「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

花の日小話。「お花を贈ろう」


「花を贈ろう!」
 誰が言い出したのかは分からない。……が、いつの間にやら恋人に花を贈ろうということになった。

良平と悠里の場合

 本日が「花の日」だと知った良平はすぐ動いた。とりあえず勤務先と自宅の間にある花屋に電話をしたのだ。
 注文はあっさりと終わり、あとは持ち帰るだけ。悠里の好きな花も知っているし、花言葉だって調べた。
「ただいま。はい、悠里」
「おかえりなさい。……今日何かの記念日だったかしら?」
 おっとりと悩む悠里つまが可愛い。このまま抱きしめたくなるくらいに。
「今日花の日なんだとさ。だから、悠里の好きな花をって思った」
「うふふ。ありがとうございます。相変わらず素敵なものを選ぶのですね」
「……そりゃね」
 良平は思わず回想してしまう。
 気の利かない母とロマンチストな父を。父親はことあるごとに母親にプレゼントをしていたが、母親は毎度忘れる人だった。そらもう、結婚記念日も誕生日もすべてだ。母親曰く「いちいち記念日気にしていたらやっていけない! それくらいならごみの日をしっかり覚えやがれ!」ということらしい。

 毎度様々な記念日に母親にプレゼントを贈り、自分が貰えなくてひっそりと涙するむさくるしい親父に、良平と晴香は冷めた目を向けていた。
 そんなわけで、二人は一計を案じたのである。「記念日が近くなったら二人で母親に教えるぞ!」と。
 それが功を奏し、母親は父親にプレゼントを渡すようになった。

 ……なったのだが。毎度選んでいたのは兄妹だ。途中からは交代制となり、記念日を忘れてしまえば二回連続忘れた方が用意するというルールが発生した。
 そして、どれくらい喜んでもらえるかというのを考えるようになったのだ。

 そして現在。
 良平はプレゼント選びをそこまで外すということがなくなった。母親の代理でプレゼントを見に行くということもなくなり、悠里にだけ贈ればいいというのは気楽である。
「あたしが大変になった!!」
 そうわめく妹を尻目に、こっそりと悠里の好きそうなものを見つけているのだった。

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