初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<保と悪夢>


 暫く沈黙が続く。
「で、お前は俺に復帰しろって言いたのか?」
「いや。最初はお前が『限定クエスト』を知っているかどうかを聞きたかっただけだ。今は、そのクエストが起きるタイミングを教えて欲しいと思っている」
「……お前がクリアするためか?」
「違う。んなもん、巻き込まれたときに考えるのが楽しいに決まってるだろ? 美玖が巻き込まれないためだよ。その付近に近づかせないことくらいは出来る」
「悪いが俺も親父も詳しい数を知らない。いくつかは確かにイベントとして組んだ。……最終プログラミングは俺たちじゃないし、神崎さんでもないんだ」
「……そっか」
 だとしたら、悪意から守るためにも美玖には決められたクエスト以外の受注は止めさせておこう。そうしないとどんな限定イベントに巻き込まれるか分からない。
 素材集めも最近は楽しんでいる。スパイダーシルクなど虫が絡むものはどうしても駄目みたいだが。ユニに乗って色んなところに行って新しい素材を見つける旅なんて考えていたようだが、それも難しいだろう。
「サンキュ。じゃあ、俺なりに美玖を守る。あとは何が何でも『深窓の宴』に近づかせないし、ギルドごとブラリに入れておく」
「……いいのか?」
「元々俺たちは『深窓の宴』から暫く指名依頼も引き受けないと宣言してるんだ。それを無期限延長にするだけだ。あと、トールたちもだな」
「……かなりな制限だな」
「仕方ない。美玖は個人レベルどころか、プライベートレベルでも『深窓の宴』のメンバーといざこざが起きてるんだ。丁度いい」
 最悪は別のゲームを勧めて、そちらに移るしかないだろう。「TabTapS!」側では、生産系のプレイヤーが他のゲームから移ってきているところだが、知ったことではない。それに、いくらマスコミが美玖におきた事件をぼかして伝えていたとしても、どのゲームであの事件が起きたかなど、ネット上で噂になっている。そちらの対応だって大変なはずだ。そして、その被害者がゲームを離れたとなれば、おそらくT.Sカンパニーのイメージダウンに繋がってもおかしくない。
「……お前、過保護すぎるだろ。いくらなんでもさ。そういうのは本人が決めるもんだ」
「そればかりは俺に言われても困る。今の美玖にはそれくらいしないと駄目なんだ」
 理由はいくら隆二であってもいえる訳がない。
「今日は遅い。泊まってけ」
 一日帰るのが遅くなるのは決定した。

 美玖にそれを伝えようとしたが、昌代に止められた。「帰ってきてからでもいいだろう」と。美玖のリハビリに使うつもりらしい。それで精神不安定になったとしても近くに医師がおり、何とかなるだろうというのが昌代の言い分だった。
『それよりもお主じゃな。我にはお主の方が危うく思えるぞ?』
 さすが伊達に長く生きていない。
「……最初の目的は果たせた。あとは良平先生たちも交えて話し合う」
『さようか。お主、いつもの覇気がないぞ?』
「美玖不足」
『……さようか』
 いつもなら「ふざけたことを抜かすな!」と返ってくるはずの言葉にも、昌代は何も言おうとしなかった。
「美玖、は?」
『不安になりながらも、必死に取り繕うておる。お主がすべきなのは、遭難せずに帰って来ることじゃ』
「……あぁ」
 昌代なりのエールなのだろうが、今は全てが不安だ。美玖に今のままゲームを続けさせるということが、美玖の精神こころを壊しかねないところにきているのだ。
 電話を切って、用意されたベッドに寝転んだ。


 これは、夢だ。
 また、助けを呼ぶ美玖を救えない。
 止めろ、止めてくれ! 美玖を壊さないでくれ!

「……つ。保!!」
 隆二に叩き起こされ、やっと夢から逃げることが出来た。
「かなりうなされてたぞ」
「……れない」
 助けられない。それが、保にとって何よりも辛い。
「詳しいことは聞かない。だけど、そろそろ本格的に心療内科に通え」
「ん。今ついでで診てもらってる」
「ついで?」
「美玖のついで。今一緒にいる」
「同棲中かよ」
「いや、美玖の療養に俺を連れてきてもらってる。……外出できるほど回復はしてない」
 ホットミルクを受け取り、保は答える。
「フリーになったら落ち着いたんだけどな。医者にも来なくていいって言われるくらいまでになったんだぞ」
「ここまで悪化しておいて何を抜かす」
「俺も予想外だ」
 中身は少しばかり蜂蜜を入れたものだった。
「親父が言ってた。ひょっとしてお前の恋人は未成年か?」
「当たり」
「ヘッドギア『事故』……いや、『事件』の被害者か?」
「よく分かったな」
「親父の伝手。分かった。親父に伝えておく」
 それだけ言っていなくなった。

 翌日、何故か隆二が一緒に山を降りると言う。
「あとから親父も降りる。さすがにあの事件の被害者が悪意に晒されるのは、嫌だからな」

 他にも何か事情を知っているのか、隆二はそれ以上言わなかった。

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