老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

105話 MDの仕様

「もう一度冒険隊を派遣しよう!」

「しかしもうすでに何度も……」

「それでも、それでも他に何も出来んじゃないか!!」

 ここはバルトールの街ダンジョン入り口。
 現在部下たちに悲壮な顔で指示をしているのがこの街のギルドマスター。
 サナダ白狼隊、王都のギルド本部ギルドマスターからの推薦状まで持ってきたパーティーが、ダンジョンへ入ってすぐに行方不明になったのだ。
 入り口で対応したものが消えたと言う証言を聞いても何を言っているんだかと一笑に付していたが、念のためにダンジョン証による探索をして、その存在が認められなかった時点で顔面蒼白になった。

 かれこれ探索から6時間ほど経過がしていたが、一切の手がかりを見つけることはできなかった。
 ギルドマスターの胃袋に今穿孔が空きかけたその時、ダンジョンから光があふれる。
 物理的に。

「な、なんだ、眩しい……」

 その光がギルドの建物内部を包み込んで、その光が収まるとサナダ白狼隊のメンバーがそこに立っていた。

「な……な、何が起きた……」

 目の前で起きたあまりに常識はずれな事態にギルド職員や呼び出された冒険者たちは腰を抜かしていた。

「おお、ここに帰ってくるのか」

「ありがたいですね、急いで戻ってももう5日位はかかっていたでしょうから」

「50階登るのはちょっとめんどくさいわぁー」

「ところで、ずいぶん人が多いように思いますけど。皆さんどうなさったんですか?」

 ソーカの問いかけにすぐに答えられる人間はいなかった。

「師匠、いきなり現れてびっくりさせちゃったんじゃないんですか?」

「ああ、そうか。すみません。ポストさんサナダ白狼隊ダンジョン制覇して帰ってまいりました」

 一瞬の静寂のあとに怒涛のような波が押し寄せる。

 ダンジョン制覇!? バカな!! まだ半日も経っていないぞ!!

 その後、その大混乱が収まって、ギルドの別室でポストと話す場が作れた頃には、すっかり夕方になっていた。

「つまり私達がダンジョンに入ってまだ半日程度で出てきた……と……」

 ユキムラがまたもやなぜか営業の人のような話し方になっている。

「でも皆さんは内部で7日は過ごしたと仰るわけですね。
 しかし、確かに最下層で得られると噂の宝の内容は、今まで最下記録の35階までで出るものとは別次元でしたし、信じないわけにもいかないのですが……いくらなんでも……」

「たぶん私が来訪者だからということが今回のことに影響しているんでしょうね……。
 最下層で女神に会うのも自分でしか出来ないんだと思います」

 そこには別に驕りも不遜もない、ただ事実としてそうなんだとユキムラが理解しているのだ。

「来訪者、女神解放の旅といい。信じられないことが起きますね」

 ポストもこの調子で来訪者という言葉一つで大概の異常な現象は納得するしか無い。
 この世界はそういうことなんだ。

「ところで最深部の宝についてはギルドで責任をもって精査を行い、あとで目録をお渡しします。
 サナダ白狼隊の皆様にはお好きなものを3点選んでいただきます。
 残りの品はギルドと王国が後ろ盾になるオークションに出品させていただきます。
 その収益の半分がパーティの取り分になります」

 ダンジョンにおける最深部の宝の扱いは国際的に決まっている。
 プラネテル王国と紛争状態にあるゲッタルヘルン帝国でもこれは同じだ。
 冒険者ギルドという国境を越えた強大な組織が存在しているからこその取り決めだ。

 国家が未発見のダンジョンを冒険者が発見してそのまま攻略した場合はその冒険者に全ての財宝を得る権利が与えられる。
 そもそも未発見のダンジョンを発見するだけでもギルドから規模にもよるが莫大な報奨金がもらえる。
 この場合のダンジョンはいわゆる生きているダンジョンのことで、サナダ街の近くのフィールド・ダンジョンはその報奨金はもらえない。

 その後、細かな契約を(レンが)交わして話し合いは終了となった。
 ソーカは一週間だと思っていた街との摂政がわずか半日になったので宿で内政仕事を片付けている。
 ヴァリィは女神と出会ったインスピレーションを作品にぶつけると馬車に篭っている。
 タロはソーカの足元で丸くなっている。

 バルトールの街は浮ついていた。
 前人未到のダンジョン攻略、しかもそれを成し遂げたパーティは半日で事をなした。
 パーティリーダーは最近話題の西のサナダ街の領主、しかもプラネテル王国最強と名高いガレオンを倒した。しかも伝説の来訪者だという、話題にならないほうがおかしい。
 最下層の宝物の規模も眉唾ものだが数億zゼニー規模になるかもしれないらしいなんて噂話も出ている。
 街全体が熱病にでもかかったようにその話題で盛り上がっていた。
 もちろん居酒屋的な場所はそういった熱の最前線だ。
 そんな場所に当の本人達がくればどうなるか……

「あらー、今日は凄いな。これは入れないね別のとこいこう」

 場違いなほど整った顔つきの青年が店に入ってくる。
 残念ながら店は満席だ。後ろに続く金髪の少し幼い顔つきをした青年、赤髪でそばかすだが鍛え上げられた戦士が出す雰囲気をまとう女剣士、それに一番の体躯を備えた大男、目線を下げると真っ白な狼。
 この異様な風貌が今話題のサナダ白狼隊であることを知らないやつはこの街では一人もいない。

「は、は、白狼隊だ!!」「ほ、本物だ!!」
「お、お客様どうぞこちらに、ほらお前ら席開けな! あっちに席作ってやるから!! あ、いえいえ大丈夫ですさぁどうぞ!」

「なんか、申し訳ないですね……」

「いえいえいえ、俺たちあっちで十分なんで。あ、あのー握手してもらっていいですか?」

「握手!? は、はぁ……」

 あ!ずりーぞ! お、俺も! 俺もだ!

 その後白狼隊に長蛇の列が出来上がることになる。


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