第8章番外編　#15「私の罪」

　「がっ！？　ぐぅっ！？」

　私が突き飛ばすと彩香は顔から勢いよく転がり落ちていった。このままだと川の方まで辿り着いてしまうかもしれない。

　河川敷の川の方は土砂降りの影響で川の水が増量し、濁流と化していた。

　しかし、不幸中の幸いというべきか、下の方まで転がり落ちたもののギリギリ濁流には巻き込まれずに済んだ。危うく濁流に流されてしまうところだった。

　「ハア…ハア…ハア…」

　私はしばらく倒れている彩香を見ていると、ようやく自分のしたことに気がついてしまい、過呼吸に陥ってしまった。

　私は彩香を、唯一の親友を突き飛ばしてしまった。しかもおもいっきり突き飛ばしたせいで顔から転がり落ちていった。

　転がり落ちていった彩香は数秒ほど身体が痙攣した後、ピクリとも動かなくなった。

　「ア…アア…アアア…」

　私はそんな彩香を見て、自分のしてしまったことに罪悪感を覚え、その罪悪感に押し潰されそうになっていた。

　もしかして、私は彩香を殺してしまった？　動かなくなったし頭の方から血だまりが出来てるし。

　「姉ちゃん？」

　「ッ！？　司…」

　私が罪悪感に苛まれている中、司が私に声をかけてきた。どうやら自分で頭を拾って取り付けたようだ。

　「……」

　「ね、姉ちゃん！？　どこ行くんスか？」

　私は司の方を振り向くなり司の手を掴み、その場から一目散に走り去って行った。

　脇目も振らず走った。ただただ走った。とにかく走った。必死に走った。

　彩香を突き飛ばしてしまったという現実から目を背けたかったというのと、司のことを隠すために、とにかくこの場から逃げ去りたかったのだ。

　---「ハア…ハア…ハア…」

　一目散に走り去った私は自分の家に着くと、玄関の前で息切れしながら滑り込むように倒れ込んだ。

　これも不幸中の幸いというべきか土砂降りだったからか、人はほとんど見かけなかった。おそらく私が彩香を突き飛ばしたときも近くに人はいなかったと思う。

　「うっ…うっ…うぅ…」

　私は玄関に倒れ込むと再び罪悪感に苛まれ、大泣きしてしまった。

　私はとんでもないことをしてしまった。人を突き飛ばした挙句に殺してしまった。これはどう考えても立派な犯罪だ。

　私は罪を犯してしまったのだ。それにも関わらず、私は逃げた。決して許されることではない。

　そうわかっていても、司を守るために逃げたのだ。そんな葛藤もあり、私の涙は止まることを知らなかった。

　「…姉ちゃん…」

　そんな私の泣いている姿を司はただただ見守っているのだった。