初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

問題発生(いつものことか)


「さすがに聞いたことないわ」
 そう呟いたのは、ディッチだった。そして古参組全員が頷いた。

 誰よりも分かっていないのは、当然カナリアだ。
「物語とかでもそうだけどね、基本同じようなものを別々に食べるの」
 こそこそとリリアーヌが開設していた。古参組としては大変ありがたい。ジャッジのいちゃつきを抑えつつ、カナリアにきちんとした知識が行く。
「ツインスパイダーはの右は肉、左は野菜しか、、食べないわん」
「は!?」
 スパイダーといえば肉食、というか虫を食べるというイメージを根本から覆す一言だった。
「さて、餌の時間だわん。でも、我々は手が出せないわん」
 そう言いながら、生肉と生野菜を置いていくワイルーたち。

 きゅぴんという音と共にツインスパイダーたちが動き出す。
 あたりは糸で覆われ、どのような食事が行われているか全く分からない。
「多分なのだけど、二つの頭が一緒に食べないと長生きできないのだわん。ただ、一匹につき、食べるのはこれだけだわん」
 そう言って出してきたのは、ひき肉五グラムと、生野菜の破片だ。
「すくなっ」
「そうなのだわん。食べ終わった後の糸を貰うのが一番効率がいい方法だわん」
「とすると、集団で養殖するしかないのか」
「養殖無理だわん。自然の中で暮らさないと死ぬわん」
 ジャスティスの言葉に、ワイルーが返す。しかもこの環境でないと育たないらしい。
 挙句、調理したものを食べても死ぬとのことだ。どんな縛りプレイだ。ベテラン勢が心の中で思った。

「移転して仕入れる……のは無理か」
「無理だわん。そんなことしたらツインスパイダー死んじゃうわん」
 一日に吐き出す糸の量は決まっており、その中から使える糸を分別して、撚っていく。一枚の布を作るのに、ゲーム時間で一月。一枚の大きさは、ワイルーたちの服一着分だ。

 割に合わないし、強欲な者がいればあっという間に駆逐される量だ。
「この素材は諦めるぞ」
 最初に諦めたのは、ジャスティスだった。これを売り出せば、間違いなくツインスパイダーは死ぬ。

 次の瞬間、ワイルーたちが吠え出した。


 今まで大人しくしていたはずの、案内組が糸を奪いだし、それを止めるべくワイルーたちが防衛に回っていた。
「……まずいぞ、これ」
 ディッチたちをも敵と見做したのだ。
 反撃するくらい問題はない。……のだが。
「素材になんてことをするんですかぁぁぁ!!」
 貴重な素材は、大切に使うカナリアもまた、暴走していたのだ。
「み……カナリアのLVじゃ、向こうさんに勝てないよ!!」
 イッセンとリリアーヌが止めようとするものの、効果はない。ジャッジのセクハラもどきで止めるしかないのだろうか。
「とりあえずカナリア君を止める! 最優先事項はそっち!」
「らじゃー」
 これがPKと見做され、レッドカードを食らってしまったら切なすぎる。

 慌てたメンバーが引き離すこと数十分。やっとカナリアが正気に戻った。

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