ペンシルナイト

手頃羊

その3・get ready

ブラック「あとは、石だな。」

リュウ「石?願いの石ってやつか?」

ブラック「そうそう。これだ。」
ブラックの手のひらに白いビー玉のようなものが現れる。
うっすらと虹色に光っているようにも見える。

リュウ「意外とはっきり形あんのな。」

ブラック「まぁな。中をよく見てみろ。」
石に顔を近づけて中を見ると、文字が書いてある。

『誠が生還し、意識も取り戻し、いつもの日常に戻る』

リュウ「これ、俺が書いたやつ?」

ブラック「そう。あんたの願いがこもった石、あんたの願いの石だ。」
石が透明になって消えていく。

リュウ「消えた。」

ブラック「これは、あたしが管理しておく。安心しときな。」

リュウ「はいはい。」

ブラック「それじゃあ名前も決まって、石のことも話したし。ちょっと武器のことを知っておこうぜ。」

リュウ「武器…鉛筆かぁ…」

ブラック「なんだよ。」

リュウ「もっと剣みたいな分かりやすい武器無かったの?」
鉛筆を持って戦う様はシュールだ。

ブラック「逆に聞くけどよ。いきなり目の前に剣とか銃とか持った奴に襲われてみろよ。」

リュウ「あ、無理だわ。」
そんな経験は今まで一度もないが、それをされる怖さは何となくでも知っている。

ブラック「だろう?」

リュウ「いやでも、どっちにしろ怖いじゃん⁉︎」

ブラック「まぁ他には、文房具の方が種類多いじゃん?色々できるじゃん?多分。」

リュウ「そうなの…?」

ブラック「あたしも知らないよ。とにかく、武器は文房具。んで、あんたの武器は鉛筆。そういうこと。」

リュウ「もっと大事な部分あるでしょ…」

ブラック「…あっても理解できるのか?」
本気で頭脳を心配してきてるような低いトーン。

リュウ「できないですよ…」

ブラック「はいはい。この話は止め止め。そんなことより、その鉛筆でできることが何かを理解した方がいいぞ。」
改めて、自分が持つ鉛筆を見る。
地面に立てると、自分の目の位置に芯の先が来るほど長い。

ブラック「先っぽも尖ってるし、いざという時は槍にでもなるな。」

リュウ「槍、ねぇ。」

ブラック「でも1番気にすべきは、その能力の方だ。」

リュウ「能力?なに、これから超能力バトルでも始まんの?」

ブラック「うん。」

リュウ「マジで言ってんの⁉︎」
あっさり即答される。

ブラック「文房具には何かしら能力があるんだよ。その能力と、街中に散らばっている何か役に立ちそうなモンを上手いこと使って、他の参加者を倒すんだ。」

リュウ「倒す…」

ブラック「なんだよ。まさか、他の人を殺すのを躊躇ってんじゃねーよな?」
目の前まで近づいてくる。

リュウ「当たり前だろ!人殺しだぞ⁉︎死なない選択もできるっつっても、石6個集めたらクソみたいな状況になるんだろ⁉︎」

ブラック「あ〜あ。でもまぁ、最初はみんなそんなもんだ。ちょっと過ごせば、すぐにそんな甘えは消えるさ。安心しろ。」

リュウ「はぁ⁉︎甘えって…」

ブラック「ふんっ‼︎」
強烈なみぞおちパンチ。

リュウ「うおぇっ‼︎」
あまりの痛さにその場に倒れる。

ブラック「あんたの文房具の能力確認したら他の参加者がいる街に繰り出すことになるけど、そこの奴らはみんな敵だからな?あんたみたいな来たばっかで人殺しを躊躇うような奴ならともかく、既に何人も殺ってるような奴は容赦なく襲いかかってくるんだぞ?」

リュウ「うぅ…くぅ…」
言い返そうとしても言葉にならない。

ブラック「人殺すのが嫌なら、すぐに自殺して元の世界に戻ればいい。願いは叶わないけどな。もしくは、自分を犠牲にして弟クンを助けるか。どちらかしか選べないのに、たった9人殺すだけであんたも弟クンも助かるっつーハッピーエンドが手に入るんだぞ?」

リュウ「あた、ま…おかしい…!」
絞り出した声で言い返す。

ブラック「こんなことで頭おかしいってなるなら、あんたの世界に常人なんか1人もいないぞ。そんなこと気にしてないで、やりたいことがあるんならそれに向かって必死にやってみろ。ほら立て。腹殴ったのは悪かったって。」
ブラックの肩を借りて何とか立ち上がる。

ブラック「お前、体鍛えてる?」

リュウ「…全然?」

ブラック「家で引きこもりか⁉︎」

リュウ「学校には行ってるよ。」

ブラック「そうじゃなくて、その学校以外の時間!部活動とか、筋トレしたりとか…」

リュウ「ゲームしてる。」

ブラック「うわ…不安になってきたな…体動くのか、それ?」

リュウ「え、なんか身体能力に恩恵が…的な何かはないの?」

ブラック「文房具にそういう能力無かったら無いよ。」

リュウ「ってことは…」

ブラック「運動できないやつは…真っ先に死ぬんじゃね?」
背筋が寒くなる。

ブラック「まぁなんだ…能力次第では、ほら、強いのとかあるかもしんないし?」
言ってる本人が不安になってきている。

リュウ「能力…能力か…」
鉛筆の芯を見る。

リュウ「まぁ普通に考えても、ここになんかあるよな?」

ブラック「まぁパターン的にそうだろ。」
芯を触ってみる。

リュウ「うわっ、触っただけでついた!」
芯を触っただけで指が黒くなった。

ブラック「芯に押し付けたり、芯を擦ったりすりゃ黒くはなるけど、触っただけですぐにベッタリ真っ黒ってのはありえねぇな。」

リュウ「ってことは、やっぱり芯に秘密が…」
黒くなった指先をズボンで拭ってもう一度触ろうとする。

リュウ「うーん…ん?」

ブラック「どうした?」

リュウ「全然黒いの落ちねぇ。」
ズボンで拭ったはずが、全く黒いのが落ちない。

ブラック「は?」

リュウ「頑固だなおい…これもしかして…ん?」

ブラック「今度はなんだ?」

リュウ「なぁ…ちょっと見て。」
芯で黒くなった指を見せる。

ブラック「なんだよ…ん?」
ブラックも違和感に気付いた。

ブラック「芯で書いたにしちゃあ…随分とこう、真っ黒だな。マジックかなんかで書いたみたいに。」
鉛筆で手に何か書いても、基本的に全く写らない。
写ってもかなり薄い。
だが龍の指は、芯に触れた部分が完全に真っ黒になっている。

リュウ「というより…こう、空間的に黒い。」

ブラック「空間的にィ?いや待て、その例えはアリかもしんないな…」

リュウ「でも…これで何ができるの?」

ブラック「そうだな…今までの参加者の経験でいくと…付箋紙だって奴は何かを召喚できたりしてたな。」

リュウ「召喚⁉︎どうやって⁉︎」

ブラック「付箋紙に召喚したいものを書いて、『出てこい!』って念じたら出てくるらしい。」

リュウ「ってことは、この指からなんか出てくるってこと?」

ブラック「やってみたら?」
指を地面に向ける。

リュウ「何出そう…弾丸!」
しかし、何も出てこない。

ブラック「…恥ずかし。」

リュウ「うっせぇ!」

ブラック「声に出さなくてもいいだろ。後は…下敷きの奴だと盾になったし、シールの奴はシールを付けた場所同士でシールの中に潜って別のシールの場所から出てきたりとか…」

リュウ「元々文房具で出来るようなことに、ちょっとしたアクションができるようになるってことか。」

ブラック「そうそう。そんな感じ…ちなみに、同じ鉛筆でも持つ奴によって能力は違うからな。あんた固有の能力なのさ。たまたま被ることはあるかもしれんが。」

リュウ「ふむ…」
2人で顎に手を当てながら考える。

リュウ「鉛筆でできること…線を書く、塗りつぶす、芯を折る…」
地面に鉛筆の芯を当て、少し歩く。
地面は草原なだけあって草が生い茂っており、普通なら鉛筆を当てたところで何も起きない。
だが、龍が持っている鉛筆だと芯に触れた部分が真っ黒になる。

リュウ「線を引く。1本の線。そこで何が思い浮かぶか。」

ブラック「なるほど。どんどんアイデアを広げていくわけか。」

リュウ「そうそう。ディベートの授業とかでよくやるやつ。線といえば…」

ブラック「何かと何かを繋げる。」

リュウ「となると…紐や橋とか…あとは電車のレール。」

ブラック「レール?」

リュウ「え、無理ある?」

ブラック「言われてみれば納得できるっちゃあできるけど…」

リュウ「だろ?んで、レールと言ったら。」

ブラック「そりゃあ、その上を走る、だろ。」

リュウ「つまりこういうのはどうだ‼︎」
鉛筆で引いた線の上に飛び乗る。

リュウ「行けぇ‼︎」
線の上を滑るように進む。

ブラック「おお‼︎」
さながら、スケートボーダーのように滑る。

リュウ「これは発見だろ!」

ブラック「へぇ〜。そんなことできんのか。」

リュウ「えっと…あれ、滑った部分は消えんのか。」
自分が滑ってきた場所を見るが、黒い線は無くなっていた。

ブラック「1回使うと消えるのか。」

リュウ「…これだけ?」

ブラック「知らねぇよ。」

リュウ「んなわけないでしょ!絶対まだあるって!」

ブラック「いや、十分すごい能力じゃないか?ほら、滑りながら自分の前に鉛筆立ててさ…」

リュウ「え?こんな感じ?」
鉛筆を立てて少し書いた上に乗る。
鉛筆を地面に突き立てながら滑る。
滑りながら鉛筆が次の線を書き、その上を滑りながら次の線が足されていき…

リュウ「おお!無限に滑れる!」

ブラック「なかなか使えるな。これ結構強い部類なんじゃないか?それでどっかからナイフとか拾ってくれば滑りながら攻撃とかもできるし。」

リュウ「…」

ブラック「あんた、戦うこと忘れようとしてたな?」

リュウ「うぅ…」

ブラック「ウダウダ言ってないで覚悟決めろ。それか、いっそのこと現地に行っちまった方が勝手に覚悟決まるんじゃねーか?」
ブラックが金属バットを取り出した。

リュウ「え?ちょっと?」

ブラック「よし、じゃあ行くぞ!」
いきなり振りかぶって頭を殴られるのに全く反応できず、直撃。
一瞬で意識が途絶えた。

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