老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

191話 ダンジョン in ダンジョン

 垂直のトンネルを白狼隊のメンバーが落下する。
 跳ね上がった龍の衝撃で壁面に叩きつけられるが、まるでクッションのようにブニョブニョと跳ね返され、もみくちゃになりながら落下していく。
 本人たちは龍が飛び上がったことに気が付きもしない、ただめちゃくちゃになりながらトンネルをどんどんと落下していく。

「きゃーーーーーーーー」

「うおっ! うおーー!」

「きゃーーーーーー(野太い)」

「そろそろかなー、『フライ』」

 ユキムラの魔法でゆっくりと落下していくと広めの井戸のような構造から少し開けた部屋みたいな場所へと降り立つ。
 足元はぶよぶよしているし、壁面も脈動しているようだ。

「これが、さっきの龍の中……」

 レンは周囲を興味深く調べている。

「歩いているはずなのにほとんど揺れないんですね……ちょっと気持ち悪いですけど……」

 ユキムラはココロの中で、美味しそうって言い出さないことにホッとしていた。

「もう一つのダンジョンとも言われる巨竜の内部。
 それじゃぁ、コアである心臓まで進むよー。
 敵は巨竜の細胞たちや内部の寄生虫だから気合を入れていこう!」

 全員気合を入れて巨竜の内部ダンジョン攻略へと向かう。
 なぜ龍の内部にこのようなダンジョン構造があるのかは運営会社であるレインボーに聞いてほしいが、VOでは結構人気のあるダンジョンだった。
 本当ならもっと巨竜とバトルしてから取り付き、そして侵入になるんだが、ホバーボードなど色々開発したおかげでスムーズに内部へと侵入できた。

「タロかじっても壁とか床扱いだからちぎれないと思うよー」

 タロがガジガジと壁をかじっていた。おちゃめなタロもかわいい。

 暫く進むとうねうねとした真っ白いミミズのような敵が現れた。
 気持ちが悪いことにさきっぽは口みたいになっていて、開いた内部に牙がびっしりと生えていてもぞもぞと動いている。内部寄生中の一種だろう。
 それが集団と、小さな龍のようなスライム状の敵が同時に現れた。

「白い長いほうが寄生虫、スライムみたいなのが巨竜の細胞だと思う」

「弱点は基本的に毒属性でしたよね」

「そうそう、あとは火と風に耐性持ってることが多いよ。結構個体差大きいから毒で攻撃するのが無難だね」

 ユキムラが作り上げたえげつない毒を魔法で武器に付与する。
 ユキムラも毒属性付与と相性がいい短刀二刀流に換装する。
 ソーカは小太刀二刀流、似てるけど少しこちらの方が刀が長い。
 ヴァリィは棍の先に禍々しい爪のような突起が付いている。これで削られたら、さぞ痛いだろう……
 タロも禍々しいデザインの爪に変えている。
 毒属性の武器はイメージが先行しているがおどろおどろしい見た目が多くなっている。
 毒があるぞぉーって見せたら警戒されると思うんだが……ユキムラは常々疑問に思っている。

「きもい! 怪蟲キモい!!」

 口から分泌物を出しながらウネウネと迫ってくる虫はでかくて気持ちが悪かった。
 ぶつ切りにしても本体側の端っこからまた口ができて襲ってくる。
 捌くように縦に切込みを入れて全身に毒を回して殺していくしか無い。

「毒が入るとあっという間ねぇ~怖いわぁ~」

「かなりこだわったからねー、各種ステータス低下、持続体力減少、麻痺、痛覚増強などなど様々な効果をミックスしてるからね!」

「師匠毒を語る時生き生きしますね」

「ちょっと、引きます……」

「え、酷くない?」

 今最後の敵を倒せたのも間違いなくユキムラが作った毒のおかげだが、メンバーの評価はすこぶる低かった。可哀想なユキムラ。
 このダンジョンで一番今までのダンジョンと違うのは、ダンジョン構造が変化する。
 生きているからという『設定』だ。

「まぁ、ギミックであることがほとんどだけどね。レンーあそこに垂れ下がってるのにファイアーボール打ってご覧」

 レンはユキムラの指示に従い天上から垂れ下がった物体へファイアーボールを当てる。
 同時に目の前の壁が左右に開いて新たな道が出来る。

「こういった仕掛けがたくさんあるんだよねー」

「え、こんなのわからなくないですか?」

「ところが、俺の昔の仲間達は当たり前のようにこういったことを思いつくんだよねー……」

 RPGゲーム慣れしている日本人の順応力は高い。
 その後2本の垂れ下がりに交互に当てながらパズルのように進んでいくギミックや、動く床やら各種ギミックをこなしながら戦闘だけとは違う疲労感をメンバーが感じ始めた頃にコアである心臓がある部屋に到着する。

「アレが巨竜の心臓だ」

 巨大な赤い塊が力強く拍動している。
 離れていても溢れ出ているエネルギーの波のようなものを感じる。
 アレだけ巨大な身体を動かしているすべての力がここから発せられている。
 拍動のたびにその莫大なエネルギーを浴びているような感覚になる。

「これは……凄いですね……なんだか、感動します」

「凄いな、こうやって立体的な動きを見るとレンの言うとおり感動するね」

「さて、お二人さん。やっぱり簡単には壊させてくれないみたいよ~」

「なにか、来ます!」

 壁から大量のヌメヌメとした細胞が一つの形を形成していく。
 この生物のコアを守る最後の戦士が形作られていく。
 ドラゴンナイト、巨体のドラゴミュートの戦士の姿が現れていく、いかついドラゴンの顔が現れる。
 しかし、そこで突然ピタリと動きが止まる。

【よいしょっと、やっと来たかぁー】

「喋った!?」

 レンが警戒して距離を取る。

【ああ、これは借り物だけどね。最近邪魔する女神の使徒を見とこうかなーって思ってね。
 女神の目を盗んで出て来るにはこのタイミングしか無いからさ】

 妙に軽い口調の魔物、異質な雰囲気が逆に不気味だった。

「お前は何者なんだい?」

 ちょっと江戸っ子みたいな聞き方になってしまうユキムラ。

【目と口だけ借りてるだけだけど、魔神の仲間だよー。
 ま、挨拶はこんぐらいで、この身体は君たちをとっとと排除したくて仕方ないみたいだから。
 おいらとは君たちが順調に進んでいけばそのうち会うよー】

 ブツリと電源が落ちるようにだらりと腕を下ろすドラゴンナイト。
 再び動き出すと先程までの飄々とした雰囲気は微塵も感じない。
 白狼隊への明確な敵意。
 ギラリと赤く光る眼がメンバーを睨みつける。

【ギャロオオオオオオオオォォォォォ!!】

 龍の咆哮。ビリビリと空気を震わせ敵の戦闘準備は完成する。
 巨大な青龍刀を構えた巨躯の戦士がそこに立ち塞がる。








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