初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

指揮官二人の話


 戦いが始まれば、「カエルム」メンバーは一部奇人、、の如く動いていた。

 そりゃもう、「春陽」と「スワスティ」は初めてなので躊躇うのは分かる。……が彼らよりも付き合いが長く、一度レイドを攻略したはずの「神社仏閣を愛する会」の面子ですらどん引きなのだ。
「まぁ、皆さんが多芸だというのは知っていましたけどね」
 そう呟くのはカーティスである。
「ほらほらいっくよー」
 そう元気に声を張り上げているのはスカーレット。そしてその目の前、、、にジャスティスがいる。
「レットの掛け声は無視でいい。前線の維持だけよろしく」
「彼女、楽しんでますからねぇ」
 カーティスとディッチという二人の指揮官は、後ろでほのぼのと話をしている。
「あとは、ジャッジの弾切れに注意だな。一応ディスやカナリア君に頼んで聖魔法を練り込んでるから」
「だから多芸だって言うんですよ」
「おたくらだってそうだろう? カーティスさん、あなたは必要とあれば最前線で指揮を執れる方だと思ってますよ」
「理由をお聞きしても?」
「昔も俺は最前線で指揮を執ってましたし。仕草で分かります」
 そう言いながらも前線から視線を外さない。

 この人ディッチも全滅を何度も繰り返した男なのだと、カーティスは直感した。
 そして、パーティを守るために後衛についたことも。
「私も、前回のこのクエストで全滅しました。その頃『深窓の宴』となりに懇意にしていたんですが、……彼らは全滅しそうだと分かると、我々を盾にして逃げました」
 カーティスの独白を、ディッチは前線から視線を逸らさずに聞いているのが分かった。
「怖く、なりました。死に戻りが出来るから、とかそういうものじゃない」
「でしょうね」
 その一言だけで、己の推測が外れていないことが分かる。
「俺は、天狗になりすぎてたんです。たった一度の全滅で俺は自信を失いました。そんな俺にその時の仲間は呆れ、離れていきました。そして『臆病者の軍師』という二つ名がつきました」
「臆病者の軍師」その名前に、カーティスは聞き覚えがあった。まさか、この男だったとは。
「俺が死んだら、統率が執れていたのかも分からなくて。あとでレットに聞いたら、駄目だったと。だったら、俺は臆病者と謗られても、後ろから指揮をすることにしたんです」
 気持ちは分かります、という言葉は軽すぎる。おちゃらけて見えるディッチの、闇の部分を垣間見た気がした。
「元々俺は臆病者ですから。失敗には弱いんです」
「そうでしょうか?」
 それだけは違うと、カーティスは断言できる。
「失敗に弱かったら、あの面々を率いていろんなことは出来ませんよね? 責任感が強いだけじゃないですか? 今回のクエストも兎レイドと同じように楽しみましょう」
 全滅したらその時です。その言葉は飲み込んだ。

「……楽しむ、か。どこかでそれを忘れちまうんだろうなぁ」
 ディッチの呟きは、誰にも聞き取れなかった。

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