召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~ Prologue

◆召しませ後宮遊戯2~小羊女官と皇帝陛下・華仙界への種は遙か~
※一部作品の性質上のBL表現がございます。ご注意の上、お読みください。





 紅鷹国承后殿の庭に雪が降り積もってゆく。雪は後悔と同じ。いつまでもいつまでも降り続ける。(胸が痛いよ…おばあちゃん…)手籠を下げた少女は雪空を見上げていた。


***


「……っ」

突然美麗な口元が動く。光蘭帝飛翔は自分の前にある頭を抱きしめて上半身を反らし、窓から見える雪空を見上げていた。肌を滑る唇を僅かにくすぐったいと感じながら、魔を持つもの特有の金の瞳を瞬かせて見せた。

絶頂を迎えたばかりの瞳は緩く潤み、黒い悪魔の髪を映す。だがそうされるのは自分だけだ。相手はそういうエクスタシーをまるで感じない。極めて二人の関係は狩猟に近い。まるで刈り取りを行うかのような乱暴な手は慈しむ為ではなく、奪う為に在った。
「白龍公主」
 呼ばれた男がふと首筋に充てていた唇を離し、伸し掛かったまま光蘭帝を冷ややかに見下ろす。黒く長い髪は死神のヴェールのように牀榻に伸び、既に寝台からこぼれ落ちた。その髪を指で弄りながら、光蘭帝の声は呼吸の整いきらない上滑り。大人に近づいた声はしっかりとした男の声だが、上滑りになると途端に甘くなる特徴がある。

「雪……だ………な」
「雪?」

冷めた目をした白龍公主は興味なさげに切り返した。

「……そんなものを嬉しがるのか?まるで人間だな、光蘭帝」
「私は人だ」

 目の前の嘲笑。白龍公主の唇は赤くも気高く高貴過ぎる……。その唇が薄く開くと、誰もが背筋を震わせる。人と凌を分けた華仙人の持つ冷淡で独特な雰囲気は神そのものだ。だが、光蘭帝だけは対等な立場にあった。

「何れ『人であった』と言うようになるだろうが」
「そうなるかな」

 諦めたような目がとろりと下がる。伏目になった瞳の上で、濃の無さそうな睫がふるると揺れた。その陰りのある表情に白龍は押し込めたままの欲望の兆しを再び感じた。受け入れたままの光蘭帝の欲情も、またそのまま瞳に現れる。同時にゆっくりと舌舐めずりを繰り返す。

「本当に諦めが悪いと言うか、飽きない……」

 人の際限のない欲、常識を越えた仙人の欲にまるで共鳴するかのように、躰は卑しくも嘶く。白龍公主はまた緩く誘うような仕草をして見せた光蘭帝を静かに眺めた。

 思わずその着物をはぎ取りたくなるような、白い肌に、男であるが故の整った鎖骨。齧り付いて貪り尽くしたくなるような朱唇に永遠に自分だけを見ていろと繰り出したくなるような宝玉の色の双眸。
 美しい、美しい皇帝。仙人の眼から見ても、人にしておくのは惜しい素材だ。細い腕を掴み、また牀榻に押し倒す。白龍の着物も肩から滑り落ち、滑らかな両肩が露わになった。その目は完全に欲に染まり、白龍は口にした。

「光蘭帝。いい加減俺の種を受け入れて貰おうか」
「それなら受け入れさせてみろ。ほら、私は逃げぬぞ?」
「クク」

咽の奥の男の嘲りの中、腕を自ら相手の腰に回し、再び組み敷かれ、快楽の渦に身を浸しかけていたその時―――――物音が鼓膜を震わせた。

「どうした?」
「いや、気が散った……すまない、白龍公主」

 とても続行出来る気が起きない程の大きな転倒音に「もうもうもう!」という小娘の嘆き。外は雪だ。雪女が覗き見かと光蘭帝は身を起こした。伸びすぎた金の髪が鬱陶しい程に撓んで手に絡みつく。

「白龍、何か物音がしただろう」
「雪の音ではなく? いや、積雪が落ちたのだろう。続けるか」

(いや、あれは少女の嘆きだ)


「んもう! 雪まみれの泥だらけじゃないですか! もうもうもうもうもうもうもうもう」

 可愛らしい嘆きに、愛撫の感覚が吹っ飛んでいった。

 ――続行不可。光蘭帝はのしかかった白龍公主の胸板を押し返した。

「……これ以上は無理だ。完全にその気ではなくなった。部屋を出る」

 光蘭帝は毀れた金色の髪を手早く縛り上げると、牀台を裸足で降りた。格子にかけたままだった上掛けを手にして、素早く着物を着込むと、庭に目をやった。

「興ざめしたから俺は帰るぞ」白龍公主の声が背中で響く。

 廊下を降り、庭に踏み込む。まるで、何かに呼ばれるかのように引き寄せられ――――



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