初心者がVRMMOをやります(仮)
オープンとお礼
開店までそこまで時間がかからなかったのは、ひとえにギルドカウンターのおかげだとカナリアは思い、こっそりとマカロンの詰め合わせを持って向かった。
「カナリアちゃん、いらっしゃい。今日は依頼するの? 依頼受けるの?」
顔なじみになったギルド職員がすぐに声をかけてきた。
「えっと、今日はどちらでもないです。お陰様で現実時間で明後日開店しますので、お礼にお菓子を持って来ました」
「え!? 別にいいんだよ? そんなことしなくても」
「いえ。予想より早く開店が出来たのは、カウンター業務の方々が手を尽くしてくださったからです。心ばかりのお礼です」
ちなみに、喫茶店の内装や食器類など様々依頼をかけた。引き受けてくれた人には、お礼のクーポンも配ってある。
「そういうことなら、皆で食べるよ。ありがと」
正直な話、色んなところに配りまくったので、何枚配ったのかすら分からない。
それくらいお世話になりっぱなしなのだ。
ちなみに、明日はプレオープンもどきとして、お世話になった人たちを招待している。その中には初心者の町に住むNPCも含まれている。
オープンから少し落ち着いたら、ギルドメンバーと一緒にレイド戦を受ける約束もしている。
もの凄く充実していると思う。
この間にもシュウがいきなりやって来たりもしたが、あっさりとギルドメンバーにて追い払われていた。
その事実は、後日別方向から聞こえてくる。
そんなことすら気にならないくらいなのだ。
渡し終わったら本日はログアウト。また明日繋ぐのだ。
プレオープンの日は、賑やかだった。
各々が好きなものを立食形式で食べる。テラスに椅子とテーブルを置き、そこで食べることも可能だ。
「これ、どこで手に入れた?」
ローストビーフを口にした、麺類を搬入してくれるプレイヤーが訊ねてきた。
「ビーフはセイレン諸島の山中で放牧されてる、ビーグットと呼ばれるモンスターです。バターやミルク、チーズはホルッビーと呼ばれるものを郊外で世話しています」
「ビーグッドって確か……」
「はい、皮革を取るためのモンスターですが、よくよく考えれば食べれるかな、と」
「……うん。動きはさすがウサミミ嬢だ」
「このサンビッチェは、この近辺の農家さんから手に入れてます」
質問を受ければ、どこから手に入れているかを全て教えていく。
本日のメニューは手軽に食べられるもの、ということでサンドイッチやおにぎりなどが主体である。
ちなみに、マリル諸島では年中筍が取れるらしく、本日のおにぎりはノボリサケ、梅干、そして筍おこわの三種類だ。
その近くには魔法ポットに淹れて、お茶が置いてある。
サンドイッチの隣には紅茶とコーヒー、それからミルクである。
デザートも東西を問わず置いてある。
調理方法も数多あり、それにあわせてセバスチャンの料理スキルが飛躍的にまた伸びた。
余談ではあるが、ジャッジが専属でモンスターを狩ってくれることになった。それにより、モンスターを狩らないと手に入らない食材もかなりの数がある。
暫くは「時価」という金額がつくのもあるかもしれない。
そんなジャッジは、今日のプレオープンに顔を見せていない。それがカナリアとしてはかなり寂しい。なにやら「絶対にしなきゃいけない用事」とやらがあるらしい。クィーンも「ジャッジも少し前を向くようになった」と意味不明なことを言っていたため、尚更不安になる。
「カナリア。飯がなくなる」
ディスカスがおこわのおにぎりを持ったままこちらへやって来た。
「ふぇぇ!?」
あれだけ炊いたのに!? カナリアが寂しいと思い感傷に浸っている暇はどうやらないようである。
慌てて再度五升ほどご飯を炊いたものの、あっという間になくなってしまった。
それをみたカナリアは思わず「味噌汁とかカレーとか作んなくてよかった」と思ったのは、別の話である。
翌日のオープンからこの先、「安楽椅子」は初心者だけに留まらず、ベテラン勢やNPCも訪れる憩いの店になった。
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