭い瞳に射抜かれた明琳の喉が、ひゅっと鳴った。
「お、御饅頭……ちゃんと作ります」
何故かそんな言葉を口にした明琳に光蘭帝はゆっくりと首を振った。
「この後宮で食物を作ることは禁じている。……あの饅頭は私も忘れる。そなたも幽玄となって、達者で暮らせ」
引きとめる暇もなく、明琳の手が動かなくなった。丸い頬にわけもわからず涙が毀れる。その様を何故か真珠を零す月下の人魚のように捕えた。瞳がゆっくりと瞬いた感覚すら鋭敏だ。
――失望させたか。だが、そのほうがいい。華仙人たちに利用されるなら、手放そう。
「そなたを巻き込む事を許せ。もう、呼ばない。私は一度遠ざけたものを呼ぶことはない。明琳、馬鹿げた後宮に引きとめたことを陳謝する」
ぴょこ、と蝶華妃が結った頭が揺れた。頭上に宝珠を飾られた髪は緩く丸められ、色気の足りない丸い頬を上手く隠して、大人びて見せている。少しでも皇帝に気に入って貰えるように。
蝶華は恐らく「不本意」と何度も口にしただろうけれど。
「あの女の人たちはみんな死んでいたんですか」
倒れていた女官たち。てっきり生きていると思っていた。廊下に蹲り、視線をどこか遠くに向けていた女性たちを思い出して、明琳は目を瞑った。
何かがおかしい。確かに人は死んでしまう。でも、そんなに簡単に命は奪えるもの?
言葉を無くした小羊の頭を再び神経質そうな光蘭帝の手が撫でた。
「靑蘭殿を見たか。白龍公主芙君にとっては貴妃たちは手慰みだ。華仙人の超越した思考は我ら人間には読めやしない。だが案ずるな。華仙人たちは私に危害を加えない。私が庇えばそなたにも手は伸びぬ。密約があるからな」
「華仙人、ですか」
「知らぬか? 遠き過去に神と呼ばれた神人たちの事だ。かつてこの地上は彼らが護り、愛したと言われる」
「神様? 白龍公主さまと遥媛公主さまがかみさま?!」
「そうは見えないがな。欲に塗れた姿は人以上だ。吐き気がする」
沈黙が流れた。信じられなかった。、ただ、明琳は不安そうに皇帝を見上げるのみだった。
「白龍公主芙君と遥媛公主山君は紅鷹国のかつての後宮の内乱のために呼び出された。以来紅鷹承后殿に居座っている。二人とも顔色を変えず人を斬る。華羊妃」
「名前が違います。わたしは明琳です」
言いきって、明琳は光蘭帝を睨んだ。
「ちゃんと名前を呼んで欲しいんです。嘘の名前なんてイヤ」
「では私の事も飛翔と呼べるか?」
明琳は口ごもった。光蘭帝はずるい。神様ではなくても、皇帝と言うだけで、明琳にとっては同じようなもの。本来温かいはずの腕は冷たかった。象牙のような腕の中に明琳を捕えた光蘭帝は低い声音で囁いた。
「もう良いな」
***
良い? 目を瞠る前で、光蘭帝が明琳を優しく押し倒す。瞼の裏に度関係を持っている白龍公主の冷笑が浮かぶ。それが邪魔だと初めて思う。光蘭帝は首を捻った。
仙人を疎ましく思った事はなかった。盟約の通り、どちらかの種を受け取る代わりに、彼らは紅鷹国の繁栄に力を貸す。他国が攻め入った時など、その人非ざる力で軍を一掃し、遠く離れた敵国に一矢を報いた。それを感謝していたはずなのに。
そして最期にーーーーー…。
すべてが崩れそうな予感が走る。
「そなたのせいか」
皇帝はぼそりと呟くと、明琳を睨む。鋭い瞳に射抜かれた明琳の喉が、ひゅっと鳴った。
「お、御饅頭……ちゃんと作ります」
何故かそんな言葉を口にした明琳に光蘭帝はゆっくりと首を振った。
「この後宮で食物を作ることは禁じている。……あの饅頭は私も忘れる。そなたも幽玄となって、達者で暮らせ」
引きとめる暇もなく、明琳の手が動かなくなった。丸い頬にわけもわからず涙が毀れる。その様を何故か真珠を零す月下の人魚のように捕えた。瞳がゆっくりと瞬いた感覚すら鋭敏だ。
――失望させたか。だが、そのほうがいい。華仙人たちに利用されるなら、手放そう。
「そなたを巻き込む事を許せ。もう、呼ばない。私は一度遠ざけたものを呼ぶことはない。明琳、馬鹿げた後宮に引きとめたことを陳謝する」
ぴょこ、と蝶華妃が結った頭が揺れた。頭上に宝珠を飾られた髪は緩く丸められ、色気の足りない丸い頬を上手く隠して、大人びて見せている。少しでも皇帝に気に入って貰えるように。
蝶華は恐らく「不本意」と何度も口にしただろうけれど。
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