「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

良平の災難 その二

 その間にもちろん紗耶香たちとも出くわし、ベルトの礼を述べたあと、こういう時の揶揄いは限度があると説教をしておいた。
「うん。禰冝田のばばさんにも同じこと言われた。つか、あっちでパッシブスキル使用の上で、説教みんなで食らった」
「君らもあれやってるのか」
「うい。お勧めしちゃった。学習塾にみんなで通ってる」
「……さよか」
 友好関係が少しばかり狭くなりつつなるな、と良平は遠い目になった。
「しかし、君らからお見舞いで貰ったベルト、奮発したんじゃないの?」
「んー。クラスと有志で一人百円も予算かけてないよ。オッサン、人望はあったんだね」
「みたいだねぇ。怖がって近づかない生徒が多いと思ってたんだけど」
「そりゃ外見がねーー。一つ間違えばやのつく自由業みたいだし」
「遺伝的要因は仕方ない」
 厳ついのは、両親譲りだ。
「中身はやんちゃなオッサンなのに」
「同じことを保たちにも言われたなぁ」
「保?」
「『TabTapS!』内ではジャッジだな。あとはそいつとつるむ、ジャスティス、ユウは同級生だからな。初めて持った教え子たち。あいつらも同じこと言いやがった」
「あらま。あのヤンデレさんと愉快な仲間たちか」
 ……その言い方は間違いではない。が。
「その言い方されると、俺もその中にいれられそうで嫌だな」
「いや、あそこのギルマスしてる時点で仲間っしょ。悠里ちゃんとうさちゃんを愛でる仲間」
「それは否定しない」
「ドヤ顔で言い切ったよ、このオッサン」
「悠里愛でるのは俺だけだけどさ」
 というよりも、他の奴に愛でさせるつもりなどこれっぽっちもない。
「晴さんもでしょ」
「晴香は可愛ければなんでもいいぞ。時折百合なんじゃないかと錯覚するときがある」
 おそらく、今の教え子たちを見て「眼福」と思っているだろう。一つ間違えば妹も犯罪者だ。……それを取り締まる側というのが、何とも言えない。
「晴さんの現在一番のお気に入りは?」
「一番ってか、AIのアルブスに古瀬君、それから古瀬君の従姉のリリアーナ君、それから君だろうな」
「……ちょっと身の危険を感じた」
「感じときなさい。あいつの趣味は兄の俺もよくわからん」

 職員室で他の教職員に迷惑をかけたことを詫びつつ、椅子に座った。
「災難でしたねぇ」
「全くです。色々と要因が重なっただけみたいです。しばらく重いものを持つのも駄目みたいなんで、もう少し部活も休みます」
「あらま。何をしようとしてたのかしら」
生石灰せいせっかいを使った実験でもと思って」
「火事でも起こす気ですか!?」
 櫻井高校に初赴任した時に、良平が設立した「科学部」。別名「何をしでかすか分からない連中の集まり」は、毎年何かしら問題を起こしている。良平が再度来てからは、問題を起こしていないはずなのだが。
「外でやりますし、問題ないですよ。ただ、生石灰で焼き芋でも作ってみようかと」
「出来るん……ですか?」
「愛媛の名物ですよ。高校で出来るかは分かりませんが」
 その言葉に、職員の大半が呆れていた。

 そのまま午前中を何とかやり過ごしていたが、問題が生じた。

 腰痛ベルトがだんだんと腹部にせりあがってきているのだ。そこまで贅肉ないはずなんだがなぁと思いつつ、時折ベルトを直す。

 そして放課後、良平にとって悲劇が起きた。
「ふぇっくし……ごふっ」
 くしゃみをした瞬間、せりあがっていたベルトが、腹部を圧迫した。
 きつめにしていたベルトは、そのまま腹に食い込み、良平にダメージをもたらす。
「……オッサン、どうした」
「な……でも……」
 まともに会話も出来ないほどだ。

「……今回初めて知ったけど、腰痛ベルトってだんだんせりあがってくるのな」
 帰宅後、悠里とそんな話をした。

 それを聞いていたのは、実は悠里だけではない。


 笑いの種にと言わんばかりに、晴香は颯爽とアパートに帰り、ログインする。


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