老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

213話 火山地下MD

 翌朝。アスリは寝室から出て、外に出て今自分がダンジョンに入ることを確認した。
 あまりに快適な、むしろ領主である自分の館よりも上等な場所で目覚めて、自分は王都のホテルにでもいるのだったか? と自分の記憶が混乱してしまうほどだった。
 外に出れば神秘的で美しい神殿のような通路。
 たしかにここはダンジョンの中だ。

「おはようございますアスリさん早いですね」

 ダンジョンの中なので外の時間はわかりにくいが、だいたい朝の5時くらいだ。

「ああ、習慣でな。ユキムラ殿はっとソーカ殿もいらしたか、おはよう」

「おはようございます! 我々も習慣ですね」

 それからすぐにレンもヴァリィも合流して朝の稽古、アスリも一緒になって身体を動かす。
 あの化け物じみた戦闘力をもつ白狼隊の朝の鍛錬が、あまりにも一般的すぎてアスリは肩透かしを食らったような気持ちになっていた。

「ユキムラ達のことだから何かとんでもない鍛錬をしているのかと思ったのだが……」

「僕達の強さはレベルと何と言っても装備ですから。それにきちんとした知識、これらの合わせ技ですよ」

「いや、師匠は別次元ですから……」

「えー、そうかな? ちょっと人より慣れてるだけだよ戦闘に」

「ちょっとって……ユキムラさん、謙遜も行き過ぎると嫌味に聞こえますよ……」

「えーソーカまで酷いなぁ……」

 こうしていると普通の優男にしか見えないが、戦闘となると無限の魔法、技、スキルを用いて前線でも後衛でも天下無双の戦いをするのだから、ユキムラという人物は恐ろしい。
 アスリは心の底からそう思わざるを得なかった。

 鍛錬を終え、汗を流す。
 朝食はコッペパンに油であげた魚と野菜をはさみ、そこに野菜の酢漬けを混ぜたマヨネーズ、タルタルソースを使用する。
 マヨネーズも青筋立ててかき混ぜる必要はない、スキルを使ってグルグルポンで出来上がりだ。
 それにジャムを入れたヨーグルトに紅茶。優雅な朝食だ。
 ひとつひとつの味わいも素晴らしい。
 アスリはもう毎日ダンジョンでいいや。なんて気持ちにさえなる。

「朝身体を動かして気がついたが、たった一日で身体の動きがまるでちがう。
 それこそ全盛期のように身体が動く……」

「一説にはレベルが高い人間は老化も遅いなんていいますからね。アスリさんもすでにレベル200を越えていますから別の人間になったぐらい変わっていると思いますよ!」

 アスリはこの時ユキムラも冗談を言うのだなぐらいに思っていたが、戦闘が始まり自らの動きが別次元になっていることを理解した時、この発言に嘘偽りが一切ないことに気がつくのだった。

「そしたら火山部分に入るので引き続き気を引き締めて行きましょう!」

 ユキムラは扉を開き次のエリアへと侵入する。
 ユキムラの言葉通り、扉の先は美しかった通路とは打って変わって、過酷な世界が広がっている。
 マグマが固まりゴツゴツとした火山岩で形成された道、左右にはマグマが広がり、一歩でも踏み外せば骨も残らずに燃え尽きそうだ。

「たぶん落下ダメージだけだし、対策してるからなんともないけど……
 マグマの海を泳ぐのは勘弁したいから足元には気をつけよう」

 みな同じ思いだ。

 天井は高く大空洞内いたるところで上部からマグマが滝のように降り注いでいる場所がある。
 時折火柱をあげる場所などもあり、この地で生息している生物はこの過酷な環境に耐えうる強靭な肉体を持つことを裏付ける。

「さて、最初のお客さんが現れたよ」

 最初の戦闘は火の精霊であるサラマンダー、燃え盛るワニと言えば分かり易い。
 マグマから平然とのそのそと出てきた。その動きが少し可愛い。
 それでも超高レベルのサラマンダーはこの世界では恐竜みたいなものだ。
 油断をすればその鋭い顎に噛みちぎられるか、丸太のような尾で叩き潰されてしまう。
 火球を吐き出し、その尾をムチのように攻め立てるサラマンダー、中位ぐらいまでの魔法まで行使してくる。
 それでも白狼隊の前では通用しない。
 ソーカは乾坤圏を試しながら確実にその技術を自分の物にしていっている。
 変更された鎧のデザインと相まって敵の間を舞を舞うように戦っているように見える。
 レンは範囲魔法の冷気で全体の敵の行動を鈍らせる。そこにアスリの矢が突き刺さる。
 冷気を帯びた矢が当たると急速に冷凍されボロリと崩れ落ちる。
 タロは因幡の白兎よろしくサラマンダー達の背中を飛び移って遊んでいる。
 ヴァリィは吐かれる火玉を打ち返してみたり。
 まぁ戦闘の感じを確かめながら蹂躙していく。

「うーし。問題ないね」

 内容は完璧、危なげのない戦闘。
 場所が変わっての最初の戦闘はユキムラはいつも慎重に戦うことにしていた。
 初戦が終われば後はいつも通りマッピングをしながらの侵攻になる。
 このダンジョンは起伏にとんだ作りだが巨大な一枚MAPになっているので、見えるところでは先の方の道や宝、敵の存在を把握しながらすすめることが出来る。
 時折東屋のような作りの建物が存在していて、そこがセーフエリアとなっていたり、強力な敵と宝が置いてあったりする。
 まさか火山の下にこのような巨大な空洞や建造物が有るなんて誰も思わない。
 平面MAPは先が見える分状況を把握しやすいが、その分いつ終わるともわからない広大なMAPを見ながら進むので少しゲンナリすることもある。

「師匠、長いですね……このダンジョン……」

 もう20日目になっている。
 階層が変わるとなんとなく人間は進んでいるような気分になるが、そういったものがないと終わりが無いんじゃないか? という気持ちにさせられる。

「でももう7割以上は来ているはずだよ、あの巨大な山の麓が目的地だったと思うから」

 火山の下に火山が有るかのような巨大な山、そこがこのカルフーイ火山の中央だった。

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