初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

リタイアできないレイド 3


 余談だが、このレイド戦において「守り人」の称号がを本気で欲しがっている人物はいない。
「どうせだから欲しいな」と思うスカーレットと、「カナリアと一緒にいる時間をもっと増やしたい」と思うイッセンとリリアーヌの三人が程よく狙っているといった様相だ。
 他のメンバーは「面白そうだから」とか、「どうせだから邪魔してやろう」とか、「ジャッジ倒したらいくら経験値が入るんだろう?」という碌でもない理由だ。レイド戦に参加したとしても、対ジャッジ戦は無視できる仕様になっている。
 その間、カナリアとお茶をしていればいいだけなのだ。

 そんなわけで「神社仏閣を愛する会」のメンバーはある程度戦った後、戦線離脱している。そしてクィーン直々に煎茶と抹茶の稽古を無料で受けているのだ。
「初めてですねぇ。こんなに平和なレイド戦は」
 カーティスが呟くと、すぐさま全員同意してくる。
「しかも茶の稽古まで受けれるとは、うちの親が聞いたら発狂しそうです」
 シンがしみじみと呟く。しかもクィーンとは同じ流派で学んでいるらしく、「ゲーム内で学べる環境になった」と報告したところ、「何をおいてもその講習は取れ。金は出してやる」とまで言ったという。
「そのお二人なら我も存じておるぞ。わざわざ家元を通じて挨拶くださった。シン殿の高祖父にあたる方が我の師匠での、しばらく付き合いはあったが最近はご無沙汰であったゆえ」
 シンとゲームで会ったあとは祖父にあたる方に挨拶はしていたクィーンである。
「シン殿が免状を取っておられるなら、講師をお願いしたかったのだがの」
「……金がかかるんで嫌なんですよ。趣味の領域でやってればいいかなと」
「ほほほ。趣味でそこまで出来るのであれば、師範の免状持ちが逃げ出すわ」
「金がものいう世界でしょう」
「それに一理あるがの」
 そんな話をふんふんと聞いていたカナリアだが、クィーンの厳しい稽古のおかげでかなり腕前が上達していることに気づかなかったりする。

「くそクリス! ふざけた仕様にしてんじゃねぇぇ!!」
 ほのぼのとした茶会にふさわしくない怒声が、ジャッジから聞こえたのはそんな時だった。
「仕方ないだろう? My dear sonはLittle ladyに攻撃が行くだけで激昂しちゃうんだし。私がプログラムいじくって参戦するって手段もあったけど、それだと確実にMy dear sonの負けだし。だったら、この方法しかないかなって」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぇ!」
「そこまで言うなら、私も参戦するよ」
 そう言うなり、クリスはタブレットをいじりだした。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品