老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

44話 発展にょきにょき

 宿へ戻ると泥のように眠った。
 昨日は色々とありすぎて疲れていたようだ。
 日課のランニングの時間が過ぎて宿の人に起こされるまで、レンとユキムラは惰眠を貪った。

 食堂ではすでに村長が朝食を楽しんでいた。

「おや、珍しくゆっくりじゃな」

「いやー、昨日は疲れてたみたいで……」

「すみません師匠、寝過ごしました」

 頭ボサボサのレンの髪を少し手ぐしで整えてやる。
 えへへへって笑顔が一日のやる気を起こしてくれる。

 朝は目玉焼きの乗ったトーストにウサギ肉のシチューで優しい味でとても満足した。
 美味しい料理を食べると一日気分がいい。

「さて、今後の予定じゃがもう数日滞在して村へ戻る感じかの?」

「そうですね、まだ少し回らないといけないところがあるのでそれが終わったら村へ戻ります」

「そしたら儂は先に戻っておくよ、丁度村から来た馬車もあるからの」

「わかりました、出来る限り早く戻るのでよろしくお願いします」

「まぁ、ゆっくりでええよ。連絡はこれで取れるしな」

「ギルドからも連絡取れるようになりましたし、さらにこの街とは取引が増えますね」

「いいことじゃ、村がさらに儲かる。
 財務関係もきっちりしといてやるでな、ユキムラ殿はまたどんどん発明をしてくれればいい」

「開発は楽しいですからね」

「師匠は一度始めると食事も睡眠も取らなくなるからちゃんとしないとだめですよ!」

「はっはっは、レンがついていれば安心じゃな!」

 昼前にジュナーの風を送ってきた馬車が帰るのでそれと一緒に村長も帰るそうだ。
 ユキムラはしばらくの村の運営を村長に任せてこの町でやるべきことをやるつもりだ。

「それじゃぁ、レン。行こうか」

「はい! 師匠!」

 今更だがジュナーの街を紹介しよう。
 表門からまっすぐと続くのが中央通り、様々な店舗も並んでいてこの街で一番賑やかな通りだ。
 だいたい町の中央部にある中央広場へつながっています。
 その広場からは左右に道が別れて円形に走っています。
 この中央の円形で囲まれた地帯がこの街の行政の中枢やギルドなどの公共設備が集まっています。
 この円形に敷かれた道路沿いは一等地なので比較的高級店が並んでいます。
 そのまま中央通りの反対側に道が続いていきますがここらへんはいわゆる高級住宅街になっています。
 そのまま進むと裏門です。
 裏門は正門に比べると小型で基本的には上流階級の方しか使いません。
 一般住宅は正門からの中央通りの左右に広がる道を進むとございます。
 魔物という存在がいる世界において防壁を設置しその内部に街を構成するのが一般的となっています。
 しかし、誰しもが防壁の内部に暮らせるわけではなく、防壁の外部にも家屋を建てて住む人間も多くいます。
 大きな街から近いので仕事も多く、人の出入りがあるので商売にも適している。
 防壁内の街を内街うちまち、防壁外に作られた集落を外街そとまちと呼んだりします。
 冒険者なんかは自ら外街に住むのを好んだりします。

 んで、今ユキムラとレンは外街へと来ています。
 昨日の領主との話し合いで依頼された外街部の治安悪化の改善に来ています。
 街の成り立ち上外街は、低所得者が集まりやすく、戸籍などもちゃんと所属しない人が集まる可能性も高くなります。とうぜん治安も内街に比べると悪化しやすい土台があります。

 まず、暗い。
 街灯などもちゃんと設置されていないエリアが多く夜になるとかなり不気味です。
 ユキムラは正直それを改善するだけでかなり状態の回復が図れると思っている。
 明るいだけで人々は安心感が生まれるし、それに魔物なども近づきにくくなる。

「そしたらどんどん建てちゃおうか」

 街の衛兵二人を連れて街灯設置である。
 レンとふた手に分かれて外街にどんどん照明を設置していく。
 衛兵さんが住人に説明をしてくれている。
 魔道具製の街灯はこういう場所に設置すると盗まれる可能性があるが、すでに盗難防止用の工夫がされている。単純にでっかい音がなります。でかでかと書いてあるのですが、一度ある程度ギャラリーが集まった時に実践して皆に説明をしておく。

 地面ごと持っていこうとしても移動を感じて大音量のサイレンが鳴る。
 魔石などを外しても鳴り響く。
 一回聞けばこれはそうそう持っていけないことがわかるほどの音量だ。
 静音魔法を使ってもいいけど、正直そこまでやってまで持っていくメリットはない。
 コスト削減を極限まで行われており、正直買ってもそこまでの値段はしない。
 10,000zくらいで購入できる。

 街灯設置もすっかり慣れたものだ。
 二人で4箇所の外街への街灯設置はスムーズに終わる。
 次は正門だ。

 すでに案はいくつか考えているから現地で色々と試して設置する予定だ。
 ユキムラもレンも楽しみにしている。これが開発バカと言うやつです。

「実際に目にすると大きいねーやっぱり」

「そうですね、師匠どれから試しますか?」

「一番かんたんな土魔石でやってみるか」

 ユキムラは上げられた扉の両側に魔道具を配置する。
 地面側と扉側に手慣れた手つきで設置していく。
 見学しに来たギルドマスターと領主もあまりにあっさりと設置が終わって拍子抜けだ。
 魔道具は、発動部位、操作部位。これだけだ。

「発動しますー」

 操作盤で操作すると門に取り付けられた装置と地面に埋め込まれた装置の間に石の柱が出来上がった。

「えっと、そしたら門を閉めてください」

 レンが門を操作する衛兵にお願いする。
 門を閉める操作をしても門は降りることはない、きっちりと石の柱で支えられている。

「強度は問題ないね、それじゃあ下げまーす」

 ユキムラが操作盤をいじるとスーッと門が下がっていく、あまりにもスムーズに閉じる扉に見学者は呆気にとられてしまう。ズーンと扉が地面について我に返る。

「ゆ、ユキムラ殿こ、こんなに簡単に?」

 思わず領主がユキムラのところへ来る。

「まぁ、まだ持ち上げる実験してないですから、せっかくだからレックスさんこのボタン押してもらえますか?」

「あ、ああ」

 操作盤を受け取り【開く】と書かれたボタンを押す。
 石の柱がすぅっと門を持ち上げて開く。
 手品でも見せられているようだ。
 あの巨大で重厚な門がいとも簡単に開かれる。

 「あら、一発でうまく行ったなぁ。レックスさんその緊急閉門ってボタンを押してもらえますか?」

 「……」

 あまりの光景に言葉も出ずに言われるがままにボタンを押す。
 門が急速に落下し、本当にギリギリでスピードが落ちて、ズーンと普通におろしたときと同じように閉まる。緊急閉門は今までだと凄まじい衝撃で、場合によっては門まわりも含めて作り直す必要があるほどに衝撃を伴う。それがないのに閉まるスピードは以前と同じ。もう理解の外だ。

「おー。もうこれでいいかな? いかがですかレックスさん?
 ……レックスさん?」

 完全に固まってしまったレックスを見ながらやれやれとレンが近づいてくる。

「師匠、普通の人だとこういう反応になりますからあんまり外で色々やらないでくださいね」

 レンに言われて周囲を見ると衛兵も町の人間もギルドマスターも大口を開けている。
 そっか、気をつけよっと。どこまで軽いユキムラである。
 そしてレンは知っていた。どうせこの人は気をつけないということを。



 

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