召しませ後宮遊戯~軍師と女官・華仙界種子婚姻譚~

簗瀬 美梨架

第六章 さらばだ 我が天女②

「ここにあるの?」
 頷いた梨艶が鉄の扉を押し開ける。そこは夥しい数の書籍がところせましと並んでいる書庫だった。愛琳はうっ!と唸ると、そろ~と足を外に忍ばせて見せる。ところで、梨艶の厳しい声が降って来た。
「おまえも探せ。貴妃の目録だ。その棚の端から見て行けばいい」
「ぅええっ?……」
「時間がない!でなければ紅月季が殺される」
 ―――――紅月季さまが殺される?
 梨艶はその理由は説明しなかった。愛琳は仕方なく、一冊目を手に取る。ツンと黴臭い匂いが部屋に充満してゆく中で、気が付いた。愛琳は漢字が苦手だ。たちまち頭が痛くなる。(ほら見なさい。だから先生は言いました)などと書道の大師の言葉が過る。
 こんなの無理ね。それなら夢、思い出すね。
 愛琳は唸りながら、目を瞑った。
 ええと確か。―――――冒頭しか覚えていない。そうそう、黒蓮華の髪は実は桃色で、とっても綺麗だったね。驚いた。蓮華って呼ばれてて…それを褒めた男が確か――――…たしか…。
 ふわりと愛琳の髪が浮いた。言葉は小さな欠片になって、甦ってくる。
 思い出せ、私は蓮華とひとつだった……思い出すんだ……愛しいあの人は何と言った?
『私は靑蘭皇太子、李興隆。…そなたを娶りたい。供に宮殿に…』
 李興隆。り こうりゅう だ!
 ばさばさと愛琳が立ち上がった拍子に本が落ち始める。
「なんだ、ここは皇族の大切な書類が保管されてる場所だ、気を付けろ」
梨艶が顔を出した前で、愛琳は興奮を抑えきれずに薙刀を振り回して伝える。
「李興隆ね!黒蓮華の地上の恋人の名前!」
「李?…皇族?まてよ…聞いたことが…」
 梨艶が首を傾げ、慌てて書庫の中に飛び込んで行った。やがて古ぼけた一冊の本を抱えて来て、部屋を出て行ってしまったので、愛琳も慌てて追いかける事になる。
「梨艶!」
 梨艶は本を歩き読みながら、襲ってくる兵士を切り捨てている。見事な反射神経だ。
「梨艶!どこに行くね!」
「霊廟だ」
 霊廟?愛琳は聞き返したが、梨艶は答えを返して来ず、一艘霧の深くなった大局殿を出、血まみれになった廊下を走り、大きな金の扉の前に辿りついた。その建物を睨むと、体当たりを始めた。
「梨艶!何してるね!」
「興隆は靑蘭の皇帝の名前だ。それが本当なら、その手記は代々霊廟に残されている。そこまで愛した女なら、絶対に書き留めているはず。まして後悔しているなら尚更。男は面と向かって後悔を口には出来ん。クダクダと物事を書き記す―くそ、開かないな…」
「どくね!梨艶!」
 そう言う事なら、ここは出番だ。開かない扉をこっそり開けてはおしりをたたかれた女官を舐めるなである。
「おい、無理は…」
 ドゴーン!と音がして、愛琳は熊猫宜しく転がって落ちた。ぼよ、と胸が揺れる。ぼんぼんぼんとゴムまりのように愛琳は転がった。
「だから言っただろうが。おい」
 それでも愛琳はまた扉に突進している。止める梨艶の手を振り払って言った。
「あたしはこのくらいしか出来ない!……だからここは私が開けるね!任せて!怪我したくないでしょ。引っ込んでるよろし」
 何を言っても聞かない女官に、梨艶が気が付く。蝶番の金具が緩んでいるのだ。
「愛琳、狙うなら蝶番だ!ドアの留め具を狙え」
「了解ね!」
 掛け声と共に、愛琳が突進する。その薙刀と蹴りが炸裂して、ドアは軋んだ。あと少しのところで止まる。額から血が流れた。もう駄目だ、と目を瞑った愛琳に声が届く。
―――――諦めないで。あたしの可愛い熊猫娘、愛琳。
「お母さん!」
 何?と梨艶が辺りを見回す。さては頭でも打ったかと心配する前で、愛琳は額を拭い、また突進しようと足を踏ん張らせた。
「芙蓉国の女武官を甘く見ないで!」
―――――薙刀を構えて突進した後、ドアが倒れた。
「開いたよ!梨艶…梨艶?」
「………」
 歴代の皇帝の霊廟のドアの修理代は芙蓉国に請求だな…と思いつつ、梨艶は愛琳の手を引き、自分の方を向かせた。
「女が顔に傷を作るなど。おまえは立派な女官だよ。その傷、無駄にはせん、行こう」
 ドアの向こうにはたくさんの棺が並んでいる。一つ一つに灯篭が灯されていた。その間を二人はゆっくりと進んでゆく。
「―――――ひんやりしてるね」
「死体がいっぱいだからな。…ここからは来なくていいぞ。爺どもの枯れた姿など面白くも何ともないが…一つ一つを空けるしかないようだ」
「手伝うよ」
 梨艶はため息をつき、愛琳の頬に唇を押し当てた。
「おまえは充分やってくれた。ここからは軍師の俺の仕事だ。分かるな?」
 愛琳は静かに薙刀を降ろした。わずかに微笑んだ梨艶が背中を向ける。
 ギイイと重い棺を開ける音がする。埃と臭気でこほ、と軽くせき込んだ梨艶の姿は棺を開けては消え、愛琳は静かに壁に寄りかかった。梨艶が調べものをしている間に兵士が襲って来るかも知れない。愛琳は外で薙刀を持ち、待つことにした。普段の仕事と思えばお安い御用である。

 皇帝の死後、手記はすべて棺に納められる。どいつもこいつも後宮の女の事ばかりを書き記している。やれ貴妃同士の殺し合いは自分の美貌が原因だっただの、画策して皇帝についたら今度は強請られただの。愛のオンパレード。後世にまで恥を晒す精神が分からない。あほかと思いつつ、梨艶は最後の棺に手をかけた。
「あ…」
 ぴくんと外にいた愛琳の耳が梨艶の微かな呟きを捉える。梨艶はある棺の前で一冊の手記に目を通しているところだった。
 しかも祀られている灯篭をもぎ取って、手元を照らしながらだ。その横顔はあの書状を読んでいた梨艶にカブる。少し冷たくて、何物をも拒絶するような瞳。少し不安にさせる梨艶の横顔。愛琳に気が付くと、梨艶は親指で一つの棺を指した。
「覗いてみろ」
 パタンと手記を閉じて梨艶が立ち上がった。
 愛琳は慌てて駆け寄って、棺を覗き込んで、梨艶の顔を見た。梨艶に似ている…それよりも、まるで寝ているかのようにその男は命の帳を降ろしていた。
 梨艶が何もない棺の男の手を指差す。
「おまえには見えないのだったか?……持ってるんだよ、羽衣」
 ―――――羽衣を持ってる?
「恐らく蓮花夫人のものだろう。ずっと手放さなかったようだな…ここに書いてある。読んでやろう」

『我は表向きは家庭を持ったが、その心は天女と永遠に共に在る。妻はそれを知って、黒蓮華を殺そうとした。だから私は後宮を遠ざけるしかなかった。
―――――私は死までも供にあろうと願う。そうして羽衣を冥府に持って行かないと、あの天女は私を捨てて、きっと天へ還ってしまうだろう。笑わば笑え。我が独占欲に悔いはない。愛している、蓮華。あの時、出逢ったあの瞬間から―――――』

「さすがの天女も、死したものの棺を開ける勇気はなかったのだろう。老いて死した男を見る度胸はなかったようだ。それを知っているからこそ、この男は羽衣を一緒に埋葬させたのだろう。俺が見つけたのは皇帝の埋葬物記録一覧。その興隆の項に『この世ならざる不滅のもの』とあったので」
「凄い!軍師も捨てたものじゃないね!じゃあこれを戴いて…」
「問題はあるぞ」
 梨艶はまた難しそうな顔に戻った。
「この羽衣を奪えば、この男の身体は朽ちる。それを奪って良いものか」
 梨艶らしい言葉だ。梨艶は自分と違うから、忘れているなんてことはないと思う。黒蓮華を消して、感情を取り戻すことを。良く見ると梨艶の瞳は潤んでいた。梨艶は黙って骨ばった手で涙を拭って見せた。
「梨艶、手を合わせるね」
「手?」
 愛琳は頷いた。
「理由はどうであれ、眠ってる人をこじ開けたよ。だから謝る。そうして、羽衣を貰おう。それを使って、華仙界にもう一度行って、蓮花夫人にその手記を見せるね」
 ああ…と梨艶の眼が優しくなった。
「国を滅ぼす程の愛情を伝えてやるとするか…全く、お人よしにも程があるな」
「でも、梨艶、「どうして俺がそんなこと」って言わなくなった。私はもっともっと梨艶が好きになったよ。いいの、梨艶がそういう気持ちを失くして、答えられないのはわかってるね。それでも言いたいね。梨艶が知らない優しい梨艶を私は見つけてってるね」
 梨艶の眼が綻んだ。
「俺の知らない優しい俺?……機会あらばお目にかかりたいものだがな」
パタン、と手記を閉じた梨艶が震えるつま先を棺に再び向け、静かに言った。
「あの宦官といい、この皇帝といい……見事な心意気だ。そんなに天女を還したくなかったのか。ならば傍に置けば良かったものを」
 梨艶の腕が愛琳の腰に回る。相変わらず巧みに手の平を動かしながら梨艶は目を伏せた。
「羽衣、貰い受ける。李興隆殿」
 死後固まった指に大切そうに絡んでいる綿のような透き通る、愛琳曰く「イカの刺身」のような羽衣は待ち構えたかのように、梨艶の腕に絡まって広がってゆく。すっかり天女の血を認めさせた梨艶に、羽衣は従順だった。
 目の前の棺の中に光が籠る。ふわり、と小さな霊魂がゆっくりと宙に浮かんで揺蕩っている。華仙界の羽衣。香炉には人の魂をも浄化する何かがあったのかも知れない。実際に羽衣を手放した男は砂のように崩れ落ちて行った。そうして最後に瞳が残り、その瞳は淡く溶けて、宙に魂として浮かび上がる。
「虹色に光ってるよ」
 その魂が一瞬だけ、すらりとした青年に変化した。ちょっと梨艶に似ている。笑った目じりの少し冷やかそうに見える吊り眼具合など、パーツ的に似ている。梨艶も声には出さないが、少し驚いているようだった。その時ページが自然に捲れ、最後のページで止まった。何気に視線を落した梨艶が息を呑む。香に囚われていなかったら、心臓が止まったかも知れない。
その手記には最期にこう記されていた。

「―――――私の愛おしい天女――――――いつか紅月季に戻り、愛せる事を誓う」
 紅月季の名前…。
(何故、こんなところに天帝の名前が…?…何故この男は紅月季を知っているんだ…)
 人間の男が紅月季を知り得る機会。そして紅月季と蓮華は夫婦…。可能性は一つだけだ。だが、あまりにも突飛過ぎる。
「梨艶?」
 あ…いや…と梨艶が作り笑顔を愛琳に向けた。愛琳はぽつりとつぶやく。
「自分の手の中に欲しくて仕方なかった気持ち、わかるよ。私が梨艶にそうだった。梨艶が欲しくて欲しくて…」
 黙って聞いていた梨艶が顔を上げる。その顔の頬は少し赤く染まってしまっていた。
「そう俺を欲しがるな。呪いが解けた後の保証は出来んぞ」
「だって本当の事ね。梨艶が冷たくするのがいけないね。私地の底まで凹んだよ」
「その割には元気だったが」
 言いながら、梨艶は目の前の熊猫頭を見つめた。
「愛琳、書状だが…実は」
 話しかけた時だった。天地が揺れ、空に雷光が迸り、黒い渦は靑蘭全体を包み込んだ。
「…時間がないようだな。今の雷光は芙蓉国の空に走った。母上の結界が緩んでいる」
 梨艶の言葉に愛琳の瞳に影が宿る。―――――もしも富貴后さま…ううん、白牡丹さまの結界が破れれば、黒蓮華の陰妖は芙蓉国を食いつくし、争いながら人々は醜く奪い合い、憎しみを滾らせて、終わるのだろう。人を恨んだ天女が溜めた、一千年の怨念。それは一生懸命生きている人々を簡単に蝕んでしまう。
「梨艶…」
「どうやらおまえの言う通りに『この世界救うね!』以外、方法がなさそうだ」
 ―――――もうじき華仙界の統治者紅月季の命が消える。それでもあの紅月季は緩やかな髪をそよがせて、静かに受け止めるに違いない。だが、確かめなければ。
「紅月季…貴方は一体…」
 梨艶は握った羽衣を宙に投げ、腕を伸ばした。羽衣は優しく梨艶を包み、再び華仙界へと誘おうとしていた。

12
 天空を翔けてゆく。そんな表現が相応しい。
 当初は羽衣に振り回され、目を瞑るしかなかった梨艶だが、自分の気を合わせることを習得してからは、逆に羽衣を操る事が出来るようになっていた。愛琳の身体の密着度も密かに上がっている。それでも梨艶の身体は冷たくなった気がする。
「愛琳、華仙人は怖いな」
「そんなことないよ。みんな優しかった。何でそんなこと言うね」
 相変わらず女官と軍師の思考には差があるらしく、愛琳に梨艶の考えが分かるはずがない。聞くのは無駄だとばかりに愛琳の頬が膨らんだその時。空に浮かんだまま、梨艶が感情を抑えたような低い声で一点を指した。黒い雲の合間に白い欠片が流れてくる。
「鱗…?」
「あ!あれ…っ…」
 梨艶が呟くより早く、愛琳が身を乗り出した。梨艶が慌てて愛琳の腰を強く引き寄せる。
 ―――む、やはり反応なしか、俺の身体は。
 寂寥感を噛みしめながら、梨艶は暴れる熊猫の体制を整え、再び空中でバランスを取るべく、足を軽く伸ばす。
「何だ、暴れるな。放り出すぞ」
「富貴后さまの姿が見えたね!あの黒い雲の中よ。あの中に富貴后さまいるね」
「母上が?」
 だがここは靑蘭の真上…愛琳がいうならそうなのだろう。梨艶は頷いて、渦巻く闇の中に飛び込むと闇黒の渦に身体を浸した。物凄い呪いと悲しみが流れ込んでくる。人々の憎しみと悲しみの坩堝だ。その中にぐったりと動かない白龍の姿があった。首には黒い靄のようなものが絡まっていた。その状態で白龍は雲の中で静かに落下していたのである。
「母上!」
 カッ、と金の龍眼が開いた。
「…何をもたもたしておる……梨艶!」
 開口一番のいつもの叱咤。心配要らないらしいと梨艶が方向転換する。その後ろで白牡丹の声が弾けた。初めて聞く、涙交じりの咆哮に梨艶の身体が静止する。
「痴れ者!何の為におまえを靑蘭に置き去りにしたか!…愛おしい我が子を置き去りにするような馬鹿な母親はおらぬ。どれだけ寂しかったかわかるまいな!――っつぅ…黒蓮華め、思い切り突っ込んで来おったわ」
「富貴后さま!」
 龍の姿がぼんやりと薄れてゆく。白牡丹はいつでも純白だった着物を半分以上赤く染めた状態で、元の艶やかな姿に変容した。羽衣を付けずに宙に浮いている。
「羽衣なしで浮いてる…」
「私は龍の化身だ。地上に残された天女のうちのひとり。ほほ、してやられたわ。まさか結界の中の私を見破るだけではなく、貫いてゆくとは。…紅月季も結滞な女を妻にしたものよ。出来れば食い止めたかったが…黒蓮華はまっすぐに天に向かった」
「富貴后さま、手当するね!お願い、芙蓉国に戻ってよ」
 愛琳が俯いた。母が亡くなった事を思いだす。その後に育て、愛してくれた富貴后さままでいなくなったら…いなくなったら…多分寂しさで狂ってしまう。
「愛琳。女官の心得はどうした。どんなことがあろうと、涙は見せない。辛いときこそ、笑え。宮殿を、皆の明るい心を護るために、笑顔を絶やしてはならぬ――――ほほ。そなたの笑顔はまるで大輪の薔薇のようよ。紅月季のようだ。梨艶、そうであろ?」
「…ああ…」
 訝しげな声音で梨艶は気のない返事をし、白牡丹を睨んだ。
「母上、紅月季という人物には無事に逢えた。母上、俺は不本意ですが、彼を救う手だてを考えている。俺の考えが当たっていれば…この靑蘭と芙蓉国の亡びこそが紅月季の命を奪うのではないのか。紅月季は確かに統治者たる男だった」
「ほう」
「理屈ではない。だが知らずと平伏したのも事実。こんなものを預かったのですが」
 梨艶が手の平を開いて見せた。蒼杜鵑から貰った蒼い石だ。
「蒼杜鵑か…あのやんちゃ坊主らは立派になったか?…小さいころは私によくなついていたのだが」
 あの蛙と熊猫をじゃれつかせている白牡丹の姿を思い浮かべて、愛琳は少しだけ笑顔になった。多分その中には紅月季さまも、黒蓮華もいたのだろう。
「雨が降って来たな。華仙界に雨が降るのは終焉を意味する。紅月季の命の終わりかも知れぬ」
 富貴后の眼尻から涙が溢れた。
「それだけではない。芙蓉国はもう終わりだ。黒蓮華の力は想像以上だ。私は愛する男も愛する国も護れなかった…憎悪は止められない…私の光はもはや届かない」
 辺りに少しずつ火の手が上がっている。黒蓮華の落した憎しみは劫火となって、すべてを焼き尽くそうとしていた。天女は呆然とその広がる火を見ているだけだ。
「諦めちゃだめね!」
「愛琳」
「いつも富貴后さまに助けて貰った。だからみんなきっと頑張るはずよ」
愛琳は唇を噛んで笑った。
―――――何故笑えるのだ…。梨艶が信じられないような表情で愛琳を見やる。濡れた髪の合間から富貴后の瞳が僅かに輝いた。
「私梨艶に冷たくされたよ。芙蓉国嫌いとまで言われたね。でも、富貴后さまや芙蓉国のことを想って頑張った!書状はきっと梨艶が皇太子さまに届けるね。だから大丈夫」
 白牡丹の眼が緩くなった。
「そうか…それは安心だな。頼むぞ、秀梨艶」
「ともかく、貴方は養生するといい。芙蓉国まで運んでやろう」
 ふ…と富貴后が微笑んだ。
「そこまで耄碌しておらぬ。おまえたちは寄り道していないで、さっさと紅月季のヤツのけつを叩いて戻って来るがいい」
 もう会話は無用、とばかりに白牡丹の姿は消え、大きな白龍が再び空に舞い上がった。その尾鰭で思い切り二人を叩き飛ばし、白牡丹は静かに落下してゆく。(頼んだぞ。梨艶、愛琳)そんなメッセージを込めて、富貴后は目を閉じる。
「富貴后さま!」
「行くぞ!母上は大丈夫だ。どこまでも一緒だ、愛琳」
 梨艶は微笑み落ちてゆく白牡丹に敬意を示すかのように呟いた。
「お見事です。母上」と。

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