初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<禰宜田親子の愉快な会話>

「え? 社長が私と会長が似てるって言ったから、かなり不本意だって話です」
 しれっと孝道は言うが、そんなものが通じるような義孝ではない。
「そんなもので、会長のあの怒鳴り声が出るわけがないだろうが! 秘書課課長から半泣きで訴えがあったぞ! そのあと恒例の怒鳴りあいかと思ったら静かになるし、そのあとこの部屋から冷気が漏れてくるし! これ以上は社員の環境に悪いからと、私がここに来るはめになる!」
「怒鳴り声は、そこで解決したから終わりです」
「そうじゃ。何故私と孝道が似ていると言われねばならぬ、不本意だ。私はこやつほど腹黒くも、他人を手のひらで転がす才能もないぞ」
「何を仰っているのやら。私の腹は黒くないと先程も申し上げたでしょうが。黒いのは会長という名の古狸様です。私にはとても腹芸はできませんからね」
 ばん! と思いっきり机を叩いた義孝が二人を睨んだ。
「目くそ鼻くそという言葉をご存知ですか? あんた方は。まぁ、似たもの同士は反発しやすいとも言いますから、そういう風に言い合ってる時点で似てると証言してるようなもんですよ。……母の苦労がよーく分かります」
「不本意だな」
「まったくです」
 こういうときは息がぴったり合う義道と孝道だ。
「あ、あとで総務部にも寄って行こうと思っていたけど、社長にだけ言っておいた方がまだいいかな?」
「何だ。今度は何の面倒ごとだ」
 眉間に皺を寄せ、義孝が言う。
「面倒ごとって失礼な。家族が一人増えるだけです」
「……悠里ちゃん、子供産めたの? 諦めたんじゃ……」
 悠里たちは、原因不明の不妊で、人工授精などをしないと子供が望めなかった。数年二人で頑張ったようだが、諦めたのだ。
「悠里夫婦に子供が授かったら、私が会社に報告することではないでしょうに。お嫁に行ったわけですから。娘がね、増えるんです」
「おまっ! まさか!!」
「はい」
「それは許せん!」
「?」
 何か話が通じていない感じがしてしまった。
「孝道。今のではこの堅物には『浮気してます。浮気相手に子供がいたようなので引き取ります』としか聞こえんだろうが。……私とて先程の話を聞いてなければ、そう思うぞ。
 義孝。安心しろ。家庭環境が劣悪で虐待を受けていたお嬢さんを引き取るんだそうだ。なにぶんにも、さゆりさんが気に入ったらしくてな」
「そんな報告一度も受けてませんが」
「仕方あるまいて。私も今報告を受けた。しかも出会って一ヶ月くらいだそうだ。現在は入院中」
 そこで義孝も櫻井病院からの話を思い出したのだろう。ため息をついていた。
「反対はするなよ? 反対されたら全てを引退してさゆりさんとそのお嬢さんと一緒に田舎でのんびり暮らすそうだ」
「……脅迫か」
「社長も失礼ですね。私は事実を述べただけです」
「悠里ちゃんのときといい、お前は強行突破が大好きだな」
「おや? 私よりも良平君を気に入ってるのは社長と会長でしょうが」
 知らないと思っていたのか。この二人は。良平たちは孝道にもお礼を言ってくるような男だ。
 今、良平がやっている実験教室の資材を提供しているのは、この二人なのだ。勿論、二人は名前を出すことなく、義孝の息子を介して提供している。
 それでばれないと思うほうが不思議なのだ。
「文武両道。そして卓上の理論は要らぬ。将来を担う子供が少しでも多いほうがよかろう」
 しれっと義道が返した。
「文武両道は関係ないですよね?」
「……会長の言い分としては、実験も大事、お金も大事。そして何より考える力が大事。それ以上に人が大事といいたいだけだろう」
「素晴らしい翻訳、ありがとうございます。社長」
 今の言い分でここまで分かるというのが凄いと思ってしまう。
「お前が本社を出て自由気ままにしているせいで、私が全てを把握しなきゃならないんだから仕方ないだろうが」
「自由でいいですよ。外は」
「嫌味か」
「いえ、事実です」
 しれっと孝道は答えた。
「さて、私は報告に戻ります。溝内のご夫婦も報告を心待ちにしているでしょうし」
「……溝内さん絡みか」
「両家とも自分から望んで絡んだが、正しいですね」
「分かった。内密に保険証を用意できるようにしておく」
「お願いします」
 そして会長の部屋を出る。

 強引ではあったが、一応は了承をもらえた。妻がどれくらい喜ぶだろうか。

 それ以上に、調書が全てを苛立たせている。


 その数日後、応仁会のご子息から孝道に連絡が入った。「元婚約者と連絡を取りたい」と。
 丁度その時、孝道は妻と、溝内の夫婦と一緒にいた。四人揃って「ふざけるな」と塩をまきたくなったが、「十三年前の事件を調べろ」とだけ示唆しておいた。
 知ったからと言って、美玖をあのボンボンに渡すつもりはないが。

 そして、美玖はまだ目覚めたばかりで、現実と夢を行き来しているような状態だ。
 そんな時に余計な雑音は要らない。

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