ペンシルナイト

手頃羊

その1・入り口

ペンシルナイト
1-1
入り口

誠「ただいまー!」
ランドセルを背負った小学生が家に帰ってくる。

龍「おかえり。」
学校を風邪で休んだ高校生が迎える。
黒田くろだ りゅう
高校2年生。
成績は良くない。

龍「誠、今日塾あるんだろ?」

誠「うん!もう時間来ちゃう!」
黒田誠。
小学6年生。
黒田龍の弟。

龍「気をつけて行ってくるんだぞ。」

誠「行ってきまーす!」
入ってきた扉を開けてまた出て行く。

龍「あ〜あ。俺も塾行きたかったな〜。そしたらもうちょい成績良かったかもしんねぇのにな〜。」
と言いつつ、居間でテレビゲームをしている。

龍「あ、レベル上がった。」



夜。
父と母も帰ってきて夕飯の用意をする。

父「誠はまだ塾なのか?」
時計を確認する。
時刻は20:25。

母「もう授業は終わってると思うけど…」
カレーを作りながら
普段なら20:00前には帰ってきている。

龍「遅くねぇ?」

父「塾に電話するか。」
電話を取ろうとすると、先に電話がかかってきた。

父「おっと。」
画面には塾と書かれている。

父「噂をすれば向こうから…はいもしもし。」
電話を取る。

誠「塾で居残りでもしてんのかね?」

母「さぁ?龍、ルー取って。」

龍「はいはい。」

父「はい…はい…は?」
父の様子がおかしくなる。

父「それは…本当ですか⁉︎はい…分かりました!はい!」
電話を切る。
とても怯えたような顔になっている。

母「どうしたの、あなた?」
父の手が震えている。
龍も只事ではないと悟る。

龍「なに?なんかあったのオトン?」

父「誠が…」

龍「誠が?」

父「トラックに…轢かれたって…」



病院。
廊下のイスで父と母が手を合わせながら座っている。
龍はその横で立っている。
いつもなら何かの待ち時間の時はスマートフォンで何かしらのゲームをしているが、今はその場合じゃない。

(マジかよ…マジかよ…)
警察の話では、運転中の居眠りで運転主がトラックのハンドルを切ってしまい、たまたまそこにいた誠が轢かれてしまったのだという。

母「誠…誠…‼︎」
もはや声になってないような声で誠の名前を呼び続ける。

父「大丈夫だ!医者が何とかしてくれる!」

母「誠…‼︎」
治療室の扉が開き、中から医者が出てくる。

父「誠は⁉︎誠はどうなんです⁉︎」
出てくるなり医者の肩を掴む。

龍「ちょっ、落ち着けって!」
父を医者から引き剥がす。

医者「一応、一命は取り留めました。」

父「…‼︎」

母「良かった…‼︎」
2人とも泣き崩れる。

龍「弟は助かったってことですか⁉︎」

医者「いいえ。」

龍「え?」

医者「まだ分かりません。意識はまだ戻ってきていません。いつ何があってもおかしくない状況です。」

父「そんな…」

医者「もちろん、全力は尽くします。ひとまず…」
すると、治療室から看護師が出てくる。

看護師「先生!患者の容体が!」

医者「っ!」
すぐに治療室へと入っていった。

父「先生!先生‼︎」
廊下に父の声だけが響く。

龍「オトン、とりあえず座ろう。」
地面に座り込んだ父と母を無理やり椅子に座らせる。

(嘘だ…誠が…)
小学生と高校生という歳の離れた兄弟だが、家にいる時はいつも一緒に過ごしてきた。
どこにいても、子犬のように必ず付いてきた。

(くそっ…助かってくれ…頼むから…‼︎俺に出来ることならなんだって…‼︎)
すると、手に違和感を感じた。

龍「ん?」
いつの間にか、メモ帳を持っていた。

龍「は?なんだこれ。」
黄色い表紙には『ペンシルナイト』と書かれている。

(なんだこれ?何も持たずに出てきたはずなのに…)
メモ帳を睨んでいると、表紙に文字が浮かんできた。

龍「なっ⁉︎え?」
青白く光った文字で『開け』と書いてある。

龍「なにこれ?」
両親の方を見る。
俯いたままだったが、いつの間にか泣かなくなっていた。
そして全く動いていない。

龍「オトン?オカン?」
呼びかけても返事がない。

龍「おい、おいって!」
母の肩を揺するが、岩のように全く動かない。
むしろ服の感触すらなく、本当に岩に触ったような感触だった。

龍「なにこれ。なにこれ?」
スマートフォンを取り出し、画面を開こうとするが全く動かない。
家を出るまではずっと充電器に繋げたままな上に、ここまで1秒も使用していないから電池切れはあり得ない。
両親の腕時計を見ると、2つとも針は止まっていた。

龍「なんだこれ…」
もう一度メモ帳の表紙を見る。
『開け』の文字の下に『早く開け』と書いてあった。

龍「開けばいいのかよ…」
1ページ目を見る。
青白い文字が浮かび上がってくる。

『第21回ペンシルナイトへのご参加、ありがとうございます。
これよりペンシルナイト参加の手続きをさせて頂きます。
1ページ1ページ注意して読み、内容を確認しましたら、次のページへお進みください。
それでは、2ページ目をお開きください。』

龍「ペンシルナイト?なんだそりゃ?」
1つめくる。

『ペンシルナイトは、叶えたい願いを持った者に、その参加資格が与えられます。
危険を顧みず、願いの為なら他者を倒してでも願いを叶える覚悟がある者が、その願いを叶えることが出来ます。』

龍「願い?なんの冗談だこれ?」

『冗談ではございません。
次のページへお進みください。』

龍「うおっ!」
龍の呟いた言葉に反応して文字が浮かび上がる。

『参加者は、ペンシルナイトの世界にて参加者同士で共闘、対立しながら戦います。
参加者には始めに「武器」と「願いの石」が与えられます。
「願いの石」を10個集めた者は、願いを叶えることが出来ます。
各国で開催されており、1000人を超える参加者が競い合います。
あなたは「日本」エリアへの参加となります。』

龍「願いの石…」

『「願いの石」の所有権は死亡するまで始めに所持していた者のものとなります。
「願いの石」手に入れるには、所有者を殺害する必要があります。
また、既に「願いの石」を複数所持している者を倒した場合、手に入れることができるのはその所有者が元々持っていた「願いの石」のみ、つまり1つだけです。』

龍「死亡⁉︎殺害⁉︎死ぬって、マジの争いなのかよ⁉︎」

『ご安心ください。
仮に参加者がペンシルナイトの世界で死亡してしまっても、2つの選択肢が与えられます。

・願いを放棄して現実の世界へと帰還することができる

・現実の世界でも死亡するが、願いを叶えることができる

前者はいつでも選択できますが、前者を選択をすると、現実世界でその願いが叶うことは永遠にありません。

後者を選択することができるのは「願いの石」の所有数が5個以下の時のみです。
「願いの石」所有数が6個以上になりますと、

・現実の世界でも死亡し、願いが叶えられない

となります。
また、「願いの石」所有数に関わらず前者を選択する、或いは見事「願いの石」を10個集め、願いを叶えますと、2度とペンシルナイトへの参加資格が与えられません。』

龍「おい、普通石が5個以上あると頑張りを認めて、現実では死ぬけど願いは叶うとかじゃねーのか?それか、前者が願いが叶うかどうかは運に任されるようになるとか…」

『後戻りはできないという覚悟を持ってほしい、ということです。』

龍「なんだそりゃ‼︎」

『さすがに理不尽ですので、前者は死亡した場合いつでも選択できます。
次のページへお進みください。』

龍「何がさすがに理不尽ですので、だよ…ありえねぇ…色々ありえねぇ…幻覚か?」

『次のページにあなたの願いをお書きください。
変更はできません。
何がなんでも絶対に叶えたい願いのみお書きください。』
気がつくと万年筆が握られていた。

龍「これで書けってか…」

(本気かよ…マジでこんなこと…ありえねぇ…)
と思いつつも、万年筆を走らせる。
叶わなくなる可能性もあるのに、書かずにはいられなかった。

龍「『誠の事故を起きなかったことにしてほしい』。」

『申し訳ありませんが、「過去に起きた出来事を変えたい」という願いを叶えることはできません。
叶えられるのは「未来のみ」です。』

龍「あ?いや、どっちにしろだ。じゃあ『誠が生還し、意識も取り戻し、いつもの日常に戻る』。これでどうだ?」

『願いを確認しました。
次のページへお進みください。』
また1つページをめくる。

『次のページに、ペンシルナイト内でのあなたのユーザーネーム(ペンシルナイトユーザーネーム)をお書きください。
現実世界でのコミュニティに支障をきたさない為にも、本名の記入はしないことをお勧めします。』

龍「ユーザーネーム?ネトゲか何かかよ。」

『ユーザーネームを記入しましたら、このメモ帳をお閉じください。
その時点で、ペンシルナイトへの参加の承諾を正式に確認します。
1度参加を承諾されますと、願いの石を10個集めて願いを叶えるか、死亡するまでペンシルナイトから脱出することはできません。
参加を拒否したい場合は、何も書かずにこのままお閉じください。
ユーザーネームを記入した後で参加を拒否したい場合は、このページを破ってお閉じください。
ただし、その時点でペンシルナイトへの参加資格は永久に失われます。』

龍「誠を助けたいならやるしかないってか?」

『覚悟はありますか?』

(これに参加したら他人を殺さなきゃいけないってか?しかも失敗したら誠は助からない…?)
何度も何度も考える。
誠が生き返る為なら自分が死んでもいい、という覚悟は持っている。
なんだったら、ペンシルナイトの世界に入った瞬間に自殺なりなんなりして誠だけでも助ける、という覚悟は持っている。
だが、誠と一緒に過ごしたいという欲も持っている。
むしろ、それがあるからこそ誠を助けたいと思っているわけでもある。

(願いの石を6個以上持って死ぬと、誠は助からない…)
やるならば、他人を蹴落としてでも誠を助ける覚悟を持たなければならない。

龍「…………あぁクソ‼︎やるよ、やってやるよ‼︎」
ページをめくり、万年筆を強く握る。

龍「ユーザーネーム、『リュウ』!これでやってやるよ!」

『ペンシルナイトユーザーネーム「リュウ」で登録します。
ご質問が無ければ、このままメモ帳をお閉じください。』

龍「質問?質問…また後で聞くチャンスはあるのか?」

『この後、案内人が現れます。
その案内人にも質問することができます。』

龍「そうか…なら今はもういいや。参加する!」
メモ帳を閉じる。

?「参加を確認!ようこそ、ペンシルナイトへ!」

龍「え?」
少女の声が聞こえたと思うと、メモ帳が光始める。

龍「うわっ、まぶしっ‼︎」
強烈な光に目を覆う。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品