初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<良平の悩み>

 やっと最後に笑った。それまでは美玖は無表情だった。
「ったく、『娘に渡した』は嘘じゃないか。……中学校のときの担任に聞きに行ってよかったよ」
 嘘で塗り固められた美玖の両親。虚栄心の塊なのか、それとも違うのか。
 おそらく「シュウ」の言う「物分りのいい叔父夫婦」という仮面も本当なのだろう。最悪その反動を全て美玖にあてているような気がしてしまう。
 さり気なく美玖と中学から一緒の生徒に訊ねても、「付き合いようがない」と言われてしまった。高校に入るまで携帯すら持っていない、しかも十年前に出た二つ折りの携帯を高校入学と同時に持ち始めたのでは、話についていけないだろう。
 その携帯の設定を良平が出来たのは、ひとえに己が使っていたものだからだ。あの時はスマホとタブレット、それから通話用に二つ折りの携帯を持ち歩いていた。全てにメルアドを設定して保たちと遊んでいたのだから、当時の学年主任――今の教頭だが――に呆れられた。新任で入ってきて、一緒に遊ぶ時は遊ぶ。
「……嫌な予感がすんだよなぁ」
 ぼそりと呟いた時、指導室のドアが開いた。
「教頭先生……」
「つばをつけたのでは無いようで何より。で? 彼女とどんなつき合いがあるのかね?」
 やっぱりばれてますか。そう良平は呟いた。
「俺が直接知り合ったわけではないのですがね。元教え子を通じてゲーム上で知り合いました」
 その言葉に教頭が愕然としていた。
「入学早々からやっていたというのが、本人と元教え子の言い分です。古瀬君が初期に躓いたところを、助けた……」
「というか、あの子できたのかい?」
「失礼ですよ。教頭」
「で、何のゲームだい?」
「そっちか!! あんたは!」
 以前もこいつが上司だったのだ。まだ自分に良識があると思ってしまった。
「……まぁ、あの子を見てるとね。彼女、、を思い出すんだよ」
「俺の嫁さんは渡しませんよ」
 筋金入りの箱入り娘だった彼女は、誰とも一緒にいれなかった。ゲームに誘って、彼女の親に怒られたのはいい思い出だ。今では暇をもてあまして、かの有名なVRMMOを親子共々やっている。途中までは一緒にやっていたが、ネームバリューのせいでストーカーが多くなり、良平は止めている。「TabTaps!」も彼女と両親を誘ったが、両親が「難しい」と拒否し、彼女は良平に時間が空いたらやると言っている。おそらく夏に一緒にすることになるだろう。
 そうすれば、晴香の暴走が尚更酷くなるのは目に見えている。
「というより、俺の嫁さんとは家庭環境が違うみたいですからね。ほい、少しばかり職権乱用した書類ですが」
 晴香にも頼んで調べてもらった調書を教頭に渡す。
「外面がいいのか。学校側にも『外面』を見せて欲しいものだ」
「やっぱり思います?」
 どうやら美玖が高校を卒業したらこの土地を逃げるつもりらしい。だから、周囲を気にしなくてもいいということか。
「で、今は何のゲームをやってるんだい?」
「あんたが気にするのはそこか!!」
 教頭の一言に、良平は思わず怒鳴った。

「初心者がVRMMOをやります(仮)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く