レジス儚記Ⅰ ~究極の代償《サクリファイス》~
第一章 第一話「ドラゴン」
「ちょっと待って。マジ意味わかんねえ」
――召喚に応じた人間は、勇者として村人に手厚く迎えられるか、魔王として崇められたりするんじゃないのか。
呼び出した張本人であろう少女は、すでに死亡。
どこかも分からないところに放置プレイ。
――まじっすか。
一体なんのために来たのよ――
その時、遠くから猛獣の咆哮が聞こえた。
声のするほうを向き、目を凝らすと街のようなものがぼんやり見える。
社会人になってからパソコンが多くなったせいか、目が悪くなった。
――召喚に応じる時、眼鏡をかけてなかったのは失敗だったな。
陽太は少女を抱き上げ、台座に乗せた。
床に倒れたままにしとくのも、ばつが悪いからだ。
「なんまいだぶ。ちょっと行ってくるわ」
そう言いながら手を合わせる陽太。
「つか、俺のせいなのか……?」
陽太は召喚される直前の出来事を思い出す。
『――――助けを必要としている者がいます。召喚に応じますか?』
頭の中で鳴り響いた声。
『――【はい】か【YES】か【喜んで!】でお答えください』
とまぁ、選択肢は無かったけれど。
助けが必要だとか言ってたし、とりあえず街を目指そう。
そう決めた陽太は、声のした方向へ歩き出す。
§
街へ近づくにつれ、ハッキリと見えてくる物体。
大きく黒光りしている翼。
竜巻のように天に突き上げた尾。
鋭く尖った爪。
そしてワニのような口から炎を吹いている。
ああ、これは――
「ドラゴンだ。いきなりラスボス級じゃねーかよ」
ぽかんと呆気にとられる陽太。
そこへ、街のほうからダッシュでこちらへ向かってくる数人の男たちがいた。
ダッシュ……と言っても、みんな翼を広げて飛んでいるので、さっきの少女の仲間か。
「○!※□◇#△!」
何かを叫んでいる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
顎髭の男が、陽太に向かって叫んでいる。
これはもしや……
「はい、言葉も通じない異世界のようですよー」
呆れて項垂れる陽太。
――とても不親切な召喚ですね。
――村人Aが、村の名前を言ってくれるところから初めさせてくださいな。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「や、だから何言ってっか分かんねーっす」
「◎※□△$ハゲ♪#△×!」
「今、悪口入ってなかった!?」
「●&%#?!」
「ふぅ……」
だめだ、会話にならない。
外人のように両手で呆れたポーズを取る陽太。
すると今度は、ジェスチャーで訴えかけてくる。
ドラゴンと自分の額を交互に指さし、ガシガシと殴る仕草をしている。
陽太が異世界人だと分かってて駆け付けた様子であるからして、ドラゴンをやっつけてくれってことなんだろう。
「むりだよ」
またしても両手で呆れたポーズを取る陽太。
そりゃそうだ。
不親切仕様の召喚だから、どうやって戦うのかも分からない。
この髭面の男も背中に白い翼がある。
少女のとは違い、大きな身の丈ほどの翼。
しかし天使が髭面とか……中性的な美男美女しかいないイメージがぶち壊しだな。
そう考えている陽太の胸に、ズンと剣を鞘ごと突き出す天使男。
――無理だっつってんのに。なんでこんなことに……
どんな世界か聞いときゃ良かった。
陽太はまた、召喚される直前の出来事を思い出してみる。
『――助けを必要としている者がいます。召喚に応じますか?』
『――【はい】か【YES】か【喜んで!】でお答えください』
そんな声が頭に響いてきたな。
「じゃあ、NOで」
せっかくの休日、めんどくさかったので確かそう答えた。
『――では、転送しますね』
「無視ですね!!」
思わず突っ込んでしまったっけ。
『――そうそう、召喚の代償として能力を授かることができます』
『――何がよろしいですか?』
「そうだな、何か最強な……チート的なやつがいい」
この時はまだ、ただ寝ぼけているだけかと思っていたから。
特に深く考えていたわけではない。
本当ならもっと慎重に、召喚に応じれば良かったんだろうが。
『――スライムになりたいとかですか? それとも、死に戻りとか?』
「いやあ、夢の中でまで頑張るのは嫌だからね。もっと手っ取り早く……そうだ、いわゆる最上級魔法を使えるようにしてほしい。それも全属性の。下級とかいらないんで」
『――ふふ、欲張りさんね。合点、承知の助です!』
――そうそう、こんな軽いノリで召喚されたんだっけ。
最上級魔法を全部使えるように……ということは、今めっちゃ強いはずだよな。
「しょうがない。よし、俺に任せなさい」
そう言って親指を突き立てて見せる陽太。
すると男たちはなにやら目を見開いて喜んでいる様子。
陽太はうんうんと頷く。
グーサインは万国共通か。
そこへ、こちらに気付いたドラゴンが、また咆哮する。
でっかい声だ。耳が痛い。
なんかわからんが、街を襲っていたのだろう。
あんなに火を噴いちゃってたせいで、街が火事ってる。
そして黒いドラゴンは翼を広げ……こっちへ向かってくるではないか。
「ちょ」
ぐんぐんと近づいてくるそれは、予想より大きく、ビルの五階ぐらいあるのではないだろうか。
「あ、やっぱ無理かも」
「◎※□ウニ△$♪#△イクラ×!」
「は?」
顎髭男はまたドラゴンと自分の額を指さし、なにかをアピールしている。
陽太は目を凝らし、ドラゴンの額を見てみると、クリスタルのようなものが付いているのを視認。
「あれを狙えばいいってことか……?」
額を指さしながら問うと、こくこくと頷く男たち。
「はあ……」
「◎※□△$ハゲ♪#△×!」
「ハゲちゃうわ!」
そして何か言い残し、男たちは飛び去っていく。
頼んだぜーとでも言ってるんだろう。
「ちょ……」
召喚に天使にドラゴンに。
未だ現実味の沸かない陽太は立ち尽くす。
で、最上級魔法はどうやって使うんだろうか。
これまた聞いときゃ良かった。
そこへ、バサバサッと激しい風を巻き上げながら、ドラゴンが陽太の目の前に飛び降りた。
着地の衝撃で大地は揺れ、加えて風圧で陽太はふっ飛ばされる。
「うわああああ!」
宙に浮いた陽太はその後、背中から地面に叩きつけられた。
「痛っ!!」
鞘を杖代わりにし、ヨロヨロとなんとか立ち上がる陽太。
「おいおい! 夢じゃねーじゃん!!」
痛みで現状に現実味が帯びてくる。
何とかせねばと命の危険を感じた陽太は、鞘から剣を抜き、ドラゴンに切っ先を向けた。
とにかく魔法だ。
魔法が使えるはずだ。
どうすればいい?
説明書ぐらい付けといてくれたらいいのに。
こうゆうときはだいたい詠唱とかだよな。
とりあえず火を噴く相手には水だろ。
水の魔法……水の最上級魔法……思い出せ、FF……DQ……
――よし!
「ひ、ヒャダ○ン!!」
……シーン。
「DQじゃねーのか! それじゃあ、ウォー○ガ!!」
しかし、何も起こらなかった……
ドラゴンは咆哮する。
完全にこちらを威嚇しているようだ。
そして首を反らせ、口を大きく開けた。
「やべえ、じゃん……」
ドラゴンは火を噴く態勢だ。
絶体絶命。
――くそっ。
天使オヤジめ、あいつら置いていきやがって。
翼をください。
そんな願いにすればよかった。
ああ、ここで死ぬのか。
痛いのは嫌だな。
……まあでも、特に生きる意味もなく過ごしてきた毎日。
俺一人いなくなったところで。
別にやり残したこともないし……
しいていうなら、さっきの少女が気になるな。
俺の召喚の為に死んじゃったんだったら、申し訳ないことをした。
可愛いかったな。
将来美人になるんだろうな。
……童貞ぐらいは捨てたかったな。
そうだ、このまま女性を知ることもなく死ぬのか?
嫌だ!
嫌だ――
だが、もちろんドラゴンはそんな陽太の気も知らず、ついに火を噴きだした。
それはそれは凄まじい、業火だ。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! ストーップ!!」
迫りくる炎に両手を向けて、顔を背ける陽太。
「うわああああ!!」
その時だった――
空が急に暗くなる。
日が陰ったのか。
あたりは鼠色。
いや違う、まるで夜の闇のように薄暗くなっていく。
……あれ?
迫りくる炎――
それが、陽太の目の前で止まったのだ。
……あれれ?
炎だけではない。
ドラゴン自体も静止している。
風も、音も、何もない。
「助かった……のか?」
世界が止まっている。
時間が止まっている。
「もしかして……」
――召喚に応じた人間は、勇者として村人に手厚く迎えられるか、魔王として崇められたりするんじゃないのか。
呼び出した張本人であろう少女は、すでに死亡。
どこかも分からないところに放置プレイ。
――まじっすか。
一体なんのために来たのよ――
その時、遠くから猛獣の咆哮が聞こえた。
声のするほうを向き、目を凝らすと街のようなものがぼんやり見える。
社会人になってからパソコンが多くなったせいか、目が悪くなった。
――召喚に応じる時、眼鏡をかけてなかったのは失敗だったな。
陽太は少女を抱き上げ、台座に乗せた。
床に倒れたままにしとくのも、ばつが悪いからだ。
「なんまいだぶ。ちょっと行ってくるわ」
そう言いながら手を合わせる陽太。
「つか、俺のせいなのか……?」
陽太は召喚される直前の出来事を思い出す。
『――――助けを必要としている者がいます。召喚に応じますか?』
頭の中で鳴り響いた声。
『――【はい】か【YES】か【喜んで!】でお答えください』
とまぁ、選択肢は無かったけれど。
助けが必要だとか言ってたし、とりあえず街を目指そう。
そう決めた陽太は、声のした方向へ歩き出す。
§
街へ近づくにつれ、ハッキリと見えてくる物体。
大きく黒光りしている翼。
竜巻のように天に突き上げた尾。
鋭く尖った爪。
そしてワニのような口から炎を吹いている。
ああ、これは――
「ドラゴンだ。いきなりラスボス級じゃねーかよ」
ぽかんと呆気にとられる陽太。
そこへ、街のほうからダッシュでこちらへ向かってくる数人の男たちがいた。
ダッシュ……と言っても、みんな翼を広げて飛んでいるので、さっきの少女の仲間か。
「○!※□◇#△!」
何かを叫んでいる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
顎髭の男が、陽太に向かって叫んでいる。
これはもしや……
「はい、言葉も通じない異世界のようですよー」
呆れて項垂れる陽太。
――とても不親切な召喚ですね。
――村人Aが、村の名前を言ってくれるところから初めさせてくださいな。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「や、だから何言ってっか分かんねーっす」
「◎※□△$ハゲ♪#△×!」
「今、悪口入ってなかった!?」
「●&%#?!」
「ふぅ……」
だめだ、会話にならない。
外人のように両手で呆れたポーズを取る陽太。
すると今度は、ジェスチャーで訴えかけてくる。
ドラゴンと自分の額を交互に指さし、ガシガシと殴る仕草をしている。
陽太が異世界人だと分かってて駆け付けた様子であるからして、ドラゴンをやっつけてくれってことなんだろう。
「むりだよ」
またしても両手で呆れたポーズを取る陽太。
そりゃそうだ。
不親切仕様の召喚だから、どうやって戦うのかも分からない。
この髭面の男も背中に白い翼がある。
少女のとは違い、大きな身の丈ほどの翼。
しかし天使が髭面とか……中性的な美男美女しかいないイメージがぶち壊しだな。
そう考えている陽太の胸に、ズンと剣を鞘ごと突き出す天使男。
――無理だっつってんのに。なんでこんなことに……
どんな世界か聞いときゃ良かった。
陽太はまた、召喚される直前の出来事を思い出してみる。
『――助けを必要としている者がいます。召喚に応じますか?』
『――【はい】か【YES】か【喜んで!】でお答えください』
そんな声が頭に響いてきたな。
「じゃあ、NOで」
せっかくの休日、めんどくさかったので確かそう答えた。
『――では、転送しますね』
「無視ですね!!」
思わず突っ込んでしまったっけ。
『――そうそう、召喚の代償として能力を授かることができます』
『――何がよろしいですか?』
「そうだな、何か最強な……チート的なやつがいい」
この時はまだ、ただ寝ぼけているだけかと思っていたから。
特に深く考えていたわけではない。
本当ならもっと慎重に、召喚に応じれば良かったんだろうが。
『――スライムになりたいとかですか? それとも、死に戻りとか?』
「いやあ、夢の中でまで頑張るのは嫌だからね。もっと手っ取り早く……そうだ、いわゆる最上級魔法を使えるようにしてほしい。それも全属性の。下級とかいらないんで」
『――ふふ、欲張りさんね。合点、承知の助です!』
――そうそう、こんな軽いノリで召喚されたんだっけ。
最上級魔法を全部使えるように……ということは、今めっちゃ強いはずだよな。
「しょうがない。よし、俺に任せなさい」
そう言って親指を突き立てて見せる陽太。
すると男たちはなにやら目を見開いて喜んでいる様子。
陽太はうんうんと頷く。
グーサインは万国共通か。
そこへ、こちらに気付いたドラゴンが、また咆哮する。
でっかい声だ。耳が痛い。
なんかわからんが、街を襲っていたのだろう。
あんなに火を噴いちゃってたせいで、街が火事ってる。
そして黒いドラゴンは翼を広げ……こっちへ向かってくるではないか。
「ちょ」
ぐんぐんと近づいてくるそれは、予想より大きく、ビルの五階ぐらいあるのではないだろうか。
「あ、やっぱ無理かも」
「◎※□ウニ△$♪#△イクラ×!」
「は?」
顎髭男はまたドラゴンと自分の額を指さし、なにかをアピールしている。
陽太は目を凝らし、ドラゴンの額を見てみると、クリスタルのようなものが付いているのを視認。
「あれを狙えばいいってことか……?」
額を指さしながら問うと、こくこくと頷く男たち。
「はあ……」
「◎※□△$ハゲ♪#△×!」
「ハゲちゃうわ!」
そして何か言い残し、男たちは飛び去っていく。
頼んだぜーとでも言ってるんだろう。
「ちょ……」
召喚に天使にドラゴンに。
未だ現実味の沸かない陽太は立ち尽くす。
で、最上級魔法はどうやって使うんだろうか。
これまた聞いときゃ良かった。
そこへ、バサバサッと激しい風を巻き上げながら、ドラゴンが陽太の目の前に飛び降りた。
着地の衝撃で大地は揺れ、加えて風圧で陽太はふっ飛ばされる。
「うわああああ!」
宙に浮いた陽太はその後、背中から地面に叩きつけられた。
「痛っ!!」
鞘を杖代わりにし、ヨロヨロとなんとか立ち上がる陽太。
「おいおい! 夢じゃねーじゃん!!」
痛みで現状に現実味が帯びてくる。
何とかせねばと命の危険を感じた陽太は、鞘から剣を抜き、ドラゴンに切っ先を向けた。
とにかく魔法だ。
魔法が使えるはずだ。
どうすればいい?
説明書ぐらい付けといてくれたらいいのに。
こうゆうときはだいたい詠唱とかだよな。
とりあえず火を噴く相手には水だろ。
水の魔法……水の最上級魔法……思い出せ、FF……DQ……
――よし!
「ひ、ヒャダ○ン!!」
……シーン。
「DQじゃねーのか! それじゃあ、ウォー○ガ!!」
しかし、何も起こらなかった……
ドラゴンは咆哮する。
完全にこちらを威嚇しているようだ。
そして首を反らせ、口を大きく開けた。
「やべえ、じゃん……」
ドラゴンは火を噴く態勢だ。
絶体絶命。
――くそっ。
天使オヤジめ、あいつら置いていきやがって。
翼をください。
そんな願いにすればよかった。
ああ、ここで死ぬのか。
痛いのは嫌だな。
……まあでも、特に生きる意味もなく過ごしてきた毎日。
俺一人いなくなったところで。
別にやり残したこともないし……
しいていうなら、さっきの少女が気になるな。
俺の召喚の為に死んじゃったんだったら、申し訳ないことをした。
可愛いかったな。
将来美人になるんだろうな。
……童貞ぐらいは捨てたかったな。
そうだ、このまま女性を知ることもなく死ぬのか?
嫌だ!
嫌だ――
だが、もちろんドラゴンはそんな陽太の気も知らず、ついに火を噴きだした。
それはそれは凄まじい、業火だ。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! ストーップ!!」
迫りくる炎に両手を向けて、顔を背ける陽太。
「うわああああ!!」
その時だった――
空が急に暗くなる。
日が陰ったのか。
あたりは鼠色。
いや違う、まるで夜の闇のように薄暗くなっていく。
……あれ?
迫りくる炎――
それが、陽太の目の前で止まったのだ。
……あれれ?
炎だけではない。
ドラゴン自体も静止している。
風も、音も、何もない。
「助かった……のか?」
世界が止まっている。
時間が止まっている。
「もしかして……」
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