俺の高校生活に平和な日常を

ノベルバユーザー177222

第10章 #6「試着」

 ---「これはー、緑川君のやつね」

 「……」

 早川さんが名前を呼ぶと、再び静かな空気に変わっていた。無論、今度は盗み聞きするために黙っているわけではなく、だれが試着させられるのだろうかという緊張感によるものだった。

 「…な、なあ早川。これ、ホントに着なきゃいけないの?」

 そんな中、名前を呼ばれた緑川は早川さんから渡された女子用のスク水を手にしたまま、早川さんに問いかけていた。たしかに、いくら男の前どいえど、女子用のスク水を着るのには抵抗あるのだろう。俺だってやだし。

 「あったりまえじゃん! 採寸はしたけど、実際に試着してもらわないとサイズが合ってるかどうかわからないじゃない! ほら、同じMサイズでもちょっとぶかぶかしてたり、ちょっとキツかったりするでしょ?」

 「そ、それはそうだけど…」

 「当日着て、キツくて大事なところ痛めても知らないよ!」

 「わ、わかったよ」

 しかし、早川さんに言い負かされ、緑川は泣く泣く物陰に隠れながら着替え始めた。

 「……」

 そんな光景を見た俺達により一層緊張感が漂っていた。次はだれが犠牲になるのだろうかと考えてしまっていたからだ。

 ---「これは渡部君ので、こっちは林君の。あとこれは山田君のね」

 緑川から始まり、次々と衣装を手にしながら名前を呼ぶ早川さん。その度にホッとするものもいれば、呼ばれてテンションがだだ下がるものもいた。まるで閻魔様が天国に行くか地獄に行くかを判別しているかのようだ。

 女子数人がいる中で女物の服を着させられるというのもなかなかに辛そうだった。呼ばれた男子達が恥ずかしそうに物陰で着替えているのを見てそう思った。

 そんな人達を見て、小学校の時にブリーフを履いていた子が、体育着に着替えるときの光景をふと思い出してしまった。俺もそうだったけど、あの時間はなかなかに恥ずかしくて辛かった。

 「次ー、佐藤君!」

 「ッ!?」

 そんなことを思い出していると、とうとう早川さんから俺の名前が出てきた。どうやら俺ので最後のようだ。クジ引きのときといい、なんたる悪運だ。

 しかし、どのみちみんな着せられる羽目になるのだ。今さら反論したってどうにもならない。自分にそう言い聞かせ、俺は早川さんのところに歩み寄って行った。

 一体、『アレ』のデザインはどうなっているのだろうか? 俺はすぐにそのことが気になってしまった。せめて『アレ』のデザインが『アレ』と似たようなものでなければいいのだが。

 「はい。佐藤君はこれ着てね」

 「ッ!? こ、これは…」

 俺は早川さんから衣装を受け取ろうとしたとき、自分の着る衣装を見て、驚愕させられるのだった。

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