老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

183話 憑き物

「脅威を排除せよ」

『起動コード認識、オーダー受領、実行開始』

 ハルッセンのコマンドを受けたGUは即座に起動する。
  ユキムラが趣味でつけた起動時の台詞も滑らかに唱えられ隠れてユキムラがガッツポーズしている。
 GUはヴァリィが抑えている二匹を凄まじいスピードで抱きかかえ、ハルッセンや街の人達から距離を取る。

「あらー、賢いのねー」

「人間に危害が加えられない方法を優先して選択していきますから」

「あのさぁ、私が言うのも何だけど。殺さないで森に返さない?」

「そうですねぇ、どうしますハルッセンさん?」

「え、ああ……そ、そうね。森の生体バランスが崩れても困るわね……」

「そしたら目標を気絶させろって命令してください」

「も、目標を気絶させろ」

 抱えていた二体をヒョイッと10mくらい先に放り投げるGU、それだけでも街の人達からすればとんでもないパワーで度肝を抜かれている。
 しかし、直後に更に衝撃をうけることになる。

 バゴーーン!! 凄まじい音が響く。
 グレートシルバーベアの頭が地面に叩きつけられていた。
 GUによる単純な叩きつけだった。
 だが、街の人間にはGUの動きは捉えられない、突然轟音と共にベアが這いつくばっている。
 何が起きているかわからないまま狼狽えるしか無い。
 ゴン!! 少し控えめな音ともにグリズリーも地面に突っ伏している。
 相手個体によって力も調節する、そういう汎用性の高さが伺える。
 GUはほんの数秒で街の人間、いや街にとっての脅威を完全に排除することに成功した。

「あまり長い時間気を失っているわけではないのでさっさと森へ返してきましょう。
 ハルッセンさん森へ返してこい、とお願いします」

「森へ帰してこい……」

 半ば放心状態でレンの言葉を鸚鵡返しするハルッセン。
 轟音にビビって少し、ね。少し、ね。
 ギルドマスターと兵士長が水たまり作ってる程の衝撃を受けながらも耐えたのだから流石領主だ。
 ヴァリィはなにも言わずに浄化の魔道具を皆に手渡す。
 全員恥ずかしそうに使用していた。
  何もなかった。全員の中ではそうなった。
 そう、何もなかったのだ。

 GUは森の奥深くに二体のボスを放り投げてすぐに戻ってきた。
 敵を制圧する攻撃力、一瞬で森との往復する機動力、状況を理解して行動する判断力。
 能力の実証は十分すぎるほど成功した。

「あまり驚きすぎると、逆に何も思わなくなるのね。
 いい勉強になったわ。
 これが8体に医療用が2体お貸しいただける……と」

 ふーーっと自らを落ち着かせるように深い呼吸をした後にハルッセンが深々とレンに頭を下げる。

「サナダ商会には感謝してもしたり無いわ、領民と街の安全のために適切に運用することを誓うわ」

 妖面な魅力あふれるハルッセンが素直に見せた微笑みにヴァリィは少し狼狽えた。

「あら、そういう表情のほうが素敵よ」

「女である以上、少し肩をはらないといけないこともあるのよ。
 レン殿、その節は大変失礼しました。
 圧倒的な存在がいるとわかって、小さな虚勢を張るのがバカバカしくなったわ」

 まるでつきものでも落ちたように柔らかい表情になるハルッセン。
 こちらが本来のハルッセンの本質なんだろう。

「ソッチのほうが素敵だと思いますよ、ね、ヴァリィ?」

「そうね、乙女は自然にしているのが一番。過度な装飾は魅力を殺すわ」

「あら、お上手ね。久々に乙女になった私のお相手はヴァリィさんに頼もうかしら」

「喜んで」

 執事のように深々と会釈するヴァリィ、思わず皆笑みが溢れる。
 シズイル領主ハルッセンとの会合は得難い信頼を掴む大成功に終わった。

 GUの配置は外部に4体、街中に6体ベイストの街と同様にする。
 強制コマンドは領主のみ、常識的なお願い事なら街の人間の言うことに従うようプログラミングする。
 こうしてシズイルの街の防衛問題も解決する。
 衛兵の武器や防具の刷新も約束して実りある会合は解散となった。
 ハルッセンからの夕食の誘いも喜んで受ける。

「と、言うわけで交渉は大成功でした」

「へー、ハルッセンさんは可愛らしい人なんだね」

「…………また、おっぱい……」

「ち、違うよ! 意外だなって思っただけだから!!」

「ふぅん……」

「ははは、ソーカちゃんもすっかり尻に敷いてるのね」

「そ、そんなことないです!」

「師匠ももっとどーんと構えていればいいのに……」

「えへへへへへ……」

「何にせよ、せっかくのお誘いだし皆の服は用意しとくわね~」

「よろしくー。さてソーカ達の報告を聞こうか」

 今日の活動の報告を終えて、ハルッセンの館へと移動する。
 迎えに来た馬車をその場ですぐに改造する。
 準備はしっかりとしていた。
 行者は改造された馬車の乗り心地に度肝を抜かれていた。
 こうして一行は車酔いすること無く領主の館へと移動することに成功する。

「ようこそいらっしゃいました。本日はどうか楽しんでいってください」

 爽やかなドレスに身を包むハルッセンはユキムラにしたら本当に別人のようだった。
 どぎついメイクからナチュラルなメイクになって、より一層女性としての魅力が高まっており、アピールせずに隠すことによって女性としてのグラマラスな体型が魅力的になっている。
 ソーカに足を踏み抜かれるまで鼻の下が伸びてしまう醜態を晒してしまう。

「お、驚きました。随分と雰囲気が違うのですね……今の方が素敵だと思います。
 本日はお招きいただきありがとうございます」

 謎のイケメンスキルが発現して社交辞令ではあるもののジゴロなセリフがスラスラと口をつく。
 ギロリと音がしそうなソーカの目線に冷や汗はかいたものの……

「あら、お上手ですわね。皆様もとっても素敵ですよ」

 今日の会の主人には好印象を与えることに成功したのであった。 


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