レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~

すずろ

第五章 第六話「逃亡」

 ――チュンチュン。

 朝チュン。

「おはよ……」

 隣には青い髪の精霊美少女。
 腕まくらのしすぎで痺れている手。
 ――浮気じゃないよアメリア!
 心の中で言い訳をする陽太であった。

 ――コンコン。
 その時、ノックの音がした。

「隠れて」

 ルナディに押され、ベットの下に潜り込む陽太。
 ――まじ浮気現場みたいだな。モテる男は辛いよ、ぐへへ。
 ルナディが戸を開けるとそこには竜族の騎士が立っていた。

「黒髪の少年はどこだ」
「!」
「管理人から通報があった」

 昨夜、こっくりこっくりしてたオッサンだろうか。
 見られていたようだ。
 ――ヤバイ。
 捕まったら殺される。
 ベットの隙間から見える騎士の格好に、その気が見てとれる。

「失礼する!」
「っ……!」

 ドンと突き飛ばされるルナディ。
 尻餅をつく姿がベット下の陽太から見え、ぐっと握りこぶしに力を込める。
 しかし今出ていったらルナディにも迷惑がかかるだろう。
 かくまっていたのかと。
 今はじっと息をひそめ、耐えるのだ。
 騎士は布団をまくり、クローゼットを開け、部屋をあらす。

「どこへいった」
「知らない」

 胸のペンダントをぎゅっと握るルナディ。
 ――男前だなあ、ルナ。
 女だけど。
 逃げたと思っているようだ。
 このままあと少しの辛抱だ……

「奴はこの国を、世界を滅ぼす存在だ。君はそんな悪魔に助力したいのか?」
「知らない! それに陽たんは悪魔じゃないもん! 友達だもん!」

 すると騎士はいきなりルナディの髪を掴み、吊し上げる。

「どこへ行ったか言え!」
「知らない! 知らない!」

 足をばたつかせながら抵抗するルナディ。
 ――なんてことを!
 我慢できなくなりベットの下から陽太が飛び出す。
 思いっきり騎士に向かって体当たりする陽太。
 騎士は態勢を崩し、ルナディを手放した。

「逃げるぞ!」

 陽太はルナディを抱え、窓を蹴破って飛び降りる。
 幸い窓の下はクッションになる植木があり、多少の擦り傷はあるものの、そのまま起き上がり駆け出す二人。
 追っ手に見つからないよう裏道へと入り、小さな灯台のような塔に逃げ込む。
 バタンとドアを締め切り、ずるずると壁にもたれ掛かる陽太とルナディ。

「はぁはぁ……ルナ大丈夫……?」
「ゲレンデに、逃げれんで!」
「そんなダジャレを言えるなら大丈夫か……」

 しかし、強い子だ。
 見ていられなくなって思わず飛び出してしまったが、あのまま隠れていたほうがよかったのかもしれない。

「ゴメンな」
「ううん、怒ってくれてありがと」

 ――ほんと、良い友に恵まれたもんだ。
 そこへドアを叩く音が聞こえる。
 追っ手がきたようだ。
 蹴破られるのも時間の問題か。
 そう悟った陽太は、ルナディをおんぶする。

「ルナ、しっかり掴まってろよ。俺がなんとかするから」
「陽たん、戦えるの?」

 ――演習試合で何もできなかったあの頃の俺とは違う。
 強くなった自分を見てもらいたい。
 小さな女の子一人守れないでどうすんだ。

「俺に任せろ」

 ルナディに向けてグーサインをする陽太。
 螺旋階段をかけあがり、塔の頂上から見下ろすと、すでに騎馬に跨がった無数の竜族に取り囲まれていた。
 その中にはハリルの父、竜王の姿も。
 ついには塔の入口を蹴破り、かけ上がってくる者たち。
 塔を包囲している竜族は矢を構えている。
 ――仕方ない、武力に武力で対向するのは魔女の言いなりだが、もうやらなきゃやられる。
 そして塔の屋上で陽太は詠唱する。
 ――詠唱……なんだっけ。適当でいっか。

「出でよ、ぴぃたん!」

 すると陽太の前に出現した魔法陣から不死鳥が現れる。

「よし、塔の回りを燃やしつくせ!」
「ピィー!」

 不死鳥は火を吹き、ぐるり燃え盛る炎。
 すかさず陽太は次の詠唱を開始する。

「出でよ、白虎たん!」

 火と風の合わせ技だ。
 代償により身動きがとれなくなるが、その分の価値はある。
 白虎の放つ竜巻によって炎が螺旋状に燃え上がり、吹き飛ばされる竜族たち。
 ――よし、残りが登って来る前に飛ぼう。
 ルナディを白虎に乗せ、動けない陽太は不死鳥に掴んでもらい、塔の上から飛び立つ。

 ――ビュン!
 その時、竜王の投げた槍が陽太目掛けて飛んできた。
 竜族渾身の力を込めたやり投げだ。
 オリンピックに出てみてもらいたい。
 と、そんな冗談を言ってる場合ではなく、避けきれるようなスピードではなかった。
 不死鳥が体を翻し、身を呈して陽太を守る。

「ピィィィィ!!!」

 まともに槍を食らった不死鳥は悲鳴を上げ、煙のように消滅してしまう。

「ぴぃたん!」

 落下する陽太。
 不死鳥だからまた復活するだろうけど……なんて優しい子。
 ――何度もごめんね。

 その様子を見た竜王は、チャンスとばかりに仲間の槍を受け取り、再び陽太に向かって投げる。

「陽たん!」

 不死鳥から落下し、白虎の代償のせいで避ける態勢もとれない陽太。
 ルナの乗る白虎も追いつかない。
 ぐんぐんと迫ってくる槍。
 それは陽太の心臓目掛けて真っ直ぐに飛んできた。

「ぐわあああ!!」

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