初心者がVRMMOをやります(仮)

神無乃愛

現実世界にて<千沙の願い>


 そんな話を別ゲーム内で聞いた美玖の祖母は。
「昔はあの子もそうだったのよね」
 しんみりと千沙が呟く。
 あの子。勿論美玖の母親のことである。

 いつからあんな風になったのか。微妙な変化は美玖が産まれる前だったと思う。

 相手を紹介してもらったとき、好青年だと思った。
 最初の頃は向こうで何かあるとすぐ庇ってもらっているという話を聞いていたし、よく遊びに来ていた。

 妊娠して「絶対に男を産むように」と言われたあたりが分岐点だったのかもしれない。産まれたのは美玖だ。そのあたりから向こうの家でなおさらひどくなっていったのかもしれない。
 だんだんと実家に寄らなくなる娘を心配して、夫と二人連絡を取っていた。その時娘は「大丈夫よ」と言っていた。
 二人目の妊娠発覚からまた少しずつ笑顔が戻ってきたように思うし、実家にも再度来るようになった。

 そして夫が闘病生活に入り、娘が流産。夫に付き添っていた千沙は変化を見逃した。
 夫の病状が小康状態になると、すぐさま連絡を取ったが婿が突っぱねた。

 そのあたりから、美玖の様子がおかしくなった。

 夫が末娘夫婦の離婚をほのめかしたあたりに事故にあい、再度連絡が途切れた。
 その後末期がんが見つかり、余命半年と宣告された。

 夫の強い要望により、末娘夫婦の近くに引っ越すことが出来たのは美玖が小学校に上がる頃だった。

 向こうが実家の権力を使うなら、こちらはコネを利用してやる。そう夫は宣言し、夫婦を実家に引っ越せないように仕向けた。美玖を助けるために。
 それから数年後、夫は他界。孫たちのおかげで余命を超えて生きれたと喜んでいた。

 悔しかった。中途半端にしか美玖を救えなかったことに。

 必死に手を差し伸べようとするものの、美玖は少しばかり操り人形のようになり始めていた。
 そんな美玖の反抗。それがVRMMORPGをやるということ。

 それすらも美玖を壊す原因になるとは。

 やっと笑顔の戻ってきた美玖を千沙は微笑ましく思うとともに、色々勉強したいと思う昔の末娘を見ているようで辛かった。

 美玖は娘のような道を歩みませんように。
 それが千沙の願いだった。

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