初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

PvPの新しい使い方?


 まったく、とクリスは思う。
 女帝は人使いが荒すぎる。クリスという名前をシュウという少年が知らない、、、、というのを知っていて罠を仕掛けてきたのだ。
 クリスはそれなりに、、、、、名前が知られている。それなりなので、知らない人間も多い。
 いいところの坊ちゃんだし、クリスの部下とは何度か顔を合わせているので知っていてもおかしくないのだが。
 禰宜田の女帝すらいまだに知らないというのだから、仕方がないと思うしかないだろう。

 カナリアの怯え具合は半端ではない。苦手としているはずの己の後ろに隠れるくらいだ。多少、、痛めつけても問題ないとクリスは判断した。

「俺は……ただ……」
 悔し気な顔でシュウが呟く。
「俺はただ、美玖が元気かなって。それに色々話を……」
 必死に言い募ったシュウをクリスは冷たく見下す。
「何故私と一緒の時だったのかな? Little ladyと同じギルドメンバーが一緒の時に近づこうとしなかったのは何故かな?」
「……近づけ……」
「詭弁だよ、それは。そしてこういったところで、そんな理由で近づこうとするのが間違いだ。手袋を投げつけられてもおかしくないんだよ」
 決闘を意味する行為、それをされてもおかしくないのだと諭すが、どうやら分からないらしい。逆にカナリアがその意味を悟り、なおさら怯えている。

 分からないのなら、行動に移すまで。

 クリスは白い手袋のかわりに、シュウへPvPを申し込んだ。


 不穏な動きを察知していたジャッジたちは、バルコニー近くで聞き耳を立てていた。
 気が付くとNPCである国王までもが聞き耳を立てている。

 クリスは気づいているだろうが、どうやらシュウは気づいていないらしい。
 必死に言い募るシュウへ殺意を覚えたものの、あからさまにせず大人しくしていた。
「……くそっ」
「諦めろ。殺気をもう少し抑えろ」
「これが精いっぱいだ」
「馬鹿なことをぬかすな。いいか、あそこにいるのはクエストモンスターだ。殺気を感じ取られたら逃げられるぞ。んでもって、カナリアは一応砦の中にいる。
 ……いいか、お前のクエストは砦にいるカナリアを助けることだ。」
 ジャスティスの例えに、ジャッジは少しだけ落ち着く。

 それを聞いていた他のプレイヤーたちは、「その例えもどうなのか」とささやいていたとかいないとか。

 クリスのPvP申し込みに、周囲の空気が凍り付いた。

「君は意気地なしだね。私からの決闘すら拒むとは」
「なっ!?」
「本当はね、白い手袋を投げつけてやりたかったんだが……。『TabTapS!』このゲームでは禁じられているからね。かわりにPvPを申し込んだ。それを受諾しないということは、卑怯者であるという証なんだよ」
「ふざけるな!!」
 ……クリスの詭弁に見事にはまっている。思わずジャッジはため息をついた。

 クリスは口が達者だ。それで切り抜けることもしばしある。二十歳そこそこの子供が敵う相手ではない。
 同情してやるほどジャッジは甘くないが。

「その決闘、余が見届けようぞ」

 王の言葉でPvPによる初の名誉決闘が行われることになった。

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