「初心者VRMMO(仮)」小話部屋

神無乃愛

シュウへの報復2


 今回のイベントは「桜祭り」。シュウがやっていた頃から続いているイベントで、毎年限定のアイテムが手に入る。
 数年前からこのイベントでランクを競うようになり、その上位にはリアルで使える何かがプレゼントが贈られる。
 個人情報を基にしたイベントともいえる。

 日本サーバ限定イベントということだけは知っている。そして海外サーバからもクエストをするために集まってくることも。
 ただし、海外サーバのプレイヤーはランキング対象外であり、仮に海外サーバのプレイヤーをパーティに入れてクエストをクリアしたとしても、ポイントは通常の十分の一と決められていた。
 パーティ内で分配されるはずのポイントを海外サーバのプレイヤーを「傭兵」のように使って荒稼ぎしたプレイヤーがいたらしく、そのあたりへの対処らしい。

 その代わりにと言ってはなんだが、海外サーバのプレイヤーと一緒にクエストをするとレアアイテムのドロップ率が高くなる設定になっているのだとか。
 勿論レアアイテムは海外サーバのプレイヤーにも分配される。

 桜祭りを楽しむプレイヤーには二種類いるという。一つはランキング入りを目指す者。もう一つはレアアイテムを狙う者。

 そこまで調べをつけてきたのだ。


 それにしても遅い。少しばかりイライラしそうになるのを、シュウは何とか抑えていた。
「そういや、聞いたか?」
「んー? 何が?」
「T.S.コーポレーション不祥事で解体だってよ」
「あぁ! あの身内贔屓の会社か! 身内優先の処遇ばっかで面白くなくなるんだよなー」
「それ分かるわー。ってかさ、前回の『VR事件』の時は思いっきり被害者ぶってたけど、結局昔と何も変わってなかったてことか」
「だよなー。俺の妹もさ、あのゲームにいる職人に感化されて始めたけど、一部の古参のプレイヤーが最悪だって言ってたもんな」
「マジで?」
「マジ。ただ、その職人チームの人たちは古参だけど親切だって。クエストやってる間に何回か助けてもらったらしいし」
「何その神みたいなプレイヤー!」
「なんかさ、すっごい面白い人たちみたいだし」
「いいな~~。それ」
 否応なく聞こえてくる周囲の声。「TabTapS!」であればタブレットで情報の検索も出来るため時間つぶしが出来るが、こちらでは出来ない。

「おひさ」
 気がついたら目の前に見知らぬ男が座っていた。だが、声は友人のものではない。
「いっくん、知り合い?」
 リリアーヌが不思議そうに訊ねてきた。
「いっぺん顔合わせたな。……あいつ、、、を挟むと見事に知り合いになる」
「?」
「イチゴミルク」
「!!」
 言われた意味を理解できずにいると、目の前の男はとある飲み物を口にする。それだけで相手が誰なのか分かった。
「ここはね、俺たちのばあちゃんの店。俺たちはほとんど毎日手伝いしている。OK?」
「……あ……あぁ」

 また友人に騙されたのだ。急いでこの店を出てログアウトしようと思っていた、その時だった。

 いきなり男にPvPを持ちかけられた。
「俺がログアウトさせると思う? 付き合えよ」
「断る!」
「へぇ。逃げるんだ。あいつは逃げることすら出来ない状態でさせられたのに」
「……何のことだ」
「あいつは、無理矢理お前に連れて行かれた先で、ゲームやってあの状態までさせられたのに? お前は逃げるんだ」
「俺は悪くないっ!!」
 男の言葉に、シュウは思わず声を荒げた。
「お前のせいだろ?」
 残酷な笑みを浮かべて男が言う。

 気がついたら、既に数人が戦闘態勢に入っていた。

「イッセン、知り合い?」
 周囲に座っていたプレイヤーたちまでもが騒ぎ出した。
「一応はね。俺がここに居るって知ったら向こうは逃げ出したいみたいだけどね」
「何で?」
「俺の可愛い妹分を傷つけた男だからね」
「え!? リリアーヌちゃんを?」
「リリじゃない。もう一人の大事な妹分」
「そりゃぁ、逃げ出すよ。イッセンが本気で怒ったら洒落にならないもん」
 周囲のプレイヤーが騒ぎ出す。
「……だからさ、逃げは許さない」
「そうだねぇ。それ聞いたら、今まで丁寧に接客したあたしが馬鹿みたいだと思っちゃった」
 リリアーヌまでもがそう言って参戦してくる。
「馬鹿なことで騒ぐな」

 誰かがそう言ってたしなめていた。


 声がした方向を向けば、そこに立っていたのは二人組の男だった。
「あ、今日は二人一緒?」
「まぁな。あっちが大型メンテナンスだし。ばあさんの生存確認に」
「生きてるわよ」
「そりゃよかった。
 イッセン。逃げは本能だからな。本能でお前に敵わないって思って逃げるんだろ。放っておけ」
「なっ!?」
「ジャッジさん、さり気に酷いね」
「いや、こいつの動きを見てりゃそうなる。少しでも厳しい修行になれば逃げ出すし、自分より弱いものには強気に出るし、根性ないし」
「ふざけるな!!」
 ジャッジの言葉に、シュウは思わず怒鳴り声をあげた。
「だったら、イッセンのPvPくらい受けろよ。
 イッセン、こいつは暫くこっちのゲームやってないからハンデつけてやれよ」
「そのつもり。彼よりLVを二十くらい低くした上、武器は初期装備」
 舐められている。そう思った瞬間、PvPを受けていた。

「本当にどうしようもない馬鹿だな、あいつは」
 ジャッジの呟きは、誰も聞き取れなかった。

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