レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第五章 第七話「竜族の王」 ※挿絵有

 ――気がつくと陽太は、あたたかいものに包まれていた。
 それはお日さまのような。
 それは母親のような。

「んんっ……」

 目を開けるとそこには見知らぬ顔があった。
 槍で心臓を突かれたはずの陽太は、なぜか美少女の腕の中にいたのだ。
 ほどよく育ったグレープフルーツのような胸に埋まり、しっかりと抱き締められている。
 優しい、落ち着く匂い。
 どこかで見覚えのあるような銀髪。

「気が付いたかえ……」

 この声は――

<a href="//19210.mitemin.net/i218469/" target="_blank"><img src="//19210.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i218469/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a> 

「姐さん!?」

 しかしあのメロンのように豊満な胸は無く、どこかあどけなさの残る幼い顔つき。
 美人にはかわりないが、可愛いといったほうが妥当であろう。

「まさか……」

 【星霜の途絶】、その代償なのか。
 槍から救うために時間を止めた魔女。

「俺のために、すみません……」
「別に構いせん。わっちが童子になったところで何も変わりはせんしょう」
「いえ、それ以上はダメです!」
「は?」
「それ以上おっぱいが萎んでしまったら俺の癒しがうぶしぇ!!」

 ――グーパンご馳走さまでした。

 周囲を見回すと、さっきの戦場から少し離れた、城のそばへと運ばれていた。
 そこには陽太と魔女の二人しかいない。

「ルナ!? ルナは!?」
「白虎が守っておりんしょう」

 すると、空から陽太たちを見つけたルナディがこちらへ向かってくる。

「陽たーん!」
「ああ、ほんとだ。良かった……」

 白虎から降りて陽太に飛びつくルナディ。
 白虎は役目を終えたとばかりにぽんっと消える。

 そこへ城の中から見覚えのある人物が出てきた。
 そいつは陽太のほうへ駆け寄ってくる。

「ハリルじゃねーか!!」
「騒がしいと思ったら、陽太かよー! ははっ!」

 抱き合い、無事を確認して喜び合う二人。
 そしてハリルは銀髪の少女に目をやる。

「で、その可愛い子は誰だ?」
「あ……ああ、話せば長くなるんだけど……まず竜王が――」

 と、話し始めたかと思ったのもつかの間、陽太は急にうつむき、沈黙しだした。

「陽たん……悲しいの?」
「なんだよ言ってみろよ」
「……」

 ハリルが陽太の肩に手をかける。
 すると陽太は、いきなりハリルを突き飛ばした。
 そして近くに置いてあった魔女の鎌を手に取り、ハリルに向ける。

「お、おいっ!? どうしたんだよ!!」
「陽たん!?」

 その光景を見て魔女が呟く。

「まさか……」

 キョロキョロとあたりを見回す魔女。

「……どこに隠れておる」

 そこへ馬の駆ける音が耳に入る。
 竜王たちが追いついてきたのだ。

「親父か? 陽太、何かされたのか!?」
「……」

 しかし陽太は答えない。
 そして急に竜王へ向かって走り出した。
 竜王も竜王で、敵とみなしている陽太を迎え撃つ。

 ――ガキィィィン!!

 陽太の振りかざす鎌が、竜王の槍と激しくぶつかり合った。
 弾き飛ばされる陽太。
 力ではかなわない。

 するとその瞬間、倒れている陽太の体が一瞬発光した。
 かと思うと、その姿は地を這う影となり、竜王たちの周りを高速移動する。

「潜影だと!? 地属性の上級か!」

 足元にうろつく影に騎馬も慌てふためき、暴れだす。
 態勢を崩す竜王。

 ――パシュ!

 何かが吹き飛んだような音に、皆の視線が集まる。
 するとそこには――

 首の無い竜王の姿があった。
 影から飛び出てきた陽太によって、首を切り落とされたのだ。

「う、うそだろ……」

 目を疑うハリル。
 両膝を地につけ、呆然と立ち尽くす。
 さらに陽太は再び影へと潜り、他の竜族に次々と攻撃を仕掛けた。
 それも目にも止まらぬ速さで。
 一方の魔女は、空中浮遊で城へと向かっていた。

「そこかや!」

 三角屋根のてっぺん目掛けて、手のひらから巨大な火の玉を放つ魔女。
 当たった場所は切り取られたかのように破壊され、ガラガラと崩れ落ちる尖塔。

 すると砂煙の中から、無数の氷の矢が飛んでくる。
 誰かが放った水魔法だ。
 しかし魔女は目の前に岩のような障壁を作り出し、すべて防御する。

「ちっ……まだこいつにはかなわないか」

 そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、そいつは砂煙の中から姿を現した。
 陽太たちと同い年ぐらいであろう子供だ。
 黒いローブに身を包み、見え隠れする漆黒の髪。
 魔女は問う。

「皇帝を殺したのは、お前でありんしょう」
「うん、そうだよ。正確には殺し合わせただけ。身内同士の殺し合いはなかなか見ものだったよ!」
「なんという……」
「そして今、竜王も殺れたからね! 最高の気分だよ!」
「それでは何も変かわりんせん……もうやめてくりゃれ」
「知らないね。ボクはボクのやりたいようにやるんだ。というか、あの子が噂の人族?」
「……うむ、じゃからお前はもう必要ない」
「ふーん。じゃ、あの子も殺しといたほうがいいって訳か」
「そうはさせん。手を出したら命に代えてもお前を殺しんすえ」
「ひー怖いなあ。で、いいの? あの子を放っておいて。ボクが今、術を解いたら一瞬で竜族に殺されちゃうんじゃない?」
「……わっちが時を止められること、知っておりんしょう。すぐにでも――」
「知ってるよ、成人の体じゃないと使えないってこともね」
「っ……!」
「それ以上使うと幼児になってディスペルも使えなくなるんでしょ? 解除できないと最悪消えてなくなっちゃうもんね」
「……わっちにはまだ……やり残したことがありんす」

 そして魔女は敵に背を向け、陽太の元へ向かった。

「賢明だね」

 黒ローブの子供はそう呟くと、スッと消え去ったのだった――

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