俺の高校生活に平和な日常を

ノベルバユーザー177222

第8章番外編 #17「もう2度と」

 ---「それじゃあ私、そろそろ帰るね」

 「あっ、うん」

 日も暮れ始めた頃、私はそろそろ帰ることにした。本当はちょっとだけいるつもりだったのだが、気がつけば面会時間ギリギリまで残ってしまった。

 しかし彩香が記憶を思い出すことは最後までなかった。私からすれば喜ぶべきか悲しむべきか微妙なところだが。

 「それじゃあまた今度、学校でね!?」

 「……」

 「? 綴さん?」

 私が病室のドアに手をかけたとき、彩香の一言に私はドキリとさせられ思わず止まってしまった。その様子を見て彩香は首をかしげた。

 「な、なんでもないなんでもない。それじゃあまた今度ね」

 「あっ、うん…」

 私はごまかすように苦笑の表情を浮かべながらドアを開け、病室を後にした。

 ---「…ハア…」

 病院から出て帰宅している道中、私はため息をついた。

 『それじゃあまた今度、学校でね!?』

 「また今度学校で、か…」

 ため息をついた後、彩香のあのときの一言をふと思い出していた。

 「また今度学校で、また今度、学校で、また、今度…」

 私は呟くように何度も繰り返し口にしていた。

 『触んな、このバケモノ!?」

 「ッ!?」

 何度も呟いていると、今度はあの事件のときに言われた一言を思い出してしまった。

 改めて思うが、同じ人物が言ったようなセリフとは思えなかった。

 あの事件のときの彩香の表情が未だに鮮明に残っている。まあまだ日が経って浅いから当然なのだろうが、きっとこれからもあの表情を思い浮かべてしまうだろう。

 「…今度会ったら、あのときのこと、思い出しちゃうのかな?」

 私はふと自分に向かってそう問いかけてみた。

 ひょっとしたら今度会うときにはあのときのことを思い出しているかもしれない。

 「…イヤ」

 そうなったら今度はどんな顔するのだろうか?

 「…イヤ、イヤ」

 またあのときのような顔をされるのだろうか?

 「イヤ、イヤ、イヤ」

 イヤだ。もう2度とあんな顔をした彩香を見たくない。

 「イヤ! イヤ! イヤ! イヤ!」

 怖い、こわい、コワい、コワイ、コワイ。

 私はそれがとても怖かった。またあの顔を思い出すだけでも全身が震え上がってしまうほどに。こんな感覚を覚えたのは生まれて初めてだった。

 「…もう私、彩香には会えない…」

 ---もう2度と彩香には会えない。そう思った私は、彩香が退院する前に転校することにしたのだった。いきなりのことでクラスメイトだけでなく、担任の先生も驚いてたっけ。

 もちろん、そのことは彩香には告げることはなかった。彩香は後々知ることになっただろう。

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