「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

ブクマ1500件突破お礼小話~マープルさんのとある一日 その6~


 何とか捕らえた亀は、火山の方に進んでいく。
「やっぱり昔話とは逆だし、色々混ざってるわね。ロイドとルーファスも色々確認しながら進まないと難しいかもしれないわね」
『日本サーバはミセス・マープルのように古参の者が多いせいでは?』
「あら、ルーファス。失礼ね。日本サーバ以外にもあたしたちと同じくらいやっている方はいらっしゃるのよ」
『それは失礼』
 六人が乗れる大きさというのがまた、罠のように感じてしまう。このクエストで何度死にかけたか。そう思ってしまうが、マープルは探求を止められない。
「ふふふ」
「ばあちゃん、すっげぇ楽しそう」
「楽しいわよ? こういう気持ちを忘れちゃったら駄目よ」
 ドキドキ、ワクワク。それを忘れてしまえば、ゲームは面白くなくなる。それが亡き夫の言い分だった。

「でたぁ!! でも鬼でもオーガでもないよ!! ホブゴブとキングゴブだ!!」
 叫んだのはイッセンだった。リュートやヒトユメも一緒になり、戦いを始める。
「相手はゴブリン! 耐性は火と水!! 弱点なし!」
 ヒトユメがすぐに叫ぶ。
「うぇぇ。太刀も通んないよ」
「魔法も無効化されます!」
 ロイドも叫ぶ。こちらとしては打開策一つ見つからない。

 その時、マープルの中で「逆」と言葉が頭をよぎった。
 桃太郎に関してはまだ「黍団子」しか出ていない。そして、浦島太郎の老化はあったが、本来であれば戻ってきた後箱を開くとなるはずだ。そして「小さくなるための黍団子」は、亀を大きくした。つまりは……。
「いっくん! クエストリタイアするわよ! このクエストは失敗よ!!」
 その声は他のクエスト受注者にも聞こえたらしく、マープルたちと同時期にクエストを始めた人物は一気にリタイアした。

 それがまた、マープルには面白くない。自分で調べるということをどうしてやらないのだと言いたくなる。

 イッセンが言われたとおりクエストをリタイアすると、マープルは一緒にパーティを組んだ人物を「安楽椅子」の二階へ招いた。
「とりあえず、今回はクエスト失敗。にしても、根性ないのが多いのね」
「……あぁ。俺たちのあとをつけてたやつらのことですね」
 リュートが呆れたように言う。
「あたしはこのクエストから降りるわよ。あんな風にされたんじゃ面白くない。全く……ジャッジ君が言うのも分かっちゃうわ」
「まぁまぁ。で、それだけで呼んだわけじゃないでしょう?」
 ヒトユメが楽しそうな顔で言う。そう、娘の夫は生粋のゲーマーだ。最初に攻略して何ぼの男。そして、出来ることなら自分で色々考えたいはずだ。
「そうね。ヒントは『逆』かしら? それで途中までは進めるはずよ」
「ばあちゃん、訳分かんない」
「つまり、あの亀と逆方向に進めばよかったと?」
「多分だけどね。お互いいる場所が分かるマッピングを利用してクリアするしかないんじゃないかしら? 二組か三組に分けて」
 そこまで言うと、ヒトユメとリュートは納得したらしい。
「かなり厄介な協力プレイ縛りだね。リュー」
「ヒトユメは大好きだよな、そういうの」
 二人はそこまで言うとにやりと笑う。
「さて、リタイアのペナルティが解けたら、再度いきますか。次で攻略できそうな気もするし」
 リュートが楽しそうに言う。
「こういうのは一番乗りが楽しいんだよな」
「あ、俺も!! 俺も解けたらやる!」
「僕もやります!」
『私も是非一緒に!』
「あたしは悪いけど、そろそろログアウトの時間。明日美玖ちゃんが遊びに来るからね」
 その言葉に、ヒトユメとリュートが反応した。
「そういえば美玖にVRMMOを勧めたとか」
「悪い?」
「いえ、あの馬鹿が黙っているかな、と」
「大丈夫よ。言われたらあたしが言い返すから。それに最近美玖ちゃんいい笑顔になったのよ」
「明日その話聞かせてよ!」
「そうね。美玖ちゃんは朝からうちに来てVRに繋ぐの。だから、明日は朝一で繋ぐわよ」
 マープルは普段そんなことをしない。朝は近所づきあいと決めているのだ。
「俺も明日朝一で繋いでいいよね? お父さん!」
「勿論だ。リリちゃんも一緒にどうだい?」
「そうだな。俺は仕事で無理だけど……。リリには繋ぐよう言っておく」
 これで全員の言い分が決まり、マープルはログアウトした。


 翌朝、イッセンに「昨日三回目でクリア。しかもクリア最初のパーティになった!」という嬉しい報告をマープルはもらった。

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