初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

クリス敗北

「私の姓を名乗ってもらえているようで嬉しいよ。お前の顔さえ見れれば今日はいいからね。失礼……」
 満足そうにクリスが言い、そのまま立ち去ろうとしていた。
 次の瞬間、クィーンが、とんと指で床を叩いた。
「せっかく茶が出来たのだ。それくらい飲んでいく時間はあるであろう?」
「……マッチャですか。ではありがたく……」
 茶を口に含んだクリスが、すぐさま吐き出していた。
「アントニー殿よ。今回も茶筅は失敗のようじゃな」
「左様でございますな。綺麗にたてれたのですが、すぐに茶筅がぼろぼろになります」
「エンチャントとやらをつければ、茶が不味くなる」
「仰るとおりです」

 茶碗の中には茶筅の屑がかなり沈んでいた。

「なっ……あなたたちはっ!!」
 クリスがすぐさまアントニーとクィーンにくってかかった。
「何を驚いておる? 我も一緒に飲んでいるではないか。……我の茶碗にも沈んでおるぞ?」
 あっさりとクィーンが茶碗を見せる。もちろんその中に茶筅の屑は紛れ込んでいる。
「だいぶよくなりましたが」
 そう付け加えてのは、アントニーである。
「左様。ゲーム内では無から始めたようなものじゃ。これしきのこと当たり前ではないか? 創生主よ」
 クリスの顔は悔しげに歪んでいた。
「一応我はお主に感謝しておるのだぞ? お主がやった無茶のおかげで、VRに対する規制が強くなったからの。
 お主が犠牲にした子供たち、、はこちらの手の内にある」
「全てがあなたの手の内で踊るとは思わないでいただきたい」
「それは我の台詞じゃな」
 くつくつとクリスが笑う。
「確かに。このフィールドは私が手をかけた世界でもある。どちらが上か……」
 そう言ってクリスがタブレットを出したが、すぐに消えた。
「なっ!?」

「駄目、ですよ。修行中に機械の使用は」
 気がついたときには、クリスの後ろにアントニーが立っていた。


 その状況についていけなかったのは、他のメンバーである。
 プログラマーを差し置いて、クィーンとアントニーが有利に動いているのだ。
「いやはや。アクティブスキルに気がつかないプログラマーとは」
「『あくてぃぶすきる』?」
 アントニーの言葉にカナリアはコテンと首を傾げた。
「帰ったら教えるから。パッシブスキルの意味も今まで……」
「知りません」
 ジャッジの言葉を遮って、カナリアは即答していた。


「パッシブスキルもアクティブスキルも分からない者が、私の組んだクエストをクリアしただと?」
 己の声が震えているのは、クリスにも分かった。
「……あ~~。あの人竜族のクエストね。かなり偶然、、が重なったと俺たちは取っていたんだが」
 そう呟いたのは、ディッチだ。
「前回、あなたがカナリア君に言ったことに反論させてもらう。
 一つ目、フィールドは何度かクエストを受注していればそれを引くだろう。今回受注主はこいつ、ジャスだった。それこそ俺やジャスたちは何度もあのクエストをやっている。二つ目、遠くの巣を選んだのは、カナリア君にゲーム的感覚を身につけさせるため。あえて難しいルートを取った。本来であればクエスト失敗の後、再度引き受けるつもりをしていた」
「そうだったんですか?」
「そうでもしないと、カナリア君はいつまで経っても必要最低限しか倒さない引き受け方しかしない」
 ディッチの言葉にカナリアは言葉を失っていた。
「予想より遅く、、他のドラゴン種に囲まれて、卵を返還するだけでは無理だなと思ってたところに、崖から落下。たまたまその時に、卵が孵化しただけですよ」
「孵化しただけでは、隠しにしか行かない!!」
「……普通はそうでしょうね。ところがどっこい、これぞカナリアという行動を取った。
 ディッチさん、この先は俺が説明していいですか?」
「おうよ。ってか、その先はお前しか知らんだろうが」
 クリスの叫びを気にすることなく、ジャスティスという男が答えてくる。そして、説明者はディッチからジャスティスへと移っていく。
「卵の殻が素材だと俺たちはカナリアに教えていた。たまたま落下途中に孵化した卵を見たカナリアは驚いて、翼竜の子供を俺の腕の中に押し付けてきた。……そしてカナリアは殻の回収をしようと思っていたらしい」
「ジャ……ジャスティスさん!!」

 聞けば聞くほどに呆れるばかりである。

 まさか、素材欲しさに必死になったカナリアが、卵と翼竜の雛を守ろうとしたとか。「死に戻り」をしてすぐに食事を取ろうと思っただけとか。その食事を見た雛が食べたがり、与えたとか。
 極めつけは雛にこのジャスティスという男が気に入られたことだろう。自分から、、、、雛が同じ方向にさせたとか、道案内させたとか……ある種の自立思考型の弊害だ。

 まぁ、クリアできてしまったのも分かる気がしてきた。

 まさか、やって一年も経過しない子供に負けるとは思いもしなかった。


 そして現状、クリスは何故か動けないのだ。

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