「初心者VRMMO(仮)」小話部屋
美玖と冬至南瓜
美玖と冬至南瓜
美玖自身はそう思っていないが、かなりの世間知らずである。だが、これだけは知っていた。
何故かと言えば、母方の祖母である千沙が、毎年作ってくれていたのだ。
「もうすぐ冬至かぁ」
思わず呟いたのだが、それを地獄耳で聞きつけた昌代と、美玖のことを最優先にする保が黙っているはずもなく。
「砂〇け婆様、相談があるんだが」
「ほほう。奇遇じゃの、我もじゃ」
こうして、あり得ない速さで滅多にないタッグが組まれたのだった。
「というわけで、何か知らないか?」
ここは世界有数のVRMMO「World On Line」のゲーム内。保のアバターであるジャッジがいるのは殿堂入りを果たした喫茶「安楽椅子」。そして、そんなジャッジの前には二家族のアバターが。
「う~~ん。祖母ちゃんがいれば分かるんだろうけど、今日病院なんだよなぁ」
そう答えたのは、イッセンというプレイヤー。
「多分、お祖母ちゃんが毎年作っていてくれたとかじゃないかなぁ」
「おそらく。母さん、祖母ちゃんが冬至時期に何かしてた?」
「考えられるのは冬至南瓜かしらね」
イッセンに話を振られた女性が少し考えながら答えた。
「冬至南瓜?」
なんじゃそりゃ、というのがジャッジの言い分だった。
無理もない。ジャッジは中学の途中まで国外で過ごしており、日本文化に詳しくないのだ。
「無病息災を願って冬至に南瓜を食べるの。俺らは小豆南瓜だけど、場所によって違うからね」
「この狭い国で色々ありすぎだろ」
小豆が入っていたり、南瓜善哉だったりすると聞いたジャッジは思わず呟いた。
「『運盛』まではいってくると面倒だよ」
「要らん、そんな知識要らん。カナリアが必要としているものさえわかればあとはいい」
「潔すぎ」
イッセンやリリアーヌが呆れる中、ジャッジは何とでも言えとばかりに開き直った。
「……というわけだ」
「冬至南瓜か……味付けも色々変わってくる故、千沙殿に聞かねばなるまいな」
「その辺りなら抜かりなく。婆さんに連絡とった。明日にでも作ってくれるとよ」
「手を煩わせてしまったの」
「婆さんも同じことを言ってたぞ。それから伝えてくれてありがとうってもな」
毎年作っていた冬至南瓜。美玖が喜ぶため多めに作っていたのだが、今は傍にいない。作りすぎてしまうこともあったという。
「左様か。では、毎年頼むと伝えてもらえれば」
「りょーかい」
それくらいの交流なら問題はないだろう。それが昌代の下した決断だった。
千沙は早速とばかりに励んだ。まずは近くの八百屋で小豆を買うところから始まる。
産地を選ぶのは、昔からの慣わしだ。それを水で洗って煮る。ただそれだけだ。昔であれば煮こぼしていたが、最近は水を取り替えるようにしている。
思わず鼻歌がこぼれたが、それを咎めるものなどいない。
「出来た。お父さんの仏前にもあげて、と」
タッパーに詰めて、千沙は家を出た。
二つの器に入った冬至南瓜を見た美玖は、首を傾げた。
「味を比べてみ」
「は、はいっ」
美玖にとって甘味と言えば冬至南瓜ともいえた。
「……あ」
もう、食べることがないと思っていた祖母の味付けがそこにあった。
「やはり美玖は味覚が敏感よの」
「どうして……」
「お主を可愛がるのは一緒にいる我の特権じゃ。保に取りに行ってもらったがの」
こんなによくしてもらっているのに、美玖は昌代にも保にも、そして今まで世話になった人たちにも何も返せない。それが歯がゆかった。
「美玖よ、お主が笑顔になるのが皆への恩返しじゃ。努々忘れるでないぞ」
「……はい」
昌代の声は優しく美玖の心に響いてきた。
美玖自身はそう思っていないが、かなりの世間知らずである。だが、これだけは知っていた。
何故かと言えば、母方の祖母である千沙が、毎年作ってくれていたのだ。
「もうすぐ冬至かぁ」
思わず呟いたのだが、それを地獄耳で聞きつけた昌代と、美玖のことを最優先にする保が黙っているはずもなく。
「砂〇け婆様、相談があるんだが」
「ほほう。奇遇じゃの、我もじゃ」
こうして、あり得ない速さで滅多にないタッグが組まれたのだった。
「というわけで、何か知らないか?」
ここは世界有数のVRMMO「World On Line」のゲーム内。保のアバターであるジャッジがいるのは殿堂入りを果たした喫茶「安楽椅子」。そして、そんなジャッジの前には二家族のアバターが。
「う~~ん。祖母ちゃんがいれば分かるんだろうけど、今日病院なんだよなぁ」
そう答えたのは、イッセンというプレイヤー。
「多分、お祖母ちゃんが毎年作っていてくれたとかじゃないかなぁ」
「おそらく。母さん、祖母ちゃんが冬至時期に何かしてた?」
「考えられるのは冬至南瓜かしらね」
イッセンに話を振られた女性が少し考えながら答えた。
「冬至南瓜?」
なんじゃそりゃ、というのがジャッジの言い分だった。
無理もない。ジャッジは中学の途中まで国外で過ごしており、日本文化に詳しくないのだ。
「無病息災を願って冬至に南瓜を食べるの。俺らは小豆南瓜だけど、場所によって違うからね」
「この狭い国で色々ありすぎだろ」
小豆が入っていたり、南瓜善哉だったりすると聞いたジャッジは思わず呟いた。
「『運盛』まではいってくると面倒だよ」
「要らん、そんな知識要らん。カナリアが必要としているものさえわかればあとはいい」
「潔すぎ」
イッセンやリリアーヌが呆れる中、ジャッジは何とでも言えとばかりに開き直った。
「……というわけだ」
「冬至南瓜か……味付けも色々変わってくる故、千沙殿に聞かねばなるまいな」
「その辺りなら抜かりなく。婆さんに連絡とった。明日にでも作ってくれるとよ」
「手を煩わせてしまったの」
「婆さんも同じことを言ってたぞ。それから伝えてくれてありがとうってもな」
毎年作っていた冬至南瓜。美玖が喜ぶため多めに作っていたのだが、今は傍にいない。作りすぎてしまうこともあったという。
「左様か。では、毎年頼むと伝えてもらえれば」
「りょーかい」
それくらいの交流なら問題はないだろう。それが昌代の下した決断だった。
千沙は早速とばかりに励んだ。まずは近くの八百屋で小豆を買うところから始まる。
産地を選ぶのは、昔からの慣わしだ。それを水で洗って煮る。ただそれだけだ。昔であれば煮こぼしていたが、最近は水を取り替えるようにしている。
思わず鼻歌がこぼれたが、それを咎めるものなどいない。
「出来た。お父さんの仏前にもあげて、と」
タッパーに詰めて、千沙は家を出た。
二つの器に入った冬至南瓜を見た美玖は、首を傾げた。
「味を比べてみ」
「は、はいっ」
美玖にとって甘味と言えば冬至南瓜ともいえた。
「……あ」
もう、食べることがないと思っていた祖母の味付けがそこにあった。
「やはり美玖は味覚が敏感よの」
「どうして……」
「お主を可愛がるのは一緒にいる我の特権じゃ。保に取りに行ってもらったがの」
こんなによくしてもらっているのに、美玖は昌代にも保にも、そして今まで世話になった人たちにも何も返せない。それが歯がゆかった。
「美玖よ、お主が笑顔になるのが皆への恩返しじゃ。努々忘れるでないぞ」
「……はい」
昌代の声は優しく美玖の心に響いてきた。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
35
-
-
59
-
-
70810
-
-
439
-
-
221
-
-
49989
-
-
75
-
-
4405
-
-
238
コメント