レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~
終章【分魂の接吻】 ※地図有
『レジス儚記』
世界の辿った道を記録するため、私は本書に記します。
この世界の歴史。
そして我々のためにその身を捧げた、異世界の青年のこと。
どうか後世に語り伝えてください。
彼が最期に語ってくれた全てを――
―― 第一部 ――
遠い昔。
この世界には、一つの大陸を消失させられるほどの魔法が存在しました。
そんな力を持った国同士は、一触即発の硬直状態にあったそうです。
このまま戦争が続けば、いずれは人類の住めない星と化してしまうでしょう。
そこで、元々争いの好まない精霊族の族長たちは話し合い、『世界を存続させるためには共通の敵を置くことだ』という考えに至りました。
新たな火種を生むことで、争いの矛先を有耶無耶にしようとしたのです。
そして翼の生えた精霊族だけが使える召喚魔法で、異世界から魔力の高い人間を一人呼び出しました。
その者は精霊族から様々な魔法を教え込まれ、やがては最強の魔女と呼ばれるまでに成長したのです。
そしてある日、魔女は指示された通り世界中の王を殺して回りました。
それによって魔女は世界の敵となり、争いの矛先はそちらへ向きます。
国同士が戦争などをしている場合ではなくなり、新たな王たちは手を組みました。
力を合わせ、共通の敵である魔女に立ち向かうこととなったのです。
まさに狙い通りでした。
やがて魔女は世界の中心にある大陸へと追い詰められます。
そしてついに、その大陸ごと例の強大な魔法で攻撃されたのです。
そこは人の住める環境ではなくなり、精霊族によって封印されました。
その時に魔女は一度死んだといいます。
魂を分け与えてもらうことで生き返った魔女も、一部の精霊族によりそこへ幽閉されてしまいました。
戦争を目論む王がまた現れた時には、魔女を解き放って暗殺させる精霊族。
いつしかその大陸は、魔女が住む世界の裏側、『幽世』と呼ばれるようになりました。
こうなると魔女はもう、殺戮の道具でしかありませんでした。
翼を持つ精霊族たちはこのやり方に疑問を持つようになり、尖耳の精霊族たちとは意見を違えるようになったそうです。
そして前者は、他の種族が上ってくることの出来ない天空に街を作り、自らを天族と呼びました。
下界に住むことを諦めたのです。
やがて時は経ち、魔女と魂を共にする者の寿命が近づいて来ました。
魂は不死でも、肉体がいうことをきかなくなってきてしまったのです。
その者の死は魔女の死をも意味する。
そこで尖耳の精霊族は、跡継ぎを得るために独自に開発した召喚魔法で儀式を行います。
すると魔女と同等の魔力を有した子を呼び出すことに成功しました。
世界の為にと精霊族はまたその子を育てます。
しかしその子は邪悪な心を宿していました。
機を計らい、幽世を飛び出してしまったのです。
邪悪な子は動乱の世を望み、邪鬼と恐れられ、心を操る能力でモンスターたちをも狂暴化させます。
魔女は残り少ない寿命を使いながら、邪鬼を追いました。
その頃、平和だった天族の島もドラゴンに襲われる事件が発生していました。
邪鬼の仕業です。
そこで、とある天族の少女が街を救うため、召喚の儀式を行ったのです。
こうして現れた冴えない人族の青年ですが、ドラゴン討伐のためにうっかり使った魔法の代償で逆成長し、子供になってしまいます。
新たな人族が召喚されたと知った魔女は、その少年を攫いました。
そして邪鬼の代わりにと、少年を育ててみることにしたのです。
元の世界でろくな目にあって来なかった魔女、人族は嫌いでした。
しかし寿命が近い今、自分の遺志を継ぐ者を育てるしかなかったのです。
うまく育たなかったら、この世界は終焉を迎えるしかないと。
最後の望みでした。
少年は色んな人と出会い、色んな世界を見て回りました。
そのうちに強くたくましい体を身に着けていきました。
やがて、この世界を守りたいと言い出します。
魔女の望み通りでした。
遺志を継ぐ者が育ったのです。
しかし、この少年に世界の重荷を背負わせることに対して、魔女のほうが負い目を感じだしました。
彼はとても優しい少年だったからです。
体はたくましくなれども、心は決して強いとはいえませんでした。
――もしも自分の跡を継ぐとなれば、たくさんの死を見届けることになるだろう。
――そして彼の優しさは時に自分を追い込み、押しつぶされそうにもなるだろう。
――その時に立っていられるのだろうか。
魔女はそれを想像すると、なぜか涙が出そうになりました。
だからこの世界はもう、諦めることにしたのです。
――少年を元の世界へ帰してやろう。
――自分のとっておきの究極魔法で。
しかし少年はそれを拒みます。
彼は言いました。
自分のやり方で戦争を無くしてみせると。
そして魔女、貴女をも幸せにしてやると。
そこで魔女は、自分の命を使って少年に魔法をかけます。
元の世界へ戻す魔法ではなく、せめてその身を守れる強さをと。
最期に希望を託したのです。
――戦のない世界を作ることは、どうすれば可能なのか。
あわよくばこの答えを導き出してくれる者にならんことを、と――
これが彼の、長い旅の始まりでした。
―― 第一部 完 ――
<a href="//19210.mitemin.net/i223226/" target="_blank"><img src="//19210.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i223226/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
世界の辿った道を記録するため、私は本書に記します。
この世界の歴史。
そして我々のためにその身を捧げた、異世界の青年のこと。
どうか後世に語り伝えてください。
彼が最期に語ってくれた全てを――
―― 第一部 ――
遠い昔。
この世界には、一つの大陸を消失させられるほどの魔法が存在しました。
そんな力を持った国同士は、一触即発の硬直状態にあったそうです。
このまま戦争が続けば、いずれは人類の住めない星と化してしまうでしょう。
そこで、元々争いの好まない精霊族の族長たちは話し合い、『世界を存続させるためには共通の敵を置くことだ』という考えに至りました。
新たな火種を生むことで、争いの矛先を有耶無耶にしようとしたのです。
そして翼の生えた精霊族だけが使える召喚魔法で、異世界から魔力の高い人間を一人呼び出しました。
その者は精霊族から様々な魔法を教え込まれ、やがては最強の魔女と呼ばれるまでに成長したのです。
そしてある日、魔女は指示された通り世界中の王を殺して回りました。
それによって魔女は世界の敵となり、争いの矛先はそちらへ向きます。
国同士が戦争などをしている場合ではなくなり、新たな王たちは手を組みました。
力を合わせ、共通の敵である魔女に立ち向かうこととなったのです。
まさに狙い通りでした。
やがて魔女は世界の中心にある大陸へと追い詰められます。
そしてついに、その大陸ごと例の強大な魔法で攻撃されたのです。
そこは人の住める環境ではなくなり、精霊族によって封印されました。
その時に魔女は一度死んだといいます。
魂を分け与えてもらうことで生き返った魔女も、一部の精霊族によりそこへ幽閉されてしまいました。
戦争を目論む王がまた現れた時には、魔女を解き放って暗殺させる精霊族。
いつしかその大陸は、魔女が住む世界の裏側、『幽世』と呼ばれるようになりました。
こうなると魔女はもう、殺戮の道具でしかありませんでした。
翼を持つ精霊族たちはこのやり方に疑問を持つようになり、尖耳の精霊族たちとは意見を違えるようになったそうです。
そして前者は、他の種族が上ってくることの出来ない天空に街を作り、自らを天族と呼びました。
下界に住むことを諦めたのです。
やがて時は経ち、魔女と魂を共にする者の寿命が近づいて来ました。
魂は不死でも、肉体がいうことをきかなくなってきてしまったのです。
その者の死は魔女の死をも意味する。
そこで尖耳の精霊族は、跡継ぎを得るために独自に開発した召喚魔法で儀式を行います。
すると魔女と同等の魔力を有した子を呼び出すことに成功しました。
世界の為にと精霊族はまたその子を育てます。
しかしその子は邪悪な心を宿していました。
機を計らい、幽世を飛び出してしまったのです。
邪悪な子は動乱の世を望み、邪鬼と恐れられ、心を操る能力でモンスターたちをも狂暴化させます。
魔女は残り少ない寿命を使いながら、邪鬼を追いました。
その頃、平和だった天族の島もドラゴンに襲われる事件が発生していました。
邪鬼の仕業です。
そこで、とある天族の少女が街を救うため、召喚の儀式を行ったのです。
こうして現れた冴えない人族の青年ですが、ドラゴン討伐のためにうっかり使った魔法の代償で逆成長し、子供になってしまいます。
新たな人族が召喚されたと知った魔女は、その少年を攫いました。
そして邪鬼の代わりにと、少年を育ててみることにしたのです。
元の世界でろくな目にあって来なかった魔女、人族は嫌いでした。
しかし寿命が近い今、自分の遺志を継ぐ者を育てるしかなかったのです。
うまく育たなかったら、この世界は終焉を迎えるしかないと。
最後の望みでした。
少年は色んな人と出会い、色んな世界を見て回りました。
そのうちに強くたくましい体を身に着けていきました。
やがて、この世界を守りたいと言い出します。
魔女の望み通りでした。
遺志を継ぐ者が育ったのです。
しかし、この少年に世界の重荷を背負わせることに対して、魔女のほうが負い目を感じだしました。
彼はとても優しい少年だったからです。
体はたくましくなれども、心は決して強いとはいえませんでした。
――もしも自分の跡を継ぐとなれば、たくさんの死を見届けることになるだろう。
――そして彼の優しさは時に自分を追い込み、押しつぶされそうにもなるだろう。
――その時に立っていられるのだろうか。
魔女はそれを想像すると、なぜか涙が出そうになりました。
だからこの世界はもう、諦めることにしたのです。
――少年を元の世界へ帰してやろう。
――自分のとっておきの究極魔法で。
しかし少年はそれを拒みます。
彼は言いました。
自分のやり方で戦争を無くしてみせると。
そして魔女、貴女をも幸せにしてやると。
そこで魔女は、自分の命を使って少年に魔法をかけます。
元の世界へ戻す魔法ではなく、せめてその身を守れる強さをと。
最期に希望を託したのです。
――戦のない世界を作ることは、どうすれば可能なのか。
あわよくばこの答えを導き出してくれる者にならんことを、と――
これが彼の、長い旅の始まりでした。
―― 第一部 完 ――
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