老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

43話 腐ってやがる

 コーサさんをリーダとするパーティ:ジュナーの風は全員ギルドランクCの中堅パーティだそうだ。
 今はそのジュナーの風と食事に来ている。
 洞窟での出来事を興奮しながら話すメンバー、その話を興奮気味に聞くレン、お酒も入ってテンションは上がっていく。 

 ギルドランクはルーキーは3ヶ月するとギルドランクに振り分けられる。
 ランクはG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSにわけられる。
 普通はFスタート。Gは最初にC以上のパーティの補助が必要になる。
 ユキムラはギルドマスター特例でAランクスタートだ。
 ギルドマスターはSSランクまで行っていた人だそうだ。
 あの強さもうなずける。

「それにしても、ユキムラ様はAランクですか、あの強さを目の前で見たので驚きませんが、凄いですね!」

 コーサはまるで自分のことのように喜んでくれる。

「コーサも喜んでばかりじゃないで目指さないとな」

 ショウが小突きながら茶化す。この二人はPT結成当初から一緒な幼馴染だそうだ。

 キタワー

「ん?」

 なんか今聞こえたような気がするけど……気のせいか。

「俺達が街についたらカシンがレイに掴みかかって大変でしたよ」

「しょうがねーだろ、こいつが俺を転送しやがったから……」

「しょうがないだろ、あの状態で一番可能性が高いのはあの方法だったんだから」

「ならお前が外に出ればいいだろ!」

「その話はさっきしたろ、僕がいないと多数相手に弱体かさせたりとか……」

「あーもうわかったよ!」

 ふてくされたカシンをレイが必死に弁明している。

 キマシタワー

 ん?また変な声が……

 「まぁまぁ二人共ユキムラ様の前でやめとけよ」

 ムスッと拗ねてしまうカシン。なだめるレイ、この二人も古くからの友人らしい。

「師匠は洞窟で大活躍だったんですね!」

 皆の話を聞いて目をキラキラさせているレン、ユキムラはそんなレンの髪をクシャクシャと撫でる。

 ショタキターーーーキタワーーーー!

 「ん?」

 明らかにリースとフローの方から聞こえた、ユキムラがそちらを向くとバッ!と下を向かれる。
 おかしい……

 そのまま歓談が進んでいくとみんな酒が入っているのか面白いテンションになっていく。

「ユキムラ様聞いてくださいよ、ショウはもっと真面目にやればすげー剣士になるんっすよ!
 なのにこいつスカしてて、努力はかっこわりーって感じでー……」

「おい、やめろよユキムラさん困ってるんだろ?」

「だったらもっと熱くなれよ!」

「うるせ、俺だって、お前の助けになるだろうって、頑張ってんだよ……」

「ショウ……」

 「ハァハァ……!」「ハァハァ……!」

 リースとフローの様子がおかしい、目を血走らせて二人を凝視している。怖い。

「ふ、二人共大丈夫?」

「大丈夫ですわユキムラ様」「大丈夫ですわユキムラ様」

 邪魔するなとでもいいたげに揃った返答をする二人。

「ハ、ハハハ……ちょ、ちょっとお手洗いに……」

 立ち上がったユキムラにショウとコーサが縋り付く。

「お願いしますユキムラ様、どうか俺たちを鍛えてください!」

「俺からもお願いします、コーサももっと強くなれるはずなんです!」

 その騒ぎを聞きつけたカシンとレイも参戦する。

「俺も鍛えてください! 今度はレイや皆も守れるようになりたいんです!」

「聞けばユキムラ様は魔法使いというじゃないですか!
 俺ももっと強くなりたいんです!」

「ちょっと皆さん師匠から離れてくださいー!」

「ふぃぃぉぉぉ!!愛の6角関係キターーーーーーー!!」

「フシューーーー!! ショタが正妻の座を譲らんと奮闘する、そしてユキムラに縋り付く4人!
 なにこれ!? 天国!? 天国ーーーー!!」


 だめだ、遅すぎたんだ……完全に腐りきってやがる……

 カオスな飲み会は一層カオスに混迷していき、ユキムラ以外のメンバーが全員酔いつぶれてお店から叩き出されるまで続いた。

「まったく、大人はだらしないです」

 レンは大好きなユキムラが取られそうでご立腹だ。

「レン、宿に行って人を呼んできてもらえるか?」

「はぁ、わかりました」

 レンが渋々宿屋に行こうとすると6人組の女性のパーティが通りかかる。

「ん? 誰かと思えばジュナーの風かい? おや? あんたは?」

 女性としてはかなり大柄な体格をもつ一人が話しかけてくる。

「ああ、ユキムラといいます。
 今日は彼らと飲んでいたんですが、この有様で」

 肩をすくめる様なジェスチャーをする。

「あーあ、だらしないねぇ。こいつらは弟分みたいなもんだ、ギルドの宿舎に放り込んどくよ、皆、運んじまいな」

 どうやらそのパーティのリーダーっぽい女性が指示を出すと、他のメンバーが軽々とジュナーの風の面子を担ぎ上げる。全員女性だがかなり鍛えられているようだ。
 リーダー格の女性は姉御肌で面倒見の良い人物のようだ。

「ユキムラっていうと噂のLv70超えのルーキーって奴だね。
 私の名前はハンナ、一応A級冒険者、春の華のリーダーをやってる。
 よろしく」

「ユキムラです、彼らを助けてくれてありがとうございます」

 差し伸べられた手を握る、その瞬間力を入れられる。
 小手返しかな、力に負ければユキムラは地面に伏せられる気配を感じていた。
 かなりの力だが微動だにさせず笑顔で握り返す。

「ほう……、噂は本当みたいだね。
 楽しみだ。またどっかであったらよろしく」

 スッと力を抜いて手を離し、ギルド方向へと歩いていく。

「ハンナさん!」

 ユキムラはアイテムの中から自慢の蒸留酒を取り出しハンナへ投げる。

「お礼です!」

「気が効くじゃない! あとで楽しませてもらうよ!」

 ぶんぶんと手を振りながら街の闇へと消えていく。

「すごい迫力の人でしたね」

「ああ、それに、かなりやるね」

 ユキムラは手を見せる、見事に手の跡がくっきりと残っている。

 あんな人がたくさんいて、これから沢山であっていくのだ。
 これからが楽しみだ。
 ユキムラは空を見上げる。
 空には満天の星空が彼らの未来を祝福するかのように輝いていた。


 「……いいね、気に入ったよ」

 ジュルリと舌なめずりをする女性が一人。その瞬間ユキムラの背筋にゾクリと寒気が走る。

 「飲みすぎたかな?」

 二人が再び出会うのはいつになるか、ユキムラの貞操は守られるのか!?

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