老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

97話 初めての本格ダンジョン

 ダンジョン。迷宮、洞窟、色々な総称のようなもの。
 VOではフィールド・ダンジョンとメイクダンジョンの二種類がある。
 前者はFD、後者をMDと呼ばれていた。
 FDは構造は決まっていて、中に出る敵なんかもある程度は一定。
 普通のフィールドよりは敵溜まりが起きやすく適正なレベルのレベル上げなんかにもよく使われる。

 MDは入るたびに構造が変化する。敵のレベルはパーティリーダーに依存して変化する。
 宝物やモンスターも毎度変化するので手頃に何度も入って金策やレベル上げに利用したりする。
 再侵入にはクールタイム、CTが必要で。一般的には1日に1回、3日に1回、一週間に1回が多い。
 エンドコンテンツは一ヶ月に一度とかあったりする。

 レベルキャップの開放に伴い、新ダンジョンを作ることを諦めた水増しのようなダンジョンと言う批判もあったりする……
 アップデートのたびになんのデータもなくてがっかりもしなくなっている。それが終末のVOプレイヤーの状態であった。イベントは各季節イベントの繰り返しが機械的に行われるだけ。
 目的もないレベリングと金策。超高性能チャットツールなんて呼ばれる有様だった。

 この世界の世界観としては、ダンジョンは生きており、その都度形を変える。
 だから宝箱なども変化する。また人を養分とするので呼び込むために宝を用意してる。
 ただVOと違うのはダンジョンが形態を変化させるのは決まって満月の日だそうだ。
 満月の日はダンジョンは人を拒絶して内部にいても吐き出されるそうだ。

 大ダンジョンと呼ばれるいくつかのダンジョンはだいたい近くに大きな街があり賑わっている。
 ダンジョンを制覇すると素晴らしい宝を手に入れることができて、それで富や名声を手に入れることができる。冒険者の憧れでもある。
 冒険者は登録してダンジョンへ潜り、その収益の一部はギルドへと収める必要がある。
 特に制覇時に手に入る宝には貴重な物が多く、一旦ギルド預りとなり、場合によっては国家を上げたオークションなどが開かれることになる。

 閑話休題。

 ユキムラはダンジョン突入のその日もいつも通り目を覚まし鍛錬をする。
 何も変わらない。
 それがメンバーに安心感を与える結果となっているが、本人は無自覚だ。
 慣れ親しんだ日課をさぁ今日もやるか!  ユキムラにとってはダンジョン攻略さえもその程度の認識だ。
 まぁ、何十年も毎日毎日効率の良いMDを仕事のように回していればそういう感情にもなるってもんだ。

 ソーカも朝の鍛錬は行っている。
 軽くユキムラと打ち込みをして汗を流す。
 レンは最近ユキムラから与えられた書物を読み、実践を日課としている。
 ソーカもレンもサナダ街との摂政もしながらなのでその有能さが伺える。
 今日からのダンジョン前に引き継ぎはしっかりと行っている。
 ある意味パワーレベリングされた能力が身体に馴染むまで制御に苦労しているようだ。
 ヴァリィはタロと散歩に行くといってこっそりと鍛錬をするタイプだ。タロだけは知っている。

 そんなわけで、いつもと変わらぬ感じで朝の食事を済ませダンジョンへと向かう。
 まだ朝の喧騒も控えめな街を4人と一匹は颯爽と歩く。
 その武具は朱でまとめられ外観のスタイリッシュさも然ることながら、魔力を纏っているのは間違いのない輝きとゆらめきが人目を引きまくる。

「師匠……隠せるのにこの光るのって何で残すんですか?」

「え……あれ? かっこよくない?」

「ええまぁ、綺麗ですけど……少し目立ちすぎてその……恥ずかしいかなぁって……」

 ソーカも身体のラインが強調されるように入れられている光るラインが少し恥ずかしいようだ。

「動かすと光が残って行く感じは素敵よねーでも」

「わかってくれる!? わかってくれるよね!?」

 ヴァリィがユキムラの理解者になった。

「なんつうか、光るのは浪漫というか……」

 その後ちょっと厨二の入った中身は50代のユキムラの浪漫論をギルドに着くまで聞かされ、苦笑いなパーティメンバーだったが、少し残されていたダンジョンへの緊張と恐怖感が和らいでいた。
 ユキムラはもちろん全くそんな効果を狙ったわけではない。

「おはようございます。サナダ白狼隊の皆様。ダンジョンプレートを確認させてください」

 ダンジョンプレートは万が一ダンジョン内で動けなくなったり危機に瀕した際、ダンジョン内の他のPTへと救援信号を出せたりするので装着することが義務化されている。
 つまりVOのMDとは仕組みが違う可能性が高い。
 VOのMDは作成したパーティ以外はダンジョン内には存在しない。

「確認ができました。皆様の武運をお祈りいたします」

 ギルドの職員に見送られダンジョンの入口に立つ。

「一応ヴァリィ頼むね」

 パーティリーダーを一時ヴァリィへと渡しダンジョンへと侵入する。

 ギルド職員は何の気なしにいつも通りダンジョンへパーティを送り出した。
 いつもと何も変わらないはずだった。
 しかし、今日はいつもとは違う日だったようだ。

 今、たった今送り出したサナダ白狼隊のメンバーがダンジョンへと踏み入れると忽然とその姿が消えたのだ。
 比喩ではなく消えた。
 すぐにギルドマスターへ報告し確認のために捜索隊を派遣したが、ダンジョン内に白狼隊へと渡したプレートの反応はなかった。

 もちろんてんやわんやの大騒ぎだ、ギルド本部からの推薦状付きの冒険者がダンジョンに入ってすぐに行方不明、しかも一地方で急速に勢力を伸ばしている街の領主様だ。
 これが明るみになればギルドの未来は……

 そしてしばらくして、彼らは更に驚くことになる。

 

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