老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件
260話 帝
「おお……」
テンゲン城内部はユキムラの期待を裏切らない重厚な木造建築の芸術だった。
「師匠凄いキョロキョロしてますね……、拠点もかなり複雑な作りであまり違いがわからないのですが?」
「何ていうのかな、しいて言えば歴史? 時間の重みが重厚な雰囲気を作っていて、それがすごく魅力的なんだよ」
「ユキムラ殿は老中の方々のような物言いをされますな。まだお若いのに」
「ユキムラちゃんはたまにそういう所あるわよねー」
「拠点でも縁側でお茶をすするのが一番幸せとか言ってますよねーユキムラさん」
「確かにあそこでぼーっとしてると気持ちいいですが、師匠のはほんと魂抜け出そうな顔してましたから……」
「な、なんかみんな酷いなぁ……」
拠点ができてからのユキムラは、訓練が終わると縁側でお茶をすすって、工房に篭って出てきたら縁側でお茶をすすっていた。
みんなにこう言われるのも仕方がない。
特にソーカは不満たらたらだった。
それも、今日の着物姿で解消されることは決定的に明らかであった。
たくさんの美しい絵が描かれたふすまが並ぶ廊下を進んでいく。
歩くとキュッキュと音がなる。
鶯張りと呼ばれるもので、この音で人が歩いていることがわかるという工夫だ。
ソーカなんかはこの床立て付けが悪いのかしら? なんて首をかしげている。
天守内は非常に大きく、しばらく案内され歩いて行く。
どこをどう進んだのか覚えるのも難しい。
ただ、ユキムラたちには俯瞰視点があるので、せっかくの苦労だが意味がない。
途中何箇所か美しい中庭を眺めながら、とうとう謁見の間へと到着する。
「こちらでおすわりになってお待ち下さい。すぐに帝がいらします」
板張りの部屋、見事な具足とおそらくとんでもない値段の陶器などが飾られた立派な空間だ。
部屋の手前に用意された座布団の上にちょこんと正座で座る。
西洋風だとゲーム気分で萎縮しないのだが、どうも和風だと緊張してしまうユキムラだった。
ユキムラのそんな姿に皆、習って正座で帝をお待ちする。
「ゆ、ユキムラちゃん……この座り方……きついわ……」
「ああ、そしたらこんな風にしてあぐらをかくといいよ」
ヴァリィは慣れていないのですぐにギブアップした。
「おまたせいたしました。テンゲン和国 帝 おなーりー……」
太鼓の音と共に上座の戸が左右に開く。
絹を思わせる薄い布が下がっており、その向こうに人の影がある。
ユキムラは自然と頭を下げて帝を向かえる。
これは事前に教わった所作だ。
「皆の者、面を上げることを許す」
綺麗な、ただ、少し幼い声が響く。
ユキムラ達は面を上げて帝の姿を視界に入れる。
美しい布は半透明状になっており向こうにいる人物を神秘的に演出する。
しかし、ユキムラ達の視線の先にいる帝は、まだ幼い少女であることは隠しようがなかった。
おかっぱの黒髪。大きな眼、可愛らしい唇。年齢は10歳くらいに見える。
それなのに、妙な迫力がある。威圧に近いと言ってもいい。
実際の見た目とのギャップで余計にその威圧を強力に感じるような気がする。
「そなたらが白狼隊か、妾の姿を見ても一切の動揺を見せぬのは流石じゃな。
見た目はこの通り見目麗しい幼女じゃが、中身は3000年も生きておる妖怪じゃ、注意せよ」
帝の発言が本気なのか冗談なのかわからない。
しかし、見た目通りのただの幼女でないことははっきりとわかる。
「帝、お戯れが過ぎます」
「ホッホッホ。許せケイジ。妾も見たことのない強者の気配に心踊っておるのじゃ」
帝に進言したのはソーシから聞いている。この国の軍事の頂点にいるケイジと言う男。
圧倒的な実力の持ち主でその華のある闘い方と生き様で兵からの絶大な信頼を得ている。
帝からの信頼も非常に高い。
しかし、ソーシ曰く中身は馬鹿、いやすっごい馬鹿らしい。
謁見の場での立ち姿はまさに伊達男という感じでヴァリィあたりは目の色を変えている。
「まぁ、冗談はさておき、ユキムラ。そなたは何者だ?」
「……来訪者でございます」
「……ふむ、なるほど。嘘……ではないな。
しかし、儂が見た来訪者とはだいぶ異なる存在に感じるな……」
「正直自分でも自分がどういう存在かわかってはおりませんので」
ユキムラは正直に話すことにした。
なんとなく、だが、嘘や隠し事は意味がないのもある。
別に隠すことでもない。
「素直じゃな。気に入った。ユキムラ、妾のものにならんか?」
帝! なんと…… 周囲の家臣たちがざわつくのがわかる。
しかし、ユキムラを見つめる帝の目には周囲の雑多など気にも止まらないようにじっと見つめている。
ユキムラもそんな視線を正面から見つめ返している。
「大変名誉な申し出とは思いますが、私にはまだやらなければならないことがあります。
それに、それらを終えたあとも、私は仲間たちと冒険を続けないと生きている実感を持てないタイプの人間ですので、帝のものにはなれません」
はっきりとした拒絶。
レンやソーカもハラハラしてしまった自分たちを心のなかで叱責した。
それと同時に仲間と一緒に冒険をしてくれるという言葉が何よりも嬉しかった。
「うむ! そなたの言は見事! 妾を前によくぞ申した!
この国での自由は妾が保証する! 存分に冒険するがいい!
……そうじゃ、妾の頼みを断ったのじゃ、一個くらいはお願いしてもいいかのー?」
「内容にもよりますが……」
「妾、いや、ワシも龍の巣へ行くぞ!」
帝の爆弾発言で城中が大騒ぎになるのでありました。
テンゲン城内部はユキムラの期待を裏切らない重厚な木造建築の芸術だった。
「師匠凄いキョロキョロしてますね……、拠点もかなり複雑な作りであまり違いがわからないのですが?」
「何ていうのかな、しいて言えば歴史? 時間の重みが重厚な雰囲気を作っていて、それがすごく魅力的なんだよ」
「ユキムラ殿は老中の方々のような物言いをされますな。まだお若いのに」
「ユキムラちゃんはたまにそういう所あるわよねー」
「拠点でも縁側でお茶をすするのが一番幸せとか言ってますよねーユキムラさん」
「確かにあそこでぼーっとしてると気持ちいいですが、師匠のはほんと魂抜け出そうな顔してましたから……」
「な、なんかみんな酷いなぁ……」
拠点ができてからのユキムラは、訓練が終わると縁側でお茶をすすって、工房に篭って出てきたら縁側でお茶をすすっていた。
みんなにこう言われるのも仕方がない。
特にソーカは不満たらたらだった。
それも、今日の着物姿で解消されることは決定的に明らかであった。
たくさんの美しい絵が描かれたふすまが並ぶ廊下を進んでいく。
歩くとキュッキュと音がなる。
鶯張りと呼ばれるもので、この音で人が歩いていることがわかるという工夫だ。
ソーカなんかはこの床立て付けが悪いのかしら? なんて首をかしげている。
天守内は非常に大きく、しばらく案内され歩いて行く。
どこをどう進んだのか覚えるのも難しい。
ただ、ユキムラたちには俯瞰視点があるので、せっかくの苦労だが意味がない。
途中何箇所か美しい中庭を眺めながら、とうとう謁見の間へと到着する。
「こちらでおすわりになってお待ち下さい。すぐに帝がいらします」
板張りの部屋、見事な具足とおそらくとんでもない値段の陶器などが飾られた立派な空間だ。
部屋の手前に用意された座布団の上にちょこんと正座で座る。
西洋風だとゲーム気分で萎縮しないのだが、どうも和風だと緊張してしまうユキムラだった。
ユキムラのそんな姿に皆、習って正座で帝をお待ちする。
「ゆ、ユキムラちゃん……この座り方……きついわ……」
「ああ、そしたらこんな風にしてあぐらをかくといいよ」
ヴァリィは慣れていないのですぐにギブアップした。
「おまたせいたしました。テンゲン和国 帝 おなーりー……」
太鼓の音と共に上座の戸が左右に開く。
絹を思わせる薄い布が下がっており、その向こうに人の影がある。
ユキムラは自然と頭を下げて帝を向かえる。
これは事前に教わった所作だ。
「皆の者、面を上げることを許す」
綺麗な、ただ、少し幼い声が響く。
ユキムラ達は面を上げて帝の姿を視界に入れる。
美しい布は半透明状になっており向こうにいる人物を神秘的に演出する。
しかし、ユキムラ達の視線の先にいる帝は、まだ幼い少女であることは隠しようがなかった。
おかっぱの黒髪。大きな眼、可愛らしい唇。年齢は10歳くらいに見える。
それなのに、妙な迫力がある。威圧に近いと言ってもいい。
実際の見た目とのギャップで余計にその威圧を強力に感じるような気がする。
「そなたらが白狼隊か、妾の姿を見ても一切の動揺を見せぬのは流石じゃな。
見た目はこの通り見目麗しい幼女じゃが、中身は3000年も生きておる妖怪じゃ、注意せよ」
帝の発言が本気なのか冗談なのかわからない。
しかし、見た目通りのただの幼女でないことははっきりとわかる。
「帝、お戯れが過ぎます」
「ホッホッホ。許せケイジ。妾も見たことのない強者の気配に心踊っておるのじゃ」
帝に進言したのはソーシから聞いている。この国の軍事の頂点にいるケイジと言う男。
圧倒的な実力の持ち主でその華のある闘い方と生き様で兵からの絶大な信頼を得ている。
帝からの信頼も非常に高い。
しかし、ソーシ曰く中身は馬鹿、いやすっごい馬鹿らしい。
謁見の場での立ち姿はまさに伊達男という感じでヴァリィあたりは目の色を変えている。
「まぁ、冗談はさておき、ユキムラ。そなたは何者だ?」
「……来訪者でございます」
「……ふむ、なるほど。嘘……ではないな。
しかし、儂が見た来訪者とはだいぶ異なる存在に感じるな……」
「正直自分でも自分がどういう存在かわかってはおりませんので」
ユキムラは正直に話すことにした。
なんとなく、だが、嘘や隠し事は意味がないのもある。
別に隠すことでもない。
「素直じゃな。気に入った。ユキムラ、妾のものにならんか?」
帝! なんと…… 周囲の家臣たちがざわつくのがわかる。
しかし、ユキムラを見つめる帝の目には周囲の雑多など気にも止まらないようにじっと見つめている。
ユキムラもそんな視線を正面から見つめ返している。
「大変名誉な申し出とは思いますが、私にはまだやらなければならないことがあります。
それに、それらを終えたあとも、私は仲間たちと冒険を続けないと生きている実感を持てないタイプの人間ですので、帝のものにはなれません」
はっきりとした拒絶。
レンやソーカもハラハラしてしまった自分たちを心のなかで叱責した。
それと同時に仲間と一緒に冒険をしてくれるという言葉が何よりも嬉しかった。
「うむ! そなたの言は見事! 妾を前によくぞ申した!
この国での自由は妾が保証する! 存分に冒険するがいい!
……そうじゃ、妾の頼みを断ったのじゃ、一個くらいはお願いしてもいいかのー?」
「内容にもよりますが……」
「妾、いや、ワシも龍の巣へ行くぞ!」
帝の爆弾発言で城中が大騒ぎになるのでありました。
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