初心者がVRMMOをやります(仮)
茶会と誼 3
気楽な茶会ということで、正座しなくて済んだのは幸いだと思うプレイヤーも多かった。
「野点と聞いていたから、正座を覚悟してきたけどそうでもなかったわねぇ」
しみじみとマープルが呟いた。
「今日は茶筅も出来た祝いでもある。茶を楽しむことに重点を置かせていただいた」
それを聞いたマープルが楽しそうに笑っていた。
「お祖母ちゃん! さっき持ってきてくれたので新しいお菓子が出来たの。おばばさんと二人で是非食べてみて!」
振袖姿でカナリアが二人に駆け寄っていた。
「あら、ありがとう」
ふふふ、と楽しそうに受け取ったマープルが一瞬にして固まった。
「……これは何かしら?」
「スライム風水ようかん」
「食うに困るようなものを作るでない。セバスチャンにも伝えおけ」
そう言いながらもクィーンがそれを口に運んだ。
やはりクィーンは猛者だ。その場にいた全員が思った。
「ふむ。中身は抹茶餡か。形はともかく美味ではあるな、どうせならうぐいす餡とこし餡も食してみたいところじゃの」
そんなクィーンの感想が言い終る頃には、他のプレイヤーにもその水まんじゅうが配られ、全員が絶句した。
本当にスライムの形をしているのである。そして表面にはスライムの目らしきものが作られている。何で作ったのかあとで聞いてみると「スライムコアを砕いて作りました」と返ってきた。
後日、「安楽椅子」での名物甘味になるが、その水ようかんから目は消えていた。
「自分がついさっきまで狩ってたもののミニチュアがお菓子として出てくると、どうしていいか分からなくなるわ」
そうマープルが評していたそうだが、それで済ませられるあたりさすがと言うべきなのかもしれない。
「クリスさん、でしたね」
他のプレイヤーたちが色んな話をしている中、マープルがクリスに声をかけてきた。
<あなたに名前を憶えていただけるとは、うれしい限りです>
<そうですか? 私こそあなたに名前を知っていただいていたとは、驚きです>
英語で切り返したはずで、自動翻訳がなされたはずである。それなのに、マープルは英語で返してきた。
<夫に付き合って、色んな国の方と遊びましたもの。必要に迫られて覚えました>
くすくすと楽しそうにマープルが笑っていた。
<そうでしたか>
<ずっとお礼を言いたかっただけです。あの子を笑顔にしてくれたゲームを作ってくださってありがとうございます>
<私は何もしていない。それどころか、ずっと諸悪の根源をそのままに……>
<それは些細な事。あの子に笑顔が戻ってきたのは、このゲームのおかげ。それは変わりません。私から見れば、どんな理由でこのゲームを作ったのかは些細な出来事ですから>
マープルからしてみれば、大事な孫娘が笑顔で色んなことを楽しむということが何よりも大切なのだろう。そして、それを叶えたこのゲームに感謝しているのだと。
<これ以上あなたの期待を裏切らないよう、心がけます>
<それは買いかぶりすぎです。孫たちが楽しくゲームをしている、それがすべてですから>
すべてを許す慈母の微笑み。
マープルには絶対に敵わないと、クリスは思った。
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