気分屋文庫

有賀尋

向日葵畑で会いましょう

ある日夢を見た。

それはとてつもなく広い向日葵畑に僕はぽつんと立っている夢。

誰かを待っているはずだけど、待てども待てどもその人はやってこなくて、僕はいつの間にかその向日葵畑の中に入っていったのだ。

僕の倍はあるであろう高さの向日葵にすっかり隠されて、
何かを叫ぼうとしたけれど、何を叫ぶのかも忘れてただ呆然と立ち尽くす。
頭の上には太陽があって、太陽に向かって向日葵が咲いている。
向日葵の下にいる僕は涼しいくらいだ。
だけど、どこか物足りない。

どうして、君はいないの?
いつも手を繋いで、弱虫の僕の名前を呼んで僕をを引っ張ってくれる君はどうしていないの?

...お姉ちゃん...どうしていないの...?

パパ...ママ...どこ...?

どこにいるの...?

お姉ちゃん...!

叶多かなた...!」

やっと叫びたい言葉を叫んだ時に、返って来て欲しい言葉はなかった。
真夏の青空に僕の声が吸い込まれていく。

...怖いよ...叶多も、パパもママも...みんな、みんないない...

「...叶多...!」

ただただ泣いて名前を呼んでは夏の蝉の声にかき消されていく。

「...どこぉ...!お姉ちゃん...!」

どれくらい泣いたんだろう。
夢だから時間は動かないのかな...。いつの間にか寝てしまっていたみたいだった。

...誰も...迎えにも来てくれないんだ...。
僕がいなくても...

そんなことを考えていたら、遠くから僕を呼ぶ声がした。

優陽ひなたー!どこー!?」

叶多の声...今なら...気がついてくれるかな...。

「...かなちゃん...!お姉ちゃん...!」
「優陽ー!」

声が近くなってくる。出せる限り声を出した。
気がついてもらえるように、僕はここにいるよって、気がついてもらえるように。
少しして声がどんどん近くなる。ガサガサとかき分ける音もする。

「ひー君いた!」

かき分けた向日葵の間からお揃いの麦わら帽子をかぶった叶多が顔を出した。

「ひー君!」
「叶ちゃん...!」

叶多が僕をぎゅーっと抱きしめてくれた。
会えたことに嬉しくて、僕は大泣きした。

「探したんだよ...!」
「...ん...ごめ...なさ...」
「もう1人じゃないよ、叶ちゃんがいるからね、大丈夫、大丈夫...」

叶多がずっと背中をさすってくれた。

「...怖かった...」
「怖かったよね、大丈夫だよ、行こ!パパもママも心配してるよ!叶ちゃんの手離しちゃだめだからね!」
「うん...」

叶多と手を繋いでついて行く。不思議とそこに恐怖はなくて、安心感しかなかった。


「...やっぱり双子なんだな、叶多の効果絶大」
「...あぁ、そうみたいだな。昼寝で大泣きした時はどうしたかと思ったが…」

俺は抱きしめあって眠る双子の、自分の子ども達を微笑んで見つめた。

「弱虫な優陽。優しい子に育ってる。弱虫だからこそ、なのかもね」
遥貴はるきが名前をつけただけあるな。そういう叶多も気は強いが思いやりがある優しい子に育ってる。ちゃんとお姉ちゃんしてくれてる」
つかさが名前つけただけあるね?」
「そうだろ?」
「...3人目、名前どうしよっか」

そう、司のお腹にはこの双子の妹がいる。ついこの間性別が分かった。
今からこの2人も楽しみにしている。双子を産んでいるおかげか、今回はそんなに悪阻も酷くなかった。

「...さてな、どうしようか」
「まだ時間あるし、ゆっくり考えようよ」
「そうだな」

これからまたさらに賑やかになるであろう未来を夢見て、俺たちは眠る可愛い娘と息子を微笑んで見つめた。
窓際の花瓶には向日葵が夏の風に乗って揺れていた。

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