気分屋文庫
風読民の末裔の選ぶ道-story2-
『さぁ、どうする』
ボレアスの低い声が響く。
答えを急かしている訳では無いのだろうが、急かされているようだった。
背中に冷や汗が流れる。
「街をひとつ助けたところで、俺の命はないってか…」
『ないわけじゃないよ』
ゼピュロスが声を震わせながら言った。
『さっきの言い方おかしかったけど、君が死ぬんじゃないんだ。昏睡状態に近い植物状態になるんだよ』
「一時的に生命活動が停止すると言うことですか?」
『そう。…その期間がいつまで続くかはわからないよ…。数週間なのか、数ヶ月なのか、はたまた年単位になるのか…』
「それでも助けないって選択肢はない。俺は自分を犠牲にしても助ける」
颯太の目が赤に変わった。
普段感情を出すことが多くない颯太が唯一感情を出すのは、目だ。
目は口ほどに物を言うということわざどおり、颯太は目に出やすい。
颯太の目が赤に変わるという事はーーーーー。
『覚悟の上か』
ボレアスの低い声が響いた。
颯太はにやりと笑みを浮かべた。
「聞かなくても分かってんだろ?」
あぁ、やっぱり。
覚悟を決めた時、颯太の目は若草色から赤色に変わる。
『……目覚めぬやもしれんのだぞ』
「そんなんで俺がビビるとでも思ってんのか?」
『けどっ…』
「心配すんなよ、俺は今までもそうやって言われてきたことを乗り越えてんだぜ?」
『そういう問題じゃないんですよ!?』 
『そうだよ!』
『今までとは話が違いすぎるのだぞ。お前の命がかかっているのだ。今までよりも重いのだぞ』
両者一歩も引かずに睨み合いを続けている。
「風神様」
勇翔が口を挟んだ。
「我が主のご心配、誠に感謝します。ですが、我が主の御心は決まっているようです。それならば、私も力の限りを尽くして主にお仕えするまで。どうか風神様のお力をお借りしたい」
お力添え願えないだろうか。
勇翔は深々と頭を下げた。
はぁ、とため息が聞こえた。
『全く、いつの時代でもこやつらは…』
『ホント、無茶ばっかり』
『このやりとり、何回目でしたっけ』
『さぁ?』
4人はお互いの顔を見合わせて、頷いた。
『本当によいのだな』
「あぁ」
颯太の最後の覚悟の目を見て、風神達も折れるしかなかった。
『…よかろう。これを持て。陣の中心に立ち、我らに続けて唱えよ』
颯太は言われるがまま風読民に代々伝わる古い剣を持ち陣の中心に立った。
「勇翔」
陣の中心で、勇翔の方を振り返らずに、颯太は声をかけた。
「いってくるわ」
まるで近所に遊びに行くような軽さだった。
颯太がいつも通りなら。
「…いってらっしゃいませ。早いおかえりをお待ちしております」
自分もいつも通りで見送ろう。
すると颯太が振り返った。
いつもの笑顔を勇翔に向けて。
「おぅ!」
それ以上何も語ることなく颯太は前を向いた。
本当は行って欲しくない。
すがりついてでも行かないでと叫びたい。
だが。
それを言ってしまえば颯太の覚悟は簡単に揺らいでしまう。
そうはさせたくない。
颯太が陣の中心に立って剣の剣先を陣の中心に刺し、風神達は四方を囲む。
『我に集いし風霊よ、地の理を知りし女神よ、我が風読民の血と魂に応えよ』
一斉に呪文を詠唱し始めると、魔法陣は赤い光を放ち始める。
勇翔は静かにその様子を見守った。
『我が命と引換に我の願いを聞き入れよ』
最後の1節。
颯太は思いきり叫んだ。
『Comply with Wind desire!』
強い風が部屋に吹く。
勇翔は反射的に薄目になり、腕で顔を覆った。
風が弱まり、腕を下ろして目を開けると、緑色の女神の幻像が部屋にあらわれた。
女神の腕の中で、颯太が目を瞑って力なく腕が落ち、宙に浮いていた。
力の抜けた颯太の手から剣が滑り落ちて、音を立てて倒れた。
ーその御霊に応え、願い聞き入れようぞー
そう言ったかと思うと、女神の幻像は消え、風神達も消えた。
残ったのは、意識がなく横たわる颯太と代々伝わる剣、勇翔だった。
颯太の血で書かれていた魔法陣はそのまま描かれたまま残っていた。
やり取りを呆然と見ていた勇翔は、ハッと我に帰った。
「ふ、颯太様っ!」
横たわる颯太に駆け寄る。
胸に耳を当てると安定した鼓動が聞こえ、ぬくもりもある。
息はしていて、とりあえず安堵する。
…これが、生命活動の一時停止の状態…。
どのくらい目を覚まさないんだろう…。
ーその期間がいつまで続くかはわからないよ…。数週間なのか、数ヶ月なのか、はたまた年単位になるのか…ー
ほんの数分前の会話がまざまざと蘇る。
今更後悔しても、止めておけば良かったと思っても、時間は戻ってこない。
待つしかない。
颯太が帰ってくるまで。
それに、颯太を恨む事は出来ない。
颯太が助けた街には、颯太の許嫁がいるのだから。
ボレアスの低い声が響く。
答えを急かしている訳では無いのだろうが、急かされているようだった。
背中に冷や汗が流れる。
「街をひとつ助けたところで、俺の命はないってか…」
『ないわけじゃないよ』
ゼピュロスが声を震わせながら言った。
『さっきの言い方おかしかったけど、君が死ぬんじゃないんだ。昏睡状態に近い植物状態になるんだよ』
「一時的に生命活動が停止すると言うことですか?」
『そう。…その期間がいつまで続くかはわからないよ…。数週間なのか、数ヶ月なのか、はたまた年単位になるのか…』
「それでも助けないって選択肢はない。俺は自分を犠牲にしても助ける」
颯太の目が赤に変わった。
普段感情を出すことが多くない颯太が唯一感情を出すのは、目だ。
目は口ほどに物を言うということわざどおり、颯太は目に出やすい。
颯太の目が赤に変わるという事はーーーーー。
『覚悟の上か』
ボレアスの低い声が響いた。
颯太はにやりと笑みを浮かべた。
「聞かなくても分かってんだろ?」
あぁ、やっぱり。
覚悟を決めた時、颯太の目は若草色から赤色に変わる。
『……目覚めぬやもしれんのだぞ』
「そんなんで俺がビビるとでも思ってんのか?」
『けどっ…』
「心配すんなよ、俺は今までもそうやって言われてきたことを乗り越えてんだぜ?」
『そういう問題じゃないんですよ!?』 
『そうだよ!』
『今までとは話が違いすぎるのだぞ。お前の命がかかっているのだ。今までよりも重いのだぞ』
両者一歩も引かずに睨み合いを続けている。
「風神様」
勇翔が口を挟んだ。
「我が主のご心配、誠に感謝します。ですが、我が主の御心は決まっているようです。それならば、私も力の限りを尽くして主にお仕えするまで。どうか風神様のお力をお借りしたい」
お力添え願えないだろうか。
勇翔は深々と頭を下げた。
はぁ、とため息が聞こえた。
『全く、いつの時代でもこやつらは…』
『ホント、無茶ばっかり』
『このやりとり、何回目でしたっけ』
『さぁ?』
4人はお互いの顔を見合わせて、頷いた。
『本当によいのだな』
「あぁ」
颯太の最後の覚悟の目を見て、風神達も折れるしかなかった。
『…よかろう。これを持て。陣の中心に立ち、我らに続けて唱えよ』
颯太は言われるがまま風読民に代々伝わる古い剣を持ち陣の中心に立った。
「勇翔」
陣の中心で、勇翔の方を振り返らずに、颯太は声をかけた。
「いってくるわ」
まるで近所に遊びに行くような軽さだった。
颯太がいつも通りなら。
「…いってらっしゃいませ。早いおかえりをお待ちしております」
自分もいつも通りで見送ろう。
すると颯太が振り返った。
いつもの笑顔を勇翔に向けて。
「おぅ!」
それ以上何も語ることなく颯太は前を向いた。
本当は行って欲しくない。
すがりついてでも行かないでと叫びたい。
だが。
それを言ってしまえば颯太の覚悟は簡単に揺らいでしまう。
そうはさせたくない。
颯太が陣の中心に立って剣の剣先を陣の中心に刺し、風神達は四方を囲む。
『我に集いし風霊よ、地の理を知りし女神よ、我が風読民の血と魂に応えよ』
一斉に呪文を詠唱し始めると、魔法陣は赤い光を放ち始める。
勇翔は静かにその様子を見守った。
『我が命と引換に我の願いを聞き入れよ』
最後の1節。
颯太は思いきり叫んだ。
『Comply with Wind desire!』
強い風が部屋に吹く。
勇翔は反射的に薄目になり、腕で顔を覆った。
風が弱まり、腕を下ろして目を開けると、緑色の女神の幻像が部屋にあらわれた。
女神の腕の中で、颯太が目を瞑って力なく腕が落ち、宙に浮いていた。
力の抜けた颯太の手から剣が滑り落ちて、音を立てて倒れた。
ーその御霊に応え、願い聞き入れようぞー
そう言ったかと思うと、女神の幻像は消え、風神達も消えた。
残ったのは、意識がなく横たわる颯太と代々伝わる剣、勇翔だった。
颯太の血で書かれていた魔法陣はそのまま描かれたまま残っていた。
やり取りを呆然と見ていた勇翔は、ハッと我に帰った。
「ふ、颯太様っ!」
横たわる颯太に駆け寄る。
胸に耳を当てると安定した鼓動が聞こえ、ぬくもりもある。
息はしていて、とりあえず安堵する。
…これが、生命活動の一時停止の状態…。
どのくらい目を覚まさないんだろう…。
ーその期間がいつまで続くかはわからないよ…。数週間なのか、数ヶ月なのか、はたまた年単位になるのか…ー
ほんの数分前の会話がまざまざと蘇る。
今更後悔しても、止めておけば良かったと思っても、時間は戻ってこない。
待つしかない。
颯太が帰ってくるまで。
それに、颯太を恨む事は出来ない。
颯太が助けた街には、颯太の許嫁がいるのだから。
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