「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

初めてのXX 2


 唐突に声をかけてきた男に、美玖は驚いた。どうやら保の知り合いらしい。
「……どなた……ですか?」
 金髪碧眼の壮年の男性だ。
 仕事関係の人なら、美玖は離れたほうがいいだろう。幸いにも手芸屋が近い。
「そちらはlittle ladyか。リアルで会うのは初めてだね。よろしく」
 そう言って美玖の手の甲に口付けをしてきた。
「ふぇぇぇ!?」
「いい加減にしろ! 何の用だ」
 相手を睨みながら保が怒鳴った。


 美玖が驚いているうちに、近くの料亭へと連れて行かれた。
「全く。My dear sonは相変わらず冷たい」
「あんたに息子扱いされるいわれはない。用がないなら……」
「うん。出て行くのは勝手だけどlittle ladyは置いてってね。私が話したいのはlittle ladyだし」
「却下だ」
「だったら、My dear sonもいること。OK?」
 不機嫌なのをそのままに、保はその場に座った。
「リアルでは初めて会うからね。私の名前はクリストファー。クリストファー・ジャッジという。『TabTapS!』ではクリスという名前でやっている。
 そして、My dear sonの親代わりを一時期やった男だよ」
 その言葉に、美玖がかなり驚いていた。

「今までどういう関係だと思っていたのかな? little ladyは」
「えっと……ゲーム上でそう言っているだけだと思ってました」
 驚愕の上乗せで別の意味で覚醒してしまった美玖である。食事をしながらクリストファーと話し始めた。
「私とMy dear sonの付き合いは、アメリカにいた頃からだからね。ただ、ゲーム関係では今回以外絡んだことはないよ。リアルではオムツが外れる前から知っているけど」
「余計なことを言うんじゃねぇ!」
「余計なこととは? あぁ。お前が初めて乗ったジェットコースターでお漏らしをした事かい? それともお化け屋敷で怖くて泣いちゃったことかい? それとも飛び級スキップで行った大学でグラマーな年上女性に言い寄られたことかい?」
「……てめぇ」
 グラマーな年上女性に言い寄られるほど、保はいい男なのだと痛感してしまう。美玖がつりあう男ではないと。
「あ。little lady? どうしたの?」
「てめぇのせいだろうが。……ったく」
「私が何か悪いことでもしたのかい?」
「美玖。あのな、こいつの言ったことは無視しろ。美玖が産まれるか産まれないかの時の話だ。それに、あいつらは俺を見てたんじゃなくこいつ。そのための俺は餌」
「餌?」
「そ。クリストファーこいつは昔から外面はいいし、金もある。ところが学生如きじゃ、パイプを作るのは難しい。そこへ俺が入学した。だから、手っ取り早く俺を使えば丸め込めると思ってただけ。そいつらは別のやつが食ってたから、俺は手を出していないし」
「食った!?」
「……美玖が思っているようなもんじゃないぞ? やつは食人鬼ではないからな」
「おや。そうだったのかい。お前も恩恵にあずかっていたのかと思っていたよ」
「あんな化粧臭い女、お断りだ」
 そう言いながらも保は美玖の背中を撫でていた。
「それにしても聞きしに勝るというか。……日本語の諺『百聞は一見にしかず』というのは本当だね。お前が誰かにそこまで優しくしているのは初めて見たよ。今までなら誤解されても平気というスタンスだったのに」
「手放すつもりがないからな」
 そう言って保は、美玖を抱き寄せた。

「……あの、保さん」
「? 美玖どうした?」
 どこまでも美玖に甘い保に、意を決して聞くことにした。
「食事以外の『食べる』って他にどんな意味があるんですか?」
「……あーーー」
 保がもの凄く答えづらそうに視線を逸らしていた。

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