第9章番外編　#3「無理しないでね」

　---「えへへー♡　おいしーねー、乱子ちゃん♡」

　「えっ、ええ。そうね」

　花はパンケーキを頬張りながら、嬉しそうな表情を浮かべていた。私も花につられて一口食べてみたが、なかなかに美味しかった。

　本来なら下校中にパンケーキを食べに行くなんてこと、注意すべきなのだが、花に押し負けてしまった。私ってば、意外と押しに弱い気がする。

　「…ハア」

　「？　どうしたの、乱子ちゃん？」

　「えっ？　う、ううん。なんでもない」

　美味しいパンケーキを食べれて幸せなのだが、ふと昨日のことが頭から離れられず、無意識のうちにため息をついていた。

　せっかくの憩いの時間だというのに、昨日のことを思い出したせいで全部台無し。そんなことを思っていると、また無意識のうちにため息をついていた。

　「乱子ちゃん」

　「ん？　なに？」

　すると、花は私の名前を呼んできた。そんな花の表情は優しい笑顔を浮かべながらも真剣な面持ちでいた。その表情は真面目な話をするときの表情だった。

　「無理しないでね」

　「ッ！？」

　そして花は一言そう言った。その一言に私はショックを受けた。

　いつもふわふわしていてあまり人のことなど気にかけなさそうなイメージを持たれる彼女だが、実はその逆で、むしろ人一倍気にかけるタイプだった。

　きっと、このお店に連れてきたのも私を気にかけてのことだろうと今になって思う。

　「…うん。ありがとう、花」

　「えへへ♡」

　そんな花に私は感謝の言葉を述べると、花は嬉しそうな表情に変わっていた。喜んでもらえてなによりだ。

　「じゃあこれもらうねー♡」

　「…えっ？」

　そう思っていた矢先、花は私のチョコとバナナの乗ったパンケーキを勝手に食べ始めた。さっきまで花に感銘を受けていた私は思わずキョトンとした表情を浮かべていた。

　「えへへ♡　乱子ちゃん、油断しすぎだよ！　あんまり油断しすぎると、私が全部食べちゃうからね♡」

　「……」

　花のイキナリの不意打ちに私はしばらく呆然としたあと、ふつふつと怒りが湧いてきていた。

　「じゃあ、あと一口だけ…」

　「…はーなーあー！」

　「ッ！？　ら、ランコーちゃん？！」

　「ッ！？」

　さっきまでいいことを言っていた花だったが、私のパンケーキをさらに横取りしようとしていた。そんな花を見て怒りが沸き立ってきた私はとうとう怒りを堪えきれなくなっていた。

　そんな私の異変に勘付いたのか、花は私を見て驚愕していた。あまりの驚愕っぷりに素の呼び方に戻っていた。

　「その呼び方で、呼ぶなーーーーー！！」

　そして私の怒声は店内に響き渡るのだった。